「純粋なるもの」 島 朗

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河出書房新社 ★★

 

shimaakira.jpg著者は棋士。その実力そのものより、むしろ羽生など若手の参集した「島研」主催者として有名になってしまった印象。将棋界の語り部 河口七段(たぶん七段?)によると、確か洋装お洒落派の嚆矢みたいな書かれ方をしていたような気がする。ラルフローレンあたりを着こなした最初とか。

中身は、先輩から見た「チャイルドブランド」の連中、羽生とか森内、佐藤、郷田といった棋士たちの凄さ、考え方、エピソード集ですね。たぶんゴーストライターは使っていません。多少文章に自信のある将棋指しが、ま、渾身の力を入れて書いたというようなものです。それだけに読みづらい部分もあり、面白い部分もある。

棋士同士ってのは、面白い関係です。みんな少年時代からの仲間でもあり、ライバルでもあり、なんせゼロサム社会ですから誰かが上昇すれば誰かがひっこむ。敵のようでもあり、仲間のようでもあり。仲がいいからといって気を許すのはやはり勝負師ではない。ツンケンばかりするのは仲間じゃない。

全体を読んで印象に残ったのは、やはり羽生のこと。みんなにとって羽生対策というのが大変な課題なんですね。羽生に気後れしたら最後。でも認めないのはアホ。悪いやつじゃないことは百も承知だけど、対局中のあの目つきが気に入らない。あのザーとらしい手つきはなんだ・・・。

誰だったか忘れましたが、「なんで羽生さんは駒を打つとき、わざわざ左上から大きく右下に手を振って打つんですか。どう考えたってあの動きは無意味。合理的じゃない!」とブツブツ言っていた棋士のエピソードがある。イライラするんだろうなー。それを言うなら熱血シニア加藤一二三の動作なんて、相手から見たら腹が立って仕方ないでしょうね。仁王立ちにはなるわ、ベルトをずりあげるわ、自分の背後にはまわるわ、だいたいあの超長いネクタイはなんだ・・悪趣味な。えーい、腹が煮える。

というように、なかなかの一冊です。ちなみに「純粋」ってのは棋士たちの心のことみたい。自分で言うのもちょいとナンですが。