「IT」 スティーヴン.キング

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文藝春秋 ★★

 

it.jpg新聞か何かで「キングの最高傑作」と読んで気になっていたのですが、なぜか単行本を見かけることがなく、で、とうとう文庫4冊を発見。長い長いストーリーです。

なるほど。内容は「スタンドバイミー」と「呪われた町」の合体ですね。とある夏、7人の少年少女(あれ? 女の子が主人公の小説って、他にあったっけ)がお馴染みメイン州の町外れで出会い、冒険し、友情を確かめあい、悪に挑戦し・・・そして27年後、中年となった7人がまた小さな町に引き寄せられて行く。

私、おそらく最初に読んだキングものが「呪われた町」です。実に新鮮でした。美人のヒロイン(というような設定だったはず)があっけなく吸血鬼の仲間に入れられてしまう。飲んだくれの神父がふと自信をもって聖水を振りかけると教会の扉がはじける。でも吸血鬼に不信心を問い詰められると、聖水はたちまちただの水に変貌してしまう。

「聖水」は教会で祝福されたが故に聖なる力を持っているわけではなく、神父が信念と誇りを持って振りまくが故に悪への攻撃力を持っている。パワーの源は「想像力」と「信頼」「信念」です。

というわけで、この長編でも子供たちが悪と戦う武器は想像力。ちっぽけな吸入器に入ったカフェイン入りの水でも「これは強力な酸なんだ!」と少年が想像力を働かせたとき、悪を破滅させる必殺武器となります。

たぶん綿密に計算された大長編です。最後まで飽きさせないのですが、惜しむらく最後の方で出てくる暴力オヤジ(元少女=服飾デザイナー の亭主)、美人妻(元少年=作家 の妻)が破綻。もっといろいろ活躍するはずだったと思うのですが、たぶん書き手のキングが疲れてしまった。暴力オヤジなんて、けっこう「悪」という雰囲気だったのに、結局何もしないで死んでしまいます。美人妻も特に何も行動しないうちに魂をなくして蜘蛛の巣につり下げられてしまいます。

ま、多少の瑕瑾はありますが、読み終えると暫くボーッとする。なんといっても圧倒的ボリュームだし、お馴染みのキャラクターやら小道具も満載。あのシルバーという重量自転車、何の本で登場した代物だったっけか。この本の中でも大活躍します。