「中国 危うい超大国」 スーザン・L・シャーク

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★★★ NHK出版

chuugoku.jpg中国政府が反日教育に必死なことは知っていいます。反日デモ、反米デモを半ば公認、あるいはひそかに煽動していることも知られています。しかし、何故か?

中国ブログの翻訳サイトなどでは、ひたすら「日本を憎む」という言葉が出見られます。翻訳のせいかもしれないが「嫌い」ではなく「憎む」です。理性的な意見をのべる書き込みであっても、かならず冒頭に「私は日本を憎むが、しかし・・」という前置き。これのない書き込みは皆無。

枕詞ですね、たぶん。それを付記しないと「小日本にへつらう売国奴」というレッテルを貼られてしまうんでしょうか。

日本を憎む理由としては、戦争中の蛮行と被害、その後の歴史認識の問題、教科書問題、靖国問題な、尖閣湾どが列挙されるでしょう。でも、釈然としない部分が残ります。現在も不快な感情は残るだろうが、でも国家をあげて大騒ぎするような大問題ではない。

たとえば日本のロシアに対する感情は良くありません。大戦末期の侵攻もあります。抑留もあます。千島もあります。だから多くの日本人は今でもソ連(ロシア)にけっして好感は持っていない。でも「憎悪する」というのとは少し違うような気がします。ロシアが好きだという一個人に対して売国奴!とののしることは、たぶんない。

台湾についてもそうです。蒋介石が逃げこんだ小さな島(それまでほとんど関心のなかった辺境)が中国大陸に従わない。下手すると独立の動きさえある。しかし昔のように「大陸反抗」という強がりの声はさすがに消えています。あんな小さな地域、実質的に独立させてやればいいじゃないか(なんなら英連邦のような緩やかな形もはありうる)

で、著者はクリントン政権で国務次官補だった女性。中国問題の専門家らしい。

あまり期待しないで読み進めましたが、たいへん良書でした。非常に客観的、冷静、論理的。キーワードは「中国の立場にたって考えてみよう」ということかな。

ごく簡単に要約すると、現在の中国首脳部は自信がない、ということ。強い意志で実行できた実力者は毛沢東、鄧小平まで。以後は「いつでも代替のきく小物」ということらしい。小物であり、しかも政府の構成はわけのわからない親分子分関係のようなアヤフヤなものなので、ちょっと失敗すると簡単に権力の座から滑り落ちる。おまけに権力構造は政府、党、軍、ついでに宣伝部というふうにタコ足状態で一本化されていない。(宣伝部は党や政府の言うなりといわけでもないようで、勝手に判断して暴走する)

小物が国内をまとめるためには、なにか神話が必要。残念ながら共産主義はその魔力を完全に失ってしまっている。ソ連、東欧の崩壊をみれば、だれだって実感できるでしょうね。共産主義の魔力がなくなり、力で押さえつけるだけのカリスマもない場合、不満だらけの国民を引っ張るには「たえまない経済成長」と「燃え盛る対外ナショナリズム」しか方法はありません。

だから鄧小平の後、江沢民時代から、日本に対する国民の悪感情は増大する一方。政府、宣伝部が煽ってるんだから当然です。

天安門事件、あれは国家崩壊の一歩手前だったんだそうです。デモ隊に対して軍がほんとに発砲してくれるか。かなり危険な賭だった。もしあのとき軍が動かなければ(可能性は十分あった)政府は完全に分裂、崩壊した。

事情は今も変わりません。国内の不満の方向をそらすために対外ナショナリズムを燃え盛らせる。でもいったん燃えた火はすぐ政府批判へと方向を変える危険性があまりに大きい。ネット時代、火をつけるのは簡単だが、いったん燃えるとその後が危険でしかたない。ジレンマです。

中国政府の目は常に国内に向けられている。だから外交問題が難しい。中国も本当は日本と仲良くやっていきたいのだそうです。でもそんな姿勢を見せると「弱腰」とののしられる。いままでさんざん煽っていたツケですね。

日本は歴史的に大中国のプライドをいちばん傷つけた国です(なんせ長い間、属国同様と思っていたのに)。実際に戦争、占領という事態をまねき、おまけに戦後も偉そうにしている。酷い目にあったという点では英国とかロシア、ドイツなんかもそうですが、地理的、歴史的な関係が少し違うわけです。

で、弱腰政府だからこそ、国民に弱腰と思われたくない。これは怖いです。ひょんなことからヌキサシならなくなって、えーい自棄だ!と台湾を攻めるかもしれない。日本とドンパチやるかもしれない。

でもアメリカとはあまりトラブルを起こしたくない。それをいうなら台湾侵攻も実はアメリカが乗り出してきそう。その点、日本なら叩いても大丈夫だろう・・・という甘い観測。で、叩きは対日に集中し、それが日本の反中国感情、軍備増強の動きをいっそう増幅させている。それが跳ね返って中国内でも、さらに反日感情が増しつつある。かなり困った事態になりかかっている。

いろいろ思い当たることの多い一冊でした。