「中国の歴史 第9巻 第10巻」 陳舜臣

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★★ 平凡社

第9巻は「草原からの疾風」 第10巻は「復興と明暗」

副題から想像できるように8巻は金の滅亡と元、南宋の消滅。第9巻は元末期から明の初期にかけてです。
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ちょっと面白かったのは、チンギスハン系統には「酒色に溺れる」「兄弟の仲が悪い」というDNAが強かったのではないかという指摘でした。たしかに子供も孫も何かというとケンカばっかりしていたような印象だし、チンギンスハンはひたすら征服した王女や王妃をオルドに入れるのを楽しみにしていたような印象がある。

というより、敵を征服したらそうしないと収まりがつかない感じ。殺して奪うのが家業みたいなもんですから。たしか有名な言葉がありましたね。「敵を殺しつくし、財宝を奪いつくし、泣いている美女を褥に入れる。これに勝る喜びがあるだろうか」というような趣旨だったか。

ただ帝国後継者争いが常にモメたのは仕方ない部分があります。そもそも、彼らにはまともな後継ルールがなかった。

なんとなく「末子相続」というのが暗黙の了解ですが、これは長子から順に家畜をもらって独立していくというスタイル。最後に残った末子は父親の家畜を相続してオシマイ。でも小さな部族ならともかく、広大すぎる大モンゴル帝国の後継者決定にもこのルールを適用するのは無理があった。だから現実にはそれぞれが勝手にクリルタイを開いては自分を後継者に決める。あっちでも、こっちでも擁立しているから、モメ続ける。

元末、明軍が北上して攻めてきている間も元の上層部では内輪もめが収束しませんでした。ケンカしてちゃまずいと知ってはいるんだけど、そうはいっても政敵を放置するわけにはいかない。グチャグチャけんかしてる間に明が迫ってくる。ただし最終的には北京城を死守なんかしないで、あっさり全員騎乗して逃げたらしい。さすが騎馬民族。形勢が悪ければ一夜にして逃げる。非常にスッキリした態度です。

それでなんとなく北京から長駆モンゴルまで逃げたように思い込んでましたが、完全撤回でもなかったようで、北部でまた再編成。北元です。以後それなりに勢力を維持してたみたいです。

で、明の創始者である朱元璋(洪武帝)ってのも面白いというか気味悪い人物です。貧民から身を起こしたという点で漢の劉邦と似てるんですが、なんか意識的に劉邦をなぞった形跡がある。だいたい劉邦と同じようなことをします。でも、もともとの性格が違うんで、かなり陰惨な形になってしまった。

徹底的な農本主義とでもいいますか。農民や貧民には基本的にやさしい姿勢。その代わり文人や商人は大嫌い。理屈じゃなくて、根っから嫌いだったんでしょうね。若いころにさんざん苛められたとか。

ついでに、徹底的に心配性で猜疑心の固まりだったから、いやー殺した殺した。ちょっとでも気に食わない官僚、文人、その親族。何万人も殺し続けた。才能のありそうなやつ、目立つやつ、将来問題を起こすかもしれないと思ったやつ、可愛い子供の邪魔になりそうなやつ、みーんな殺した。ポルポト的ですね。殺しすぎて、人材が皆無になったような気配もあります。

殺される側からすると、保身のためおとなしく民間に引っ込もうと思っても、ちょっと才能が目立つと出仕を求められる。断ったらもちろん「死」です。仕方なく出仕しても、たいてい難癖つけられて「死」です。有能なら「死」。無能ならもちろん「死」。逃げ場がない。これなら南の漢人が下層民として完全無視されてた元の頃がまだマシだった。

とかなんとか。完全に皇帝親政・独裁の王朝だったんで、明はまともな皇帝がいる間はなんとか政治がまわるけど、無能な皇帝の治世になるとメチャクチャになる。補佐すべき有能な宰相も閣僚もまったくいないんですから。また代替わりするたびに国家の大方針がコロコロ変わる。例の鄭和の大航海なんかがそうですね。

要するに、明はなんとなく暗い雰囲気の王朝だったみたいです。ただし庶民にはとっては、それほど悪い時代ではなかった。いまのニッポンみたいですか。政治はメチャメチャだし景気は悪い。外交はゴタゴタしている。でもま、税金は高いけど餓死するやつ滅多にいないし、けっこう平和じゃないの?というレベル。

鄭和の大航海
国内重視方針の皇帝が死んでまた海外拡張派が勢いを伸ばしそうになった折り、再度の「船団編成」を恐れた官僚が、大航海の膨大な記録資料をぜんぶ焼いてしまったんだそうです。参考記録がなーんもなくなったんで、結果的に船団再編成は取りやめ。「官僚は必ず記録を残す」のが習性と思ってましたが、そんな果敢な(というか無責任な)官僚もいるんですね。

ニッポンでも時々ありますね。「記録を間違って破棄しました」とか。これ、ぜったいに残っていると思います。お役人意識からすると、プライドからいっても保身の面からも、必ず記録は残しておきたい。最悪のケースでも、自宅の押し入れにこっそりコピーを残していると思います。

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