「新世界より」貴志祐介

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★★★ 講談社

shinsekaiyori.jpg貴志祐介は2冊め。今回はファンタジーSFです。

最初はルグインのオールウェイズ・カミングホームを連想されるような小さな町で始まります。うーん、ルグインというより坂東真砂子の高知みたいな雰囲気もある。ようするに仏教・神道の臭い、土俗感覚、いかにもニッポン人の生活

で、すぐにこれは未来の日本、あるいはパラレルワールドなんだなと分かります。子供たちが冒険をする。奇妙な妖怪が出没する。共同体の仲間になるためには選抜が課せられる。

それなり読める小説でした。ボノボの性愛親睦行動を取り入れているのが意外といえば意外。また何という理論か知りませんが、凶暴な攻撃力を備えた動物には「仲間を殺すな」という強い抑制がある。ライオンやワニが本気で攻撃しあったら、あっというまに種が絶滅してしまいますわな。だから「ごめんね」と服従行動をとった同種の相手をけっして攻撃しない。鋭い牙を持つ犬っころがお腹を見せて転がるやつです。

で、人間はどうなのか。なんせとりわけ弱っちいサル(たぶん)ですから、あんまり攻撃抑制が働かない。本来は弱いサルなのに、後天的に強力な武器を手にしてしまったから大殺戮が発生する。このへんが小説の芯になっています。

細部はかなり問題いろいろ。納得いかない部分も多々。でも大筋の設定が秀逸なんで、グイグイと読めます。楽しい本でした。