「中国鉄道大旅行」 ポール・セロー

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★★★★ 文藝春秋

chugokutetsudo.jpgポール・セローってのはどんなタイプの男だったんだろうと少し興味があり(悪い趣味だ)、ネットで画像を検索してみました。イメージとあんまり違っていたらイヤだな。

ほー。若いころはけっこう美男子です。うーん、たとえばマルチェロ・マストロヤンニ。知らんか。昔の渋い二枚目イタリア俳優です。これを2割引きにしたくらいの感じかな。歳とってからは、そうですね、少し険のあるシラク(元)大統領とか。どっちにしても押し出しのいい男。書かれたものから想像できるような内省ヒネクレモンの雰囲気はあまりない。

で、この「中国鉄道大旅行」。セローが中国をウロウロしたのは開放改革路線から数年後。社会がガラガラガラッと変貌を遂げようとしているタイミングです。ちょうど胡耀邦が転落しかかって、趙紫陽がまだ実権を持っていた時代。

かといって外国人が自由に旅行できるほどは開けていません。ちょっと微妙な地方への旅はお目付役が付きます。お目付は各地の観光名所とか公共施設とか、自慢の場所へ案内しようとしますが、セローはまったく興味なし。そんなことより庶民と自由に話をしたい、人民公社はどうなってる、と嫌なことばっかり要求する。隙をみては自由行動してしまう。お目付役、セローに振り回されているうちにだんだん鬱になっていく。妙におかしいです。

そうそう。毛沢東人気は完全消滅してたみたいです。「偉い人ではあったけど、歳とってからはボケてたから・・」というのが多くの評価らしい。ちょっと前まで全国から参詣者で賑わっていた毛沢東記念館はもう閑古鳥が鳴いている。全国の大書されていたスローガンはみんなペンキで塗り潰されている。激しいです。もちろん元紅衛兵たちもガラリと豹変。時間を無駄にして勉強の機会を逸してしまった・・・とブツクサ文句言ってる。

目からウロコだったのは、中国には大きな樹木がない、自然がない、という観察。要するに山があれば山を削る。林があれば切り払う。丘があれば段々畑をつくる。可能な限り耕地にしてしまう。そういう中国四千年の営みの結果として、肥沃で実利的で人工的な景色が延々延々とひろがってしまった。

観光地もそうで、たちまち階段を作り道路を作り安っぽいプラスチッチで覆い大音響で音楽を流し、中国流に作り替える。そこへ全国から人民が押し寄せる。痰を吐く。大声でおしゃべりする。すべてにおいて彼らはやり過ぎる。節度というものを知らない。常に過剰に行動する

このセローの観察は面白かったです。なんとなく感じていたことをズバッと指摘してくれた。

で、そうした耕作延々四千年の中華地帯以外の辺境はどうかというと、ひたすら不毛で悲惨。セローは極寒の黒竜江省で鬱になり、わずかに伝統の残った青島でホッとし、最後はチベットへ。

チベットの章は非常にいいです。半分壊れかかった(精神がです)運転手の三菱ギャラン(これは横転で壊れかけた)でラサへ。ハリウッド級のアドベンチャー旅行。そして貧しくて汚くて臭くて頑固で笑っているチベット人たちに共感。彼らの心を解く魔法のアイテムは隠し持ったダライラマの写真(お土産用に50枚も持参した)でした。これを1枚プレゼントするとたちまち閉ざされた扉が開かれる。

セローって、非常によく下調べしてるんですね。中国語を話す。無知なふりをして挑発したりもする。ラサではチベット語日常会話ハンドブックと首ッ引きで歩き回っています。だいたいは常識的かつ冷静。シニカルな大人として対応しているんですが、でもときどきは感情発作がおきる。激昂する。抑えられなくなる。食用の小鳥を買って空に解放する。飯を食わせろお湯をよこせとケンカをする。

すばらしい本でした。「中国よ、行き過ぎるな!」というのが最後の言葉。


あと読んでみたいのはアフリカ縦断の「ダーク・スター・サファリ」かな。図書館にはないようなので、アマゾンを探してるところです。ただ刊行まもないせいか、まだかなり高価。迷うところです。

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