「悪い奴ほど合理的」レイモンド・フィスマン

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★★★ NTT出版
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タイトルはキワモノふうですが、実際の中身は正統な低開発経済学(そんな言葉があるんか)の入門書です。

たとえば1960年頃、韓国とケニアはほぼ同程度の貧困国でした。これから何十年、どちらがより発展するか、それを推測することは不可能だったようです。ケニアがどんどん発展してアフリカの先進国になっても不思議はなかったし、韓国があいかわらず最貧国であり続けてもおかしくはなかった。

しかし結果はご存じの通り。何故なのか。それを調べようというのがこの本のテーマです。

キーワードは腐敗と暴力。典型例はアフリカのサハラ以南、いわゆるサブサハラですが、内戦が日常化し、政府は腐敗し、産業は壊滅状態。展望はまったくありません。ではその原因となっているのは腐敗なのか、それとも暴力なのか。

経済学者の意見としては大きな流れが二つあるんだそうです。一つは「貧しいから腐敗している。腐敗しているから豊かになれず、暴力が支配する」という意見。解決策としては、思い切っていまの5倍くらいの援助をしてみたらどうだろう。豊かになれば腐敗は減少する。まともな給与をもらっていれば役人は、汚職しようという動機が薄くなるし、罪が発覚した場合の「免職」は致命的な損失になる。

つまり人間、ある程度豊かになれば悪いことは考えない、という説ですね。

もう一つは「腐った文化システムに生きる連中は、援助が増えればいっそう収奪に励む。なまじ援助を増やすよりも、社会システムの健全化を最初に考えるべき」という考え方。

つまり穴のあいた桶に水をどんなにいれても無駄。まず桶を修理しようということです。どうやって桶を修理するかは難しいですが、教育で啓蒙するとか強制するとか罰則をきつくするとか方法はたぶんある。

どっちが正しいのか、判断は非常に難しいです。難しいけど放置しておいたって解決しない。なんとか調査する方法はないか。

いろんな研究方法とその概略がのべられています。たとえば降雨量の少ない地域で水不足がおきると、その翌年あたりから内戦が勃発するパーセンテージが高くなる。内戦がおきると生活資源は破壊され、いっそう貧しくなり、さらにいっそう暴力がはびこる。こういう悪循環におちいってしまった国家を救うのは非常に困難です。

だったら「長期天気予報で水不足が予想されたら、不作になる前に援助を提供したらどうか」という策が考えられます。その援助で食いつないでもらう。食いつないでいるうちに、また雨が降って、豊作になるかもしれない。少なくとも致命的なバッドスパイラルからは逃れることができる・・・かもしれない。なるほど。

そうそう。その国家の貧困の度合いと腐敗的文化の相関について面白い調査もしていました。国連です。各国から国連に詰めている世界中の外交官たちは、みんな狭いマンハッタンへ通勤しています。ところがマンハッタンは絶望的なくらい駐車スペースがない。必然的に駐車違反が増えるんですが、幸いなことに外交官たちは特権があるので駐車違反に問われることはない。

つまり、好き放題に駐車違反できる。いちおうステッカーは貼られるみたいですが、知らん顔して無視しても問題なし。

こういうペナルティ・ゼロの状況で、各国の外交官たちはどれくらい駐車違反するのか。年間に数百回の駐車違反をしている奴もいるし、ゼロという人もいる。そうした個人の違反回数とその国の腐敗指数は関係があるのかどうか。

他にも密輸入の経済学とか、経済マフィアによる社会の安定化とか、なかなか面白かったです。

以前に読んだ「ダーク・スター・サファリ」のポール・セロー、彼は「アフリカに援助する連中が悪い」という持論です。むしろ安易に援助し続けるからアフリカが堕落する。しかも援助している連中は心の底からアフリカ人のためになる援助をしようとは思っていない。気分がいいだけの偽善。乞食に1ドルを与えることは本当に乞食のためになるのか

ただし、「ダーク・スター・サファリ」で列車の窓にすがる貧しい少女を拒んだセローは、憎しみに満ちた目の少女に石を投げつけらます。与えても解決にはならない。しかし与えないことも辛い。貧困国と真面目にかかわるということは、そうしたジレンマと痛みを感じることです。辛いです。


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