「クレオパトラ」ステイシー・シフ

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★★★ 早川書房
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超有名だけど実像がよくわからないクレオパトラ7世。その生涯を詳細に描いた本です。小説ではなく、勝手な想像を抑えた筆致。著者はノンフィクション作家らしい。

だいたい色白だったのか、浅黒かったのか。黒髪かブラウンか、美人だったかどうかも不明。いろんな歴史家やら評論家たちが勝手に書きまくってますが、そのほとんどがクレオパトラの死後何十年もたってからのもので、信憑性に乏しい。プルタルコスが英雄伝を書くのは百年ぐらい後です。

おまけにこの連中はみんなローマ人(ローマ文化圏人)なんで、かなりバイアスがかかっている(カエサルとアントニウスを誘惑した毒婦!)。キケロは同時代ですが、この人は動きが政治的すぎて、情勢によって言うことがコロコロ変わっている。まったく信用できない

で、ステイシー・シフの描いたクレオパトラ7世は、当時最高の教育を受けた才女。世界一の富を誇ったカリスマ女王。弁舌はたくみで何カ国語を流暢に話し、場合によっては冷酷にもふるまえる。生きながらの女神です。イシス神の化身。

面白いことにプトレマイオスのエジプトでは、女性の権利がかなり強かった。財産権があり、表舞台での発言も許されていた。おまけにプトレマイオス朝では親子兄弟の殺し合いが日常茶飯。伴侶は王族から求めるのが伝統で、王女と王子が結婚して共同統治することも珍しくない。そうなるとケンカもするし、陰謀も渦巻くし、ま、大変です。タフでないと生き残れない。

で、意外だったのは、当時のエジプトは世界一豊かな国だったこと。確かに「シチリアの小麦」とか「エジプトの富」とか、そういう表現がよくありますね。農地といってもナイル川の周辺だけと思うのですが、その豊穣がすごかった。金とか宝石とか、たぶん上流のスーダンやエチオピアあたりから運ばれただろうし、近隣とも交易が盛んだったんでしょう。

それに反してローマは大軍事国家だったけど、内乱続きで金がなかった。金がないと戦争もできない。ということでクレオパトラはカエサルにもアントニウスにも大盤振る舞いでプレゼントする。数百隻の軍船とか、数個軍団とか。膨大な費用がかかったと思うけど、当時のクレオパトラにとっては屁でもなかった。この程度の金で安全保障がキープできるんなら安いもんだわ。エジプト、軍事的には弱かったんでしょうね。たぶん兵士も漕ぎ手もみんな金でやとった外国人でしょう。

クレオパトラがカエサルやアントニウスに惚れていたかどうか、判断の難しいところです。ギブ&テイクの関係だったとしても不思議ではない。しかしアントニウスは政治的判断を誤って、生まれた子供を認知したり、オクタヴィアヌスの姉を離婚したり、領土をクレオパトラにプレゼントしたり、ローマ人の反感を買うようなことばかりした

賢いオクタヴィアヌスはアントニウスに宣戦布告するのではなく、みんなが納得する「悪女」クレオパトラを標的にします。攻め込まれではたまらないので、クレオパトラはアントニウスにしがみつく。

ちなみに有名なアグリッパとのアクティウムの海戦、たいした戦いでもなかったとステイシー・シフは推察しています。実際には、対決を避けて(軍団を置き去りにして)クレオパトラとアントニウスが逃げた。アントニウスは、どうも腑抜けというか、まともな判断ができなくなった感じがある。ヤキがまわった。あるいは、最初から優柔不断、たいして才能のないマッチョ将軍だったのかもしれない。

で、結局は冷静なオクタヴィアヌスの勝利。敗残の女王を捕虜にして凱旋式のさらし者にするのも魅力的なプランだったけど、下手するとローマ市民が同情する可能性もある。ちょっと危険な賭。うーんと迷うところです。自殺してくれてホッとしたんじゃないか。

ちなみに毒蛇に乳房を咬ませて死んだという説はかなり怪しいそうです。おそらくはかねて用意の毒薬での死。こうしてプトレマイオス朝は滅んだ。ついでですが負けがこんでくるとアントニウスの友人や側近、クレオパトラの重臣、みーんな裏切ります。クレオパトラが自殺したとき近くにいたのは忠実な侍女が2人だけ。この2人もたぶん同じ毒で死にます。


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