「火星の人」アンディ・ウィアー

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★★★ 早川書房

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半年ほど前に映画「オデッセイ」を見て、いろいろ疑問が生じました。ただし原作の「火星の人」ではしっかり書かれているらしいとの情報があり、そんなら読んでみるか。

図書館には在庫が2冊。ただし予約20人待ちだったかな。多すぎるんで、諦めました。しかしそれから何カ月かたって、念のため予約待ちの人数を確認したら2人に減っている。うん、それなら予約を入れておくか。

という経緯で、ようやく借出し。

なるほど。完全にハードSFですね。理系はまったくダメ・・・という読者は辛いかもしれません。少なくとも水素二つと酸素一つで水ができるとか、その程度の知識は必要。小説の中でも電圧の話とか速度の話とか、計算もけっこう出てくる。

映画で変だなと感じたこと、けっこう解決しました。まず戸外で回収した糞便ですが、もちろん匂いません。マット・デイモンが臭そうにしたのは映画版のサービスです。また戸外放置の糞便ではバクテリアは死んでいます。しかしいろんな有機物がたくさん残っているので、バテクリア繁殖のエサにはなる。そして種になるバテクリアは地球から持参の少量の土の中にいます。適当な水分さえあれば土壌細菌はどんどん増殖する。

マット・デイモンが火をつけるのに使った木の十字架。これは最初に着火させるために使用しただけであって、あとは勝手に燃えてくれるらしい。燃料は少しずつ滴り落ちるようにされていたようです。

そうそう。この作業で水素を作り、それを少しずつ燃やしたわけですが、いくら水素が危険であっても、たっぷりの酸素さえなければけっして爆発しない。ところがマット・デイモンは呼吸をしているんで、呼気の中に酸素が混じっている。ここを見逃したために酸素量が多くなり思わぬ水素爆発が起きた。

また原作では、ローバーの天井に穴をあける作業中にもトラブルが起きています。ただしこのトラブルの理由(電流・配線)はちょっと複雑と思われたのかな、たしか映画にはなかったと思います。またローバー横転事故とか、ソーラーパネルの発電量を危険域まで落とす砂嵐襲来の挿話もなかったような。

一方で母船の速度を落とすための空気吹き出し、まさかと思ったら原作にもありました。こんなに減速してしまってその後の火星スイングバイがうまくいくのか。かなり疑問ですが、ま、理論的に一応は可能なのかもしれません。

その代わり、映画では面倒そうな爆弾作り、実際は単純なものでした。丈夫なガラス容器に砂糖を入れ純酸素を満たす。周囲はゼロG。重力がないので砂糖は細かな粉末となり、非常に燃えやすい。そして中に通じた導線をショートさせる(電源スイッチを入れる)だけで大爆発。なるほどねえ。

そうそう、宇宙服に穴をあけてのアイアンマン飛翔はさすがにありませんでした。これはいくらなんでも難度が高すぎて荒唐無稽になってしまう。