「サピエンス全史 上下」ユヴァル・ノア・ハラリ

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河出書房新社 ★★★★
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図書館に予約をいれたのが、たしか今年の2月頃。それから9カ月を経て、ようやく順番がきました。話題になって面白そうではあったけど買うのはちょっと躊躇・・・という本だったので。

ホモサピエンスってのは、ネアンデルタールなんかに比べると、とくに強くもないし賢くもない。雑多な「人類」仲間の中でも平凡な一派であったんだけど、ひとつだけ奇跡をおこしたんだそうです。たぶんDNAかなんかの突然変移でしょう、7万年前あたりに、いきなり「嘘」がいえるようになった。嘘というか、要するに「虚構」です。

つまり「結束」とか「計画」「将来」「展望」などなど、具体的な実態のないことについて話す能力。チンパンジーだって「ライオンが来たぞぉー」という程度の警報言語を持ってはいます。しかし「この前、ライオンがオレに話したことだけど・・・」と嘘をいう能力はない。

それが発展すると「オレたちみんなライオン一族だ。だから仲良くしなきゃいけないんだぜ」と誰かを説得したり、シンボルとしてライオンのトーテムを立てたりする。いわばライオン教団の誕生。結束した社会ができる。

これが「認知革命」です。非常に画期的。これによって、その日暮らしでバラバラな家族単位から、まとまりのある集団になることができた。複雑で難しい内容の会話をする能力が発達し、みんなで協力して、計画をたてて特定の何かをする。この点で、単純なネアンデルタールなんかとは決定的に違いができたんですね。肉体的にはひよわなホモサピエンスだけど、協力すれば頑丈なネアンデルタールにも勝てるし、凶暴な剣歯虎とも戦える。みんなで力をあわせてマンモスも狩れる。

で、その次にはたぶん「農業革命」ですか。最近の学説では常識ですが、農業を覚えたからといって狩猟採集生活より楽になったかというと違う。たぶん正反対。定住して、人口がやたら増えて、病気が蔓延して、大多数にとっては辛い生活になって、だから必死に仕事をする。悪循環。やがて富のへだだりが生まれる。食料の貯蓄が可能になって支配階級の誕生です。支配する者と支配される者の分離。

やがて「貨幣」も誕生。貨幣とか貴金属とか、もちろん完全な虚構ですね。たとえばゴールド。特に価値があるわけではなくて、単に黄色くてフニャフニャした金属でしかない。ゴールドに特別な価値があるのはあくまで「約束事」です。みんなが「金がいい」というから金に値打ちがうまれた。貨幣の次には手形とかカードとか、ま、延長です。

こんな具合にホモサピエンスは進化し・・・ん? 進化という言葉にもまやかしの価値観があります。正しくは「ホモサピエンスは変化した」でしょう。

ごく最近は大変革である「科学革命」とかもあって、なんか人類は急に幸せになったような錯覚がありますが、厳密にいえば別に幸せになったともいえない。厳寒の中世の冬に一本の薪を得た市民の喜びと、1Kのアパートから3LDKに引越しした喜び、どっちが幸福かと問われると返事は非常に難しい。

・・・という具合に、ホモサピエンスの歴史を容赦なく著者は解説していきます。筆致は非常にドライですね。スッキリしすぎて気分がいいくらい。遠慮とか躊躇がない

そうそう。枝葉ですが著者はブッダの教えにけっこう興味をもっているようです。ブッダが説いたのはシンプルに言うと「すべての欲望を捨てよう」ということだそうです。なるほど。欲望・渇望がある限り、貧乏人も金持ちも、貴族も乞食も、けっして完全に幸福にはなれない。だから欲を捨てよう。ちなみに幸せになろうという気持ちもやはり「欲」です。

比べると、キリスト教もイスラム教も、いろいろなにかすることで神様に気に入ってもらって、それで天国に行こうとしているような気がします。うん、この点でまったく違うわけですね、たぶん。

ま、いろいろ、面白い本でした。ベストセラーになったのも理解できた気がします。