「三国志きらめく群像」高島俊男

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筑摩書房★★★
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子供のころはもちろん『三国志』を読む。真田十勇士とか西遊記の同レベルですね。そうだ、思い出した。子供たちは「講談」を貸本屋から借りて読んだんです。小さな町だったけど、商店街の外れにたしか貸本屋が二軒あった。

漫画やSF本をすべて制覇して石坂洋次郎あたりまでいって、ついに読む本がなくなって困っていたらオバさんが「子鹿物語」をすすめてくれた。源氏鶏太を借りようとしたら「まだ早い」と叱られた記憶もある。

ま、そういうのが普通でした。劉備にはあまり感心しないし張飛もどうかな・・でしたが、もちろん関羽は好き。諸葛亮孔明は憧れ。万能だからなあ。死せる孔明生ける仲達を走らす。

大人になってだいぶたってから、張飛はすぐ部下を殴り殺す関羽ってのはあんがい傲慢な男だなと知る。とくに関羽の最後のころはなんか意外で、違和感ありまくり。そして曹操の詩、短歌行とか千里の馬が老いてなんとかかんとか。感動する。こんなに魅力的なのに、『三国志』では悪者あつかいなんだよなあ。

この本、単行本になって高島さんはすごく嬉しかったそうです。最初はあんまり売れなかったけど、その後に筑摩の文庫に入れてもらってからはヒットした。年取って読み返してみても、うん、いいこと書いてる‥と自画自賛できる。

内容は、ようするに「三国志演義」ではなく正史の「三国志」がモトです。もちろん「演義」がフィクションなのは当然として、実は正史だって信用しちゃいけない。単なる「公式の歴史書」でしかないので、現王朝にとってまずいことは決して書かれない。

だいだい「三国」というけど、実際にはけっして等分じゃない。日本にたとえると、本州のほとんどが「魏」。九州と四国が「呉」かな。「蜀」はそうですね、青森・秋田・岩手。東北三県程度か。たぶんそんな程度の勢力比だろうと思います。

で、正史にそって、なおかつ嘘は嘘ときめつけ、実際はたぶんこうだろう‥というような内容のお話。たとえば凡庸ということになってる荊州の劉表は、実はかなり優秀だったし、有名な赤壁はどこにあったのか、いまだに論争の焦点。

「たぶんこれが真実に近いんだろうな」という意味では面白い本です。いわば中国における「歴史」とか「史書」を読むための常識。高島さんが自由奔放に筆を走らせています。