2011年8月アーカイブ

★★★ 中央公論新社

amei.jpg比較的新しい本です。舞台はもちろん高密県東北郷。語り手は「オタマジャクシ」という劇作家希望の男ですが、ストーリーは新生中国の女医である伯母さん(万心)を中心に繰り広げられます。

「伯母」は共産国家に忠実な、芯まで赤い地方医です。賢く、行動力があり、そして悩みながらも冷酷である。情熱に燃えて1万人ちかくの嬰児を無事出産させ、そして一人っ子政策が開始されると数千人の胎児を情け容赦なく中絶させます。もちろん嫌がる男たちを問答無用で次々とパイプカット。

男の子を生みたい女、跡継ぎを欲しがる家族。それを取り締まる政府と医師たち。当然のことながら大騒ぎが始まり、血が流れ、悲劇が生まれます

莫言という人、こんなに正面きって一人っ子政策という問題と向き合ったんですね。もちろん莫言ふうにシッチャカメッチャカな展開ですが、でも中身はかなり真面目です。

でも「伯母さん」がかなり魅力ある人間に描かれているので、スイスイ読めます。

ところで本筋とは関係なく、個人的に意外だったのは文革中のエピソード。前から紅衛兵の吊るし上げで、蹴ったり殴ったり(その結果として死亡したり、自殺したり)は日常茶飯だったようですが、なぜか直接的に銃や刃物が使われたという記述を目にしたことがないし、強姦についても読んだことがない。

「結果的に死ぬのはしかたないが、積極的に殺してはいけない」というような雰囲気があったんでしょうか。殴るのはいいが、強姦はいけないとか。

ところがこの小説の中では、ドサクサに紛れて吊るし上げ相手を強姦する男の話が出てきます。やはりね、と納得。ただしその男(王脚だったかな)も、相手を妊娠させちゃいろいろマズイらしい。さいわい「伯母さん」の手でパイプカットされてたんで、安心して悪いことができた。

ここまではやってもいいが、ここから先はいけない。ナントカにも三分の理。

中国でこんな本が出版できるようになったんだ。
★★ 徳間書店

koryuan.jpg莫言の出世作である「赤い高粱一族」全5章です。収録されているのは徳間書店の古い全集(現代中国文学選集)で、その6巻に1章と2章、12巻に3.4.5章がおさめられています。なんか、ややこしい。つまり全5章とはいっても、完全な続き物という感覚ではないらしい。独立して、勝手に読んでもいいですよ、ということですかね。

初期の作品、まさか処女作ではないと思うけど、書き手がまだ若いので、ありとあらゆるシーンがてんこ盛りになっています。やり手の嫁、県庁のお役人、高粱の酒、残忍な処刑、外国兵(今回は日本、鬼子ですね)に対する反逆、動物軍団の攻撃と挫折などなど。

時代的には抗日戦線の頃、国民党系、八路系、たんなる盗賊系、日本系などなどがゴチャゴチャ入り混じって大騒ぎ、殺しあっているあたりですね。

みーんな後の作品でもっとしっかり練り上げられるようになるエピソードやテーマです。よく「処女作にはすべてが入っている」とかいいますが、まったくそのとおり。

悪くはなかったですが、やはり書き手がまだ円熟の域に達しておらず性急なせいか、けっこうゴツゴツして青い、荒いですね。かなり疲れました。

そうそう。この選集の訳者、巻末で莫言に苦言を呈している。業病に対する配慮がないとかなんとか。まったくその通りではありますが、巻末で作者に文句を言う訳者ってのも珍しいです。そもそもハチャメチャでグロ全開の莫言ですからね。「いやなら訳さなきゃいいじゃないか」と言いたくなります。
理髪店で髪を切ってもらっていたら、ラジオから「テネシー・ワルツ」が流れてきました。歌うのはもちろんパティ・ペイジ。

はて。パティ・ペイジのテネシー・ワルツ、聴いたことがあっただろうか。完全に江利チエミの持ち歌という記憶しかないです。ふーん、本物はこんな声で唄ってたんだ・・・と髭をあたってもらいながら考えてました。一人二役の二重奏(というのかな) でした。洗練されてはないですが、同一人物だからハーモニーは悪くない。柔らかな、温かみのある声です。

それにしても、テンポが遅い。のろい。昔の曲はみんなスローテンポだけど、それにしても遅いです。テ ネッ スィ ィー ウォォー ルツ・・ と情感をたっぷり入れる。ワルツじゃなくて「ウォルツ」と発音してますね。家に帰って調べてみたらスペルは Waltz か。たしかに「ウォルツ」だわな。

おまけにワルツを踊ることを「To the Tennessee waltz」という言い方をするのね。このTo は絶対に思いつかないです。

1950年初頭の歌なんですね。何も考えずボケーッと数分間でしたが、なかなか楽しい時間でした。頭もサッパリしたし。
★★★ 新潮社

代表作の一つとは聞いていましたが、読んだのはこれが初回。

atlantis.jpg上下2冊ではあるものの、長編ではなく中短編が5つ。最初の中編に登場した人物が、なんとなくリレーのようにストーリーの中心になります。
いちばん長い「黄色いコートの下衆男たち」は、スティーヴンおなじみの少年と仲間たちと自転車と、そして影のモンスターたち。悪くないお話でしたが、私はむしろ2番目の「アトランティスのハーツ」が心に響きました。

「アトランティスのハーツ」は田舎の大学の寮が舞台です。ちょうどベトナム戦争。大学を落第すればたぶん徴兵が待っています。学生でい続けられるか、それともベトナムで殺されるか、それがいやなら敵を殺すか。ほとんど「非常時」なんですが、まだ10代の寮生たちは目をそむけ、疫病のように流行したカードゲームに熱中します。

私たちの学生時代だったら、マージャンかパチンコか、年代によってはPCゲームか。こんなことを続けていたら破滅する・・・と自覚しつつも、でも抜け出せない。試験前だというのに、また自堕落に時間を費やしてしまう。

登場する寮生たちがいいですね。みんな個性があって生き生きしている。イヤな奴、厭味なやつ、頭はいいのに破滅しそうなやつ、ガリ勉の優等生タイプ、自意識過剰の意地っ張り男。「友情なんて、ヘッ!」という顔をしていますが、でもイザとなると、やはり友人のために働きます。

3番目、4番目もベトナム戦争が題材。ベトナム還りの兵士たちのお話です。

書評などでは最終章が素晴らしいとかいう雰囲気ですが、わたしはあまり感心しませんでした。ちょっと甘いんじゃないの。スティーヴン・キングにしても、ちょっとご都合主義的な・・・。

seimei.jpg★★★★ 講談社現代新書

子供のスケジュールにあわせて台湾旅行。ほんとうはベトナムあたりに行こうかとも思ったのですが、いろいろ考慮の末、無難なところに決めました。

で、バッグに入れていったのが、読みかけのこの本。たまたま新聞の書評を見て、面白そうと思って買いました。ただし家内も前に買ったらしい。気がつかなかったなあ。それどころか子供も買っていた。3人揃って同じ本を買うなんて、ダブリのダブリ。もったいない。

たしかに文章は品があり詩情がある。上手い。科学者にしては少し上手すぎて損をしているくらい。上手な文章というのは、ともすると逆効果にもなりかねませんからね。そのスレスレのところで、ま、論理的な記述にも成功しているようです。ナントカ賞をとって何十万部のベストセラーになったのもうなづける。

ま、内容はご存じのとおり、生物が生物であるというのは、何によるものなのか、というお話。波打ち際の砂の城やジグソーパズルのアナロジーを使った「動的平衡」という説明は納得しました。なんといっても文章が論理的かつ品位があるので、頭にスーッと入る。

lonchang.jpgただし故宮博物院から台北の龍山寺というところへ乗ったタクシーで、眼鏡を落としてしまった。シニアグラス、老眼鏡です。助手席に座って、お金を払う際にバタバタして、持っていたのを落としてしまったらしい。

龍山寺。ここで落とした

これは困りました。眼鏡がないと本も読めない。レストランのメニューも読めない。実に不自由です。仕方なく目についた眼鏡屋にとびこんで安物を購入。たしか200元、だいたい600円程度ですね。これを使って残りのページを読んだ次第です。早朝のホテルのだれもいない喫煙室で、コーヒー飲みながら、タバコ吸いながら読み終えました。

こういう喫煙コーナー、通常は飲み物持ち込みは禁止かもしれませんが、でも「禁止」と書いてなかったから遠慮せず持ち込みました。コーヒーも「どうぞご自由に」という雰囲気でロビー回廊の片隅のテーブルに置いてあった代物です。これも「どうぞ」とは明示的には書いてなかったけど、ま、雰囲気的には「フリー」です。海外ではいろいろ自分なりに判断しなければならないことが多いですね。

いれてから時間がたっていたのか少し苦かったけど、けっこういい味のコーヒーでした。

はい。タバコに関しては、台湾、喫煙者に辛い状況になっています。

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