「赤い高粱」 莫言

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★★ 徳間書店

koryuan.jpg莫言の出世作である「赤い高粱一族」全5章です。収録されているのは徳間書店の古い全集(現代中国文学選集)で、その6巻に1章と2章、12巻に3.4.5章がおさめられています。なんか、ややこしい。つまり全5章とはいっても、完全な続き物という感覚ではないらしい。独立して、勝手に読んでもいいですよ、ということですかね。

初期の作品、まさか処女作ではないと思うけど、書き手がまだ若いので、ありとあらゆるシーンがてんこ盛りになっています。やり手の嫁、県庁のお役人、高粱の酒、残忍な処刑、外国兵(今回は日本、鬼子ですね)に対する反逆、動物軍団の攻撃と挫折などなど。

時代的には抗日戦線の頃、国民党系、八路系、たんなる盗賊系、日本系などなどがゴチャゴチャ入り混じって大騒ぎ、殺しあっているあたりですね。

みーんな後の作品でもっとしっかり練り上げられるようになるエピソードやテーマです。よく「処女作にはすべてが入っている」とかいいますが、まったくそのとおり。

悪くはなかったですが、やはり書き手がまだ円熟の域に達しておらず性急なせいか、けっこうゴツゴツして青い、荒いですね。かなり疲れました。

そうそう。この選集の訳者、巻末で莫言に苦言を呈している。業病に対する配慮がないとかなんとか。まったくその通りではありますが、巻末で作者に文句を言う訳者ってのも珍しいです。そもそもハチャメチャでグロ全開の莫言ですからね。「いやなら訳さなきゃいいじゃないか」と言いたくなります。