「悪人」 吉田修一

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★★ 朝日新聞出版

akunin.jpgたしか映画になってましたね。見てはいませんが、えーと妻夫木と深津絵里でしたっけ。

どこかの映画解説に「純愛劇」とかありましたが、そりゃちょっと違うような。出口の見つからない地方の閉塞感。未来を探せない若者たちの無力感。といって昔のニッポンや発展途国のように食べるだけで精一杯というわけでもない。だから中途半端なんですよね。

みんな平等な機会があり、努力次第で幸せのステップを登ることができる・・・というタテマエ幻想はいちおう存在する。でもそんなの本当に信じてる奴は誰もいない。じゃ何があるの。実は何もない。でもそれじゃ悲しすぎるんで、意味不明ながら「愛」とかいうカオナシのヌエが顔を出す。

「愛」という幻想にすがろうとして坂道を転げ落ちてしまった困った男女のお話です。うん、オレたちって愛し合ってるんだよな? 

クルマにだけ熱中している無愛想で無思慮なニイチャン。私だってシンデレラになれるはず・・と頑張る生保のうるさいネエチャン。愛する人が欲しいのよ・・とブスブス燻っている地味な女店員。あの子に限って・・とオロオロする親。貧乏人のブスなんか嫌いだよとケタケタ笑っているアホ学生。

出口のない、なかなか悲しいお話です。あっ、最後の最後のエピソードはちょっと作為が過ぎるんじゃないかな。アホで乱暴なニイチャンが「実はとても優しい子だった」とでも作者は言いたいんでしょうけど、そりゃ無理々々。突き放したほうがよかったような。

悪い本ではなかったけど、最後の締め部分で★ひとつ減点。