「瓜子姫の艶文」坂東眞砂子

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★★★ 中央公論新社

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たぶん幕末ごろの伊勢松阪。商家の内儀と女郎の因縁話です。

ストーリーの背景音としてお蔭参りの人々の群れ。松阪は伊勢参りの道筋です。通りがザワザワする中で商家の内儀は旦那の浮気が気になるし、女郎はなんとか陰の女から「表の妻」になりたいと願う。つまりは天の邪鬼がなんとか瓜子姫になり代わろうとするわけです。

瓜子姫のお話、子供の頃によく聞きましたが、唄が入るんですよね。瓜子姫の乗り駕籠に天の邪鬼が・・という唄。私の聞いた昔話では、瓜子姫は裏の柿の木に裸で縛りつけられました。いろんなバージョンがあるようで、殺されたり食べられたり、顔の皮をはがされてその皮を天の邪鬼がかぶる。

無事、皮をかぶり続け、騙しおおせて天の邪鬼が幸せに暮らすバージョンもあるようです。

で、この「瓜子姫の艶文」も、天の邪鬼の女郎がひかされて商家の内儀におさまったような感じでもあるんですが、ここで作者は時空変換をする。ほんとうにそんな出来事が起きたのか、それとも違う世界の話なのか、後を継いだのか入れ代わったのか、モヤモヤしている。謎。

そして最後はおどろおどろしい因縁話の決着。表通りでは最後までお蔭参りの狂奔、雑踏と唄。そうそう、最初から最後まで魔羅と奥の院と淫水と・・・えんえんと描写も続きます。なんせ女郎屋がメインの舞台なんで。坂東眞砂子らしい小説です。


そうか、知らない人もいるんだな、きっと。

瓜子姫のお話(いい加減バージョン)

瓜から生まれた瓜子姫。可愛い子に育ちました。
爺さんと婆さんが外出することになり、しっかり戸を閉めておきなさい。アマンジャクが来ても決して戸を開けてはなんね、と言い聞かす。

瓜子姫がトッカラピンカラと機を織っていると(いい子はたいてい機を織る)、もちろんアマンジャクがやってきます。「開けてくれや瓜子姫」「いーや、開けん。ダメと爺ちゃが言うてたで」「ほんなら開けんでもいいから、ほんの一寸、隙間をつくるだけでもいいから」「うーん、ほんの少しならいいか、ほれ、ほんの少し」

細い隙間にグイッと黒い爪を差し込んだアマンジャク、えーいガラガラッと戸を開けて、あっというまに瓜子姫をまる裸にして縛りあげます(食べてしまいます) 。

そこへ瓜子姫の評判を聞きつけた殿様(長者)から迎えの駕籠が到着。瓜子姫のきれいな着物を着たアマンジャクは、いそいそと駕籠に乗り込みます。しかし家から駕籠が進み始めると、木の上のカラス(スズメ)が唄を歌います。♪あれま、不思議、瓜子姫の乗り駕籠に乗っとるはアマンジャク・・・。ここで正体暴露とあいなります。

お話の締めは決まり文句。私の田舎では「イチがぶらーんとさがった」でした。どういう意味だろ。