胸むきだしのメアリー・スチュアート

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前に見た英国ドラマ「ダウントンアビー」がけっこう良かったので、次のシリーズである女王ヴィクトリアも録画。まだ全部は見終わっていません。ところがEテレでクイーン・メアリーまで始まってしまった。しかしこの「クイーン・メアリー」シリーズ、ぜんぶで22回もあるらしい。すべて録画したらスペース的に大変そうなので、本当に録画する価値があるかどうか判別のために視聴してみました。

んんん。なんか色調というかテイストが違います。まず女官も王妃もみーんな派手で同じ顔に見えるし、貴族たちもみんなヤケに細身で格好よくて、何故か歩くときは左腰の剣を握っている。ブラブラして邪魔なんでしょうか。やたらイチャイチャしたり、必然性のないベッドシーンがあったり、王と王妃がペアで速歩したり。しかし家来や侍女の数はずいぶん削減です。女官たちは思い切って胸を露出したハリウッドふう大胆ドレス。うーん。これって、たしか16世紀が舞台のはずだよなあ。

メアリー・スチュアートが最初に結婚したのはフランスのフランソワ2世。たしか病弱で16歳くらいで死んだ王様です。でもドラマでは行動的なイケメンで、なぜかペスト流行のさなか、女官に手を出して生ませた赤ん坊を抱いてジトーッと感動していたりする。父性愛のめざめ。不思議です。

そうかそうか。メイドインUKではなくメイドインUSAのドラマなんですね。納得。番組紹介に「メアリー・スチュアートの恋と運命を、壮大なスケールと現代的なアレンジで描いた宮廷ドラマ」とある。なるほど、現代アレンジ。要するにできの悪い日本の大河ドラマみたいなもんです。

こうした困ったドラマの特徴は「時間」と「距離」の描写がいい加減なことで、あっというまに離れた城へワープしたり、10日分くらいのややこしい任務がたった1日で解決してしまう。ご都合主義。もっともこのへんを真面目にやるとテンポがべらぼうに遅くなって、視聴者が飽きてしまいます。「ナントカ公爵の城を訪問するぞ」と家来に言ってから実際に到着するまで半月かかったんでは、どうも困る。

話はズレますが、このメアリー・スチュアートの天敵であるエリザベス1世。たいていの通俗本では「腹違いの姉(ブラッディ・メアリ)に憎まれた哀れな孤独少女エリザベス」とか書かれますが、実際にはそんな半分囚人のような状況下でも、城から城へ移動する際には何百人のお供がついた。そう書かれている資料があるらしい。こうした貴人イベントの規模の感覚が、現代とはまったく違っていたんでしょうね、きっと。

おそらく貴人は何をするにも仰々しくなる。身軽にひょいひょい歩くわけにはいかない。ところが仰々しいのは現代人にうけない。(宮﨑あおいちゃんの篤姫は、西の丸だったか本丸だったか、一人でスタスタ歩いてました。大奥でこれやったら間違いなく迷子になる)

唐突に思い出しましたが、大昔の大河ドラマ(北条時宗かな。赤マフラーのやつ)で、成り行き上、大元皇帝クビライが登場した。NHKがかなり頑張った様子はあったんですが、それでも予算の限界で、非常にチープな宮殿でした。なんといっても狭い。おまけに皇帝は軽々で、よく言えば親しみやすい。威厳というか、厳粛な雰囲気がないんですよね。うかつなことを言ったらすぐ首切られるかも・・という恐怖感がない。

またまた余分な話になりますが、このへんを上手に作ってくれたのが「坂の上の雲」のサンクトペテルブルクの宮殿(エカテリーナ宮殿)でした。ひろい体育館みたいな寒々した大広間。皇帝ニコライ2世が待ち構える伊藤博文に向かってカッカッカッと歩いていく。距離がある。時間がかかる。あれは痺れるようなシーンでした。

なんだか筋が逸れてしまった。つまるところ「クイーン・メアリー」はBBCふうドラマではない。当世感覚のドラマなので、歴史ものを見ようとすると期待外れでしょうね。