2019年に読んだ本

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検索をかけてみたら、今年は★★★★が4冊。多いのか少ないのかは不明ですが、とにかく読んだ本の絶対量が減ってますね。えーと、たったの30冊か。元気なころは100冊近くを読了していたのに。

ま、ともかく。


「あの頃 - 単行本未収録エッセイ集」武田百合子

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著者は武田泰淳の奥さんです。というより「富士日記」の作家ですね。あれは素晴らしい。

で、武田百合子の書いたものは発見すれば借り出していたつもりでしたが、もちろんこぼれがある。単行本に収録されずに終わったものも多い。で、百合子さんは「死後に出したりするな」といっていたらしいけど、なーに、娘の武田花さんが集めて一冊にした。

疑問に思っていた武田泰淳の病気のあたりもわかったし、神保町でアルバイトやってた頃のエピソードもいろいろ楽しい。花さんによると「とにかく派手な女」だったそうです。やっぱり。


「日本人のための第一次世界大戦史」板谷敏彦

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第一次世界大戦って、どうもわかりません。日本からは遠い戦いだったし、そもそも時代が古い。そうした「第一次世界大戦」「欧州大戦」を広い視野から解説。読みやすいし、面白い本でした。

とくに大戦の本質を「トルコ帝国のアジア側を西欧列強が再分割しようとしたもの」という解説は素晴らしかった。なんで「アジア側」なのかというと、欧州側はもう分割しつくしてしまったからなんですね。

A国とB国がケンカしてB国が負けると「バルカンのあのへんを差し出すから許して」という話し合いになる。そもそもB国のものじゃないんですけど。トルコの欧州側は、そうした列強のせめぎあいの「景品」だった。「分銅」という表現もありました。

なるほど。こうして欧州側の分割が終わったので、次はアジア側。通称「中東問題」です。こっちの場合は、もう余裕がないので列強がナマで衝突するかたちになった。それが「欧州大戦」。なるほど。


「切腹考」伊藤比呂美

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この人のものを読むのは初めて。ま、詩人ということは知っていましたが。文章というか、言葉に力がありますね。

えーと、書かれているのは一応「切腹」についてですが、むしろ鴎外への愛が書かれているというほうが近いかな。ほんと、好きみたいです。

したがってエリスについての考察もあるし、鴎外の文体についても研究しているし。そうそう、文体。これは漢詩のリズムなんだそうです。五言絶句なんかの押韻。だから語尾も「・・だ」「・・だ」「・・だ」と続いたのに、急に「・・である」に変わる。変わる必然性は皆無なのに、変わる。韻です。たぶん鴎外は無意識に韻を踏んでいる。

阿部一族についての考察も面白かったです。「阿部茶事」という原典があったんですね。初めて知りました。 ( ちなみに、滅亡した阿部家の隣家、又七郎が「元亀天正の頃は茶の子茶の子・・」とせせら笑う)


「戦争まで」加藤陽子

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加藤陽子はいいですね。素晴らしい。平易で、論理的で、公平で新しい視点。この本は夏休みに一般から受講生をつのって、加藤陽子が講義した。受講生の中心は高校生かな。少ないけど中学生もいるし高校教師もいる。

しかも単なる講義ではないです。聴講生には資料を読み込むことも要求。ま、高校生といっても大部分は有名私立。よほど強い関心がなければ無理な聴講です。

内容の中心は、リットン調査団、日独伊三国同盟、日米交渉。なんとなくの「定説」とはかなり実相が違います。なるほど、こうやって戦争への道をたどった。軍人だけが悪だったわけでもない。政治家、官僚、マスコミ、国民。みーんな「これしかない」とそれなりにたぶん信じて、破滅への道をひた走った。

その他 ★★★の本
「人間晩年図巻 1990-94年」関川夏央

思いの外、よかったです。山田風太郎の臨終図鑑を継いで、しかしこの時代、臨終の詳細を描くことは不可能。それで「臨終」ではなく「晩年」になった。とりあげる範囲が広がっています。

「黒い豚の毛、白い豚の毛: 自選短篇集」閻連科

短編集です。閻連科(えんれんか)は、ノーベル賞の莫言の従兄弟みたいな雰囲気の作家ですね。同じように田舎育ち、学歴がなく、食うために軍に入り、貧しい農民の生活を描いた。ただし莫言の能天気さではなく、惨めさとか繊細さとか。後味がよくて、記憶に残る書き手です。

「FEAR 恐怖の男」ボブ・ウッドワード

まっとうなトランプ本です。きちんとしていて、読みやすい。内容はもちろん、いかにトランプがアホで始末に困る男か、につきます。ウッドワードって、ニクソン本を書いた有名記者かな。

たとえば大統領執務室。朝、デスクの上に「米韓自由貿易協定を破棄」なんて命令書が、サイン待ちで置いてある。こんなのにサインされたら米韓関係は破滅です。側近は書類をそーっと持ちだしてしまう。

通常なら大問題なのですが、トランプは気がつかない。完全に忘れる。で、数カ月たつとふと思い出して、書類を用意しろ!とまたわめく。また誰かがその危険書類を捨てる。

そんなのが側近の仕事。笑ってしまいますが、真実でしょうね。

「家康、江戸を建てる」門井慶喜

江戸に開府した家康が利根川を曲げて、銚子のあたりに持っていかせた。これは知っていましたが、思うだに大仕事です。

もちろん家康が自分でやるわけはない。開府の頃は本多正信あたりが働いていた気がするんですが、はて、具体的には誰に命じてやらせたのか。こうした疑問に答えてくれる本屋大賞ふうの気楽本が本書ですね。実際には伊奈一族という官僚の系譜が、こうした難事業を実現した。

神田上水や慶長小判の話もあり、これも面白かったです。特に高低差の少ない地形で、どうやって水を流すか。工夫がいろいろあったんですね。