「犬が星見た-ロシア旅行」武田百合子

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inugahoshimita.jpg中央公論社★★★★

たぶん読んだことがあると思うのですが、ぜんぜん覚えていない。武田百合子が夫の泰淳、友人の竹内好、3人で1969年にロシア旅行「白夜祭とシルクロードの旅」に参加した記録です。

1969年は昭和44年。ソ連はブレジネフです。プラハの春の介入の後くらいかな。まだまだ厳しかった時代だし、日本もオリンピックから5年、ようやく発展しはじめたという頃合いですね。

横浜からソ連船でナホトカ、列車でハバロフスク、ハバロフスクからは空路でイルクーツク、そしてノボシビリスク。そこからアルマ・アタへ。

イルクーツクはバイカル湖畔のけっこう大都市ですよね。大昔、東京へ夜行で出てきて「イルクーツク物語」という芝居を見たことがある。奈良岡朋子だったかな。民芸。最初は平凡なオバハンだったのに、演じているうちにどどんキレイになった。

ノボシビリスクってどこだ? 調べてみたらモンゴルの北西あたりです。としか言いようがない。で、そこからアルマ・アタなんだけど、これも現在は「アルマトゥ」という名前で、ま、カザフスタンにある都市です。それ以上は無理。

で、あとはタシケントとか暑いところをウロウロ。グルジアから最後はレニングラードに飛んでモスクワに南下して、いよいよストックホルム、コペンハーゲン。

まあ、考えるだに大変な行程です。よく行く気になったなあ。食べてるものはたいてい「パン、チーズ、ヨーグルト、タマゴ、シャシリク」。シャシリクってのは、ま、肉の串焼きですね。あのへんの定番らしい。

暑いからひたすらティを飲み、ナントカ水を飲み、ビール(みたいなの。まがい)を飲む。機会があるとブランディとかワイン買い込む。竹内好は早朝に起きてしまうと、明るくなるまでひたすら部屋で飲む)。歯のない武田はシャシリクが出てくると情けない顔をする。百合子は強い酒を買いに行くと子供あつかいされて「こっちのレディス用にしろ」と、アルコール度の弱いのばっかり勧められる。

百合子の日記はいいです。特記すべきことはなにも書かれていないのに、面白い。竹内と武田の仲がいいような悪いようなやりとり()。同行のひときわ高齢、銭高老人の行動とつぶやきの数々。

本筋とは関係ないけど、最後の方で出てくる「コペンハーゲンからヘルシンキが見える」の件。え? まさか・・・。ちょっと自信を失いかけたけど、やはり勘違いで、ヘルシンキではなく、スェーデン海岸のヘルシンボルグ(ヘルシンボリ)でした。

 

そうそう。竹内夫人からは「あまり酒をのまさないように」と頼まれていたんだった。もちろん、竹内好はひたすら飲む。泰淳も飲む。百合子もガンガン飲む。

竹内も武田も、もう体力がなくなっています。残り少ない日々をこの旅につかった。「つれて行ってやるんだからな。日記をつけるのだぞ」と指示されて、百合子はせっせとメモをとった。たしか富士日記も同じような指示で書くことになったはずです。

版元である中公の書誌データに「天真爛漫な目で綴った旅行記・・」とあった。うーん、かなり違いますね。出版社の中の人が無神経に『天真爛漫』なんて言葉を使っちゃいけないです。そういえば山田風太郎だったか、どこかの本の帯に「老残の食日記・・」とかいうキャッチを発見してあきれていました。ほめたつもりで『老残』と書いていたらしい。

 

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このページは、kazが2022年9月29日 16:39に書いた記事です。

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