「道 - 自伝」森繁久弥

| コメント(0) | トラックバック(0)

morishige1.jpg藤原書店★★★

本棚にデーンと厚いのが目立っていたので、ついつい借り出してしまった。「全著作 森繁久弥コレクション 1」

何も考えず読み始めましたが、この巻は(ほとんど)満州時代が主です。はい。勝手な印象とは違って、森繁久弥は昭和14年から20年まで満州新京(長春)でNHK勤務。アナウンサーとはいえ、兼ディレクター兼記者のような仕事をしていたらしい。

ただしそれまでは想像通り()。さんざん遊びまくった不良で早稲田では劇研。東女から劇団員を募集してきたと思ったらすぐさま彼女にしてしまう。お決まりコースで大学はやめて東宝へ。それもうまくいかずロッパ一座。応召されたけど中耳炎で帰郷。そのへんで一念発起しました。猛倍率試験をクリアしてNHK入社。満州勤務を選ぶ。

満州では決心して、生まれて初めて懸命に生きたといいます。子供も生まれていた。思い切り頑張った。頑張ったけど、たぶん天性の遊び心というか、ユーモアというか、いい加減というか。それは失なわなかったようです。おそらくずーっと、モリシゲだった。

そうそう。甘粕正彦のエピソードがありました。大杉事件の甘粕大尉、短期の収監のあとは満州にわたって、満州建国とかいろいろ策動した。たしか映画では坂本龍一が甘粕の役をやっていましね。ラスト・エンペラー。溥儀を脅したり示唆したり。で、これもいろいろあって、甘粕は最終的には満洲映画協会の理事長でした。権力があるような、脇に追いやられたような微妙な位置。

で、あるときNHKや満映のちゃらんぽらんワル連中が「あーあ、たまには上等な飯が食べたいなあ」と話していたら、オレ、甘粕さんのモノマネできるぞと森繁が言い出した。で、関東軍上層部しかいけないような料理屋へ森繁が電話。「あ、うー、オレだ。こんど若いのをそっちに行かせるから、うん、なにぶん頼む・・」とか。

甘粕さん。怖いと評判だけど、面白い人だったというのが森繁の評です()。敗戦、黒板に「大ばくち すべってころんで スッテンテン」と書き残して服毒自殺した。ただしWikiでは「大ばくち 身ぐるみ脱いで すってんてん」だそうです。どっちが真実かは不明。

それにしても広大な満州での生活、敗戦、ソ連兵の恐怖、中国軍と八路軍。そして無蓋車での延々悲惨な逃避行。おまけに引揚援護の世話役までひきうけて現地にとどまってしまったり。森繁だからけっこう軽妙につづっているけど、同じテーマをあちこちの媒体に書いてるためか、集録も同じようなテーマが多い。同じ出来事を、少しずつ違えて読むはめになる。

満州・朝鮮からの引き上げ惨状はいろんな人、いろんな作家が記しています。実にいろいろありますが、そんな中でも森繁のそれはいちばんきつい気がしました。あっさり、軽いタッチで、書きにくいことを書いている。とりわけ辛い。

この巻は「道 - 自伝」というタイトルでした。芸談とか世相とか、ニヤリとできる話はまた別の機会が必要なようです。

 

祖父は(たぶん)幕府大目付。大叔父(かな)は幕末明治の有名人・成島柳北。父親も関西では知られた実業家。

大杉栄らを殺したのは事実としても、事件の背景や意図は不明らしい。甘粕一人の考えだったのか、それとももっと上層部からの指示だったのか。事件後、なんで満州で大物として存在感を示せたのか。

 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.min6.com/mt/mt-tb.cgi/2330

コメントする

アーカイブ

この記事について

このページは、kazが2022年10月 5日 15:38に書いた記事です。

ひとつ前の記事は「腹ふくるる」です。

次の記事は「「一発屋芸人の不本意な日常」山田ルイ53世」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。