Book.04の最近のブログ記事

新潮文庫 ★★★

 

  jiyuunochi.jpg文庫で上下二冊。大昔に読んだのもの再読、と思っていたが、奥付を見たら平成十二年。そんなに以前ではなかった。

ケン・フォレットって作家は出来不出来がある印象です。たとえば最近読んだ「鴉よ闇へ翔べ」なんかは超ひどかった。で、この本は割合いい方でしょう。内容は、そうですね・・前半はフォレット得意の近世英国もの。搾取に憤る、貧しく鼻っ柱の強いスコットランドの炭鉱夫の話です。で後半は甘っちょろい「ルーツ」+「コールドマウンテン」という感じかな。時代は独立戦争前夜です。

たいした小説でもないのになぜ読後がいいんだろう・・と考えてみると、やはり若い男女がプランテーションを逃亡して西部へ旅立つという設定なのかな。西部ったって、この頃はせいぜいアパラチアを越えるという程度ですが、でも夢がある。人がいなくて、川には魚がうようよしていて、山には鹿がゴロゴロ遊んでいて、梢には悠然とワシが飛翔。そんな辺境へ愛し合う健康な男女が旅立つ。もちろん弾薬用の鉛や農機具などたっぷり持っていないと、ひたすら悲惨な話になってしまいますが。

この小説の最後では、悪役はみんな死んでしまうし、新生活用に馬は10頭もいるし、インディアンは公正だし、西部の季節は春。男はたくましくて機転がきき、女は銃と乗馬が得意々々。ま、楽しそうな結末です。現実の悲惨さはまったくないからフラストレーション解消になるんでしょうね。これが厳冬だったり、装備がなかったり、食料が乏しかったりしたら、ひたすらみじめ。コールドマウンテンになってしまう。

(そうそう、私は見ていませんが映画のコールドマウンテンは男女がめでたく最後で会うらしいですね。小説コールドマウンテンではヒーローがあっさり殺されてしまいます。めぐり合うこともできません)

米国の地理にまったくくらいので、読み終えてから地図帳をくってみました。なるほど、バージニアの農園から馬車でリッチモンドへ南に下り、そこから西のシャーロッツビル。さらに西のスタントン(ストーントン)。その先で山脈にそって東北に上がって峠を越える。地図ではたいした距離に見えないんですが、何百キロもありますね。そりゃ大変だ。

別件ですが、この小説の主人公は流刑囚としてバージニアに送られます。で、徒刑の期間が7年。7年たつと自由人になれる。なるほど。渡航費の払えない一般の貧しい移民の場合は運賃後払いの形で行き、4~5年間の徒弟奉公という形をとる。奉公期間が終わると自由。うまくいくと手に職もつくし、開業資金もため込めるかもしれない。で、もちろん黒人奴隷もいます。こっちは期限なし。原則として一生奉公。というか権利ある人間としては認められない。ま、いろいろです。

集英社 ★★

 

aaieba.jpg
 リビングに転がっていたので、つい一読。

阿川と檀、どっちも達者ですねー。うまい。二人の掛け合い漫才(じゃなくって交互発表)の形をとった、ま、エッセイ集というか、雑文というか、悪口合戦というか。その悪口雑言と暴露の度合い、突っ込みセンスが絶妙。笑えます。なんかこの本で賞をもらったらしいです。

檀ふみはB.A.(ビフォー・アガワ)、AA(アフター・アガワ)と年号を使い分けているらしい。知的清純派だったはずの檀が実は意外なドジ女の面を暴露するようになったのは、アガワとの交際が始まってから。ここを転機に人生が変わってしまったんです。だから損をしたってことでもないんですけど。

一応は食べることをテーマにした軽い読み物。楽しめます。好きになれます。

そうそう。アガワが「中高はキリスト教系だったので・・」とか書いていたので、あれ、この人、聖心(なぜかそう思い込んだ)だったっけ・・とチェックしてみたら、聖心ではなく東洋英和でした。六本木にあるプロテスタント系の学校ですよね。よくは知りませんが、なんとなく雰囲気のいい学校。村松英子もそうだっような(遠藤周作あたりが制服姿の英子にオドオオしてしまうとか、読んだ記憶)

ところが檀ふみの方はどこのサイトを見ても大学のことしか書いてない。高校をスッ飛ばしている。なぜだろ、としつこく探したら筑付でした。当時はまだ教育大付属だったのかな。筑付から慶応の経済かなんかへ進学。両家の親(檀一雄と阿川弘之)の教育感の違いや本人の性向なんかもなんとなく想像されるようで、余計なことですが面白かったです。

これも余計ですが、上記の本で受賞したのは「第15回講談社エッセイ賞」だそうです。

河出書房新社 ★★

 

shimaakira.jpg著者は棋士。その実力そのものより、むしろ羽生など若手の参集した「島研」主催者として有名になってしまった印象。将棋界の語り部 河口七段(たぶん七段?)によると、確か洋装お洒落派の嚆矢みたいな書かれ方をしていたような気がする。ラルフローレンあたりを着こなした最初とか。

中身は、先輩から見た「チャイルドブランド」の連中、羽生とか森内、佐藤、郷田といった棋士たちの凄さ、考え方、エピソード集ですね。たぶんゴーストライターは使っていません。多少文章に自信のある将棋指しが、ま、渾身の力を入れて書いたというようなものです。それだけに読みづらい部分もあり、面白い部分もある。

棋士同士ってのは、面白い関係です。みんな少年時代からの仲間でもあり、ライバルでもあり、なんせゼロサム社会ですから誰かが上昇すれば誰かがひっこむ。敵のようでもあり、仲間のようでもあり。仲がいいからといって気を許すのはやはり勝負師ではない。ツンケンばかりするのは仲間じゃない。

全体を読んで印象に残ったのは、やはり羽生のこと。みんなにとって羽生対策というのが大変な課題なんですね。羽生に気後れしたら最後。でも認めないのはアホ。悪いやつじゃないことは百も承知だけど、対局中のあの目つきが気に入らない。あのザーとらしい手つきはなんだ・・・。

誰だったか忘れましたが、「なんで羽生さんは駒を打つとき、わざわざ左上から大きく右下に手を振って打つんですか。どう考えたってあの動きは無意味。合理的じゃない!」とブツブツ言っていた棋士のエピソードがある。イライラするんだろうなー。それを言うなら熱血シニア加藤一二三の動作なんて、相手から見たら腹が立って仕方ないでしょうね。仁王立ちにはなるわ、ベルトをずりあげるわ、自分の背後にはまわるわ、だいたいあの超長いネクタイはなんだ・・悪趣味な。えーい、腹が煮える。

というように、なかなかの一冊です。ちなみに「純粋」ってのは棋士たちの心のことみたい。自分で言うのもちょいとナンですが。

文藝春秋 ★★★

 

kazega.jpg週刊文春に連載していたもののようです。読書日記。

池沢夏樹の本を読むといつも感じるのですが、どうもうまくいかない。抑制のきいた文体は好きだし、見方もいいです。興味の方向も広範。じっくり読むと「うん、いいなー」と感じるのですが、でも読み通すことができない。不思議です。美人で人柄もよくて賢くて、なんにも難点がない女性なのに、でも結婚する気になれない・・というような不思議さでしょうか。

今回もしばらく放置しておいて、さすがにもったいないのでパラパラとアトランダム拾い読みしました。たぶん全体の7~8割は目を通したと思います。そこまで到達したところで返却期限がきた。

文芸、科学、社会、歴史、いろんな範疇に関心を持っている人ですね。たぶん、非常にきっちりした人なんだろうなぁ。取り上げた本の中で、たとえばアン・パチェットの「ベル・カント」に対しては甘すぎる!と厳しかったです。人物の設定がご都合主義で甘々、だから結末も破綻しているとご批判。まったく指摘の通りだと私も思いますが、でもわたしはその本、けっこう好きでした。

そうそう。読み終えてからふと、サン・テクジェペリの「星の王子様」の結末の部分が気になりました。王子様が「もう思い残すことはない」と言ったというけど、実は原文は「なにもいうことはない」だったはず、という一文。訳の内藤濯さんがそんな誤訳(意図的なんだろうな)をするだろうか・・・と不審で、該当ページをもう一度探したけど発見できない。サンテックスのことは書いてあるけど、女房はそんなに悪妻でもなかったというようなことだけ。どこに書いてあったんだっけか。

トシヨリの勘違いでした。たまたま今日の朝日新聞(土曜特集)に星の王子様が取り上げられていて、この話が乗っていた。「なにもいうことはない」ってのは、どこかの少年がそう記憶して手紙に書いたというようなストーリーで、「原文」というのは出版の日本語文、という趣旨みたい。最近の新聞のこのテの文芸ものは、とにかく文章が悪く凝っていて、意味がなかなか読みきれない。おまけに私がボケかかってるから、新聞と書評本の記述がゴッチャになってシナプスに残ってしまった。

困ったもんです。自分の記憶が信用できなくなると、けっこう悲惨です。

NHK出版 ★★

 

nankyoku.jpgさして期待しないで借り出した一冊です。

このところNHKがやけに力いれて南極ものを放映していますね。ま、せっかく取材班を送り込んだんだから、番組作らないと仕方ない。で、そうしたレポートをまとめたのがこの本のようです。

「プロジェクト」編のため書き手は複数。達者な人もいるし、ひたすら固い人もいます。それでも内容そのものに迫力があるため、けっこう楽しんで読めるものになっています。

この本では氷床の研究をしている英国チームの話が面白かったです。時代おくれの三角テントを張って寝泊まりし、プラスチックではなく木箱に機材を収納している。ローテクふうですが、実はあんがい賢い選択だし、堅牢。米国チームみたいに圧倒的ハイテク機材とパワーで南極の自然をねじ伏せるんではなく、なんといいますか、一種の共存のような姿勢。こなれた伝統を信頼しながら自然とうまく折り合いをつけいく進め方ですね。英国人ってのは、やは独特です。

観測船ももう三代目なんですか。宗谷から始まって、ふじ、しらせ。宗谷は海上保安庁の船だったはずですが、調べてみたら2736トン。今は船の科学館に係留されてるけど、実に小さいです。こんな船が南極まで行ったのか。文献引写しですが建造が昭和13年の「耐氷型貨物船」です。戦後は引楊船、灯台補給船。で最後が南極観測船ですか。

1次隊は南極海で氷に閉ざされて立ち往生。ソ連のオビ号に助けてもらったことがありました。宗谷には手も足も出ない厚い氷(といっても多分1メートル弱程度)の海をオビ号はザックザックとあっさり航行します。日本は情けないなー、大国ソ連はすごいなーと日本中の子供たちは実感したものです。

二代目の「ふじ」は5250トンです。三代目の「しらせ」は1万1600トン。倍々に巨大化している計算です。その「しらせ」も老朽化し、次船の予算がとれるとかとれないとかが問題になっているようです。

南極って、やはりロマンをかきたてられます。無理だろうけど、生涯に一回くらいは見てみたい。アムンゼンとスコットの極点到達レース、そして白瀬中尉の探検(でもやっぱり力が足りなかった・・)。子供にとっては憧れでした。月や火星への旅に比べても、夢がありましたね。

新潮社 ★★★

 

midnight1.jpgこのところパラパラ読み続け、この土曜日曜に最後の5巻6巻を読了。パキスタンあたりからアフガニスタン。イランを経由してトルコ、ギリシャ、イタリア、フランス、スペイン、どん詰まりがポルトガルのサグレス岬。あとはオマケでパリ、ロンドン。

旅の直後に書いたものとばっかり思い込んでいましたが、どうも違う。20代の旅をふりかえって、30代40代になってから執筆したものらしい。そういう意味では紀行記ではなく、やはり一種のフィクション、ノンフィクションの匂いはするけど実は整理整頓して再構成したフィクションなんでしょうね。

特有の臭さはあります。良くいえば清冽な感受性、悪しざまに言えば若気の気取りとでもいうか。でもそうした些細なハナモチを完全に打ち消す迫力のあるシリーズだと思います。沢木にしか書けなかったものなんでしょうね。もし同じものを山口文憲が書いたら、まったく雰囲気が違ってしまう。

話は違いますが、私もマドリードに一泊したとき、夜中のバールで変なオッサンに酒を奢られました。超貧相な黒づくめオヤジで、たしか市役所かなんかに勤めてる下っぱというようなことでした。でも、私の貧弱な英語力でなぜそんなことまでわかったんだろう。不思議です。

グラナダの夜のバスではセビリア農協かセビリア婦人会のオバサンたち(たぶん)と同乗したことも思いだしました。薄暗いバスの中でオバサンたちが歌うセビリアおけさ(のようなものでしょう、たぶん)は哀愁があってなかなか良かったです。

そんなことを思い出してしまいました。

祥伝社 ★★

 

douzoumeguri.jpg清水義範の感性は割合好きで、たいてい読んでいる。ただし現代ふう小説には好悪があって、こっちに限ると制覇率30パーセントくらいかな。どっちかというとアホ話のほうが好きです。

「銅像めぐり旅」は、奥さんと二人で全国の有名銅像をめぐり、その町を少し語り、銅像となった人物について語り、ついでに土地のものを食べて帰るというようなシリーズ。

ま、そういう本です。サラリと読み終えました。内容もソコソコ。悪くはなかったです。

六興出版 ★★

 

gouhime.jpg新潮社からも出ているらしい。これは六興出版の版。

豪姫ってのは、例の前田利家の娘で秀吉の養女になった女性です。宇喜多秀家に嫁した人ですね。八郎秀家は関ケ原の後、八丈だったか、どこかの孤島へ流されて、けっこう長生きしたはずですが、豪姫は実家である金沢に戻ったらしい。はばかりのある出戻りですから、たぶん、あんまり幸せな老後にはならなかったでしょうね。どこかで髪をおろしたか。

で、作者は富士正晴。すんなりストーリーを作る人じゃありません。

この本の主要登場人物は、まずお転婆娘の豪姫。大名茶人としても知られる古田織部(織部焼ですな)、織部の下人、ウス。脇役としては会津配転が決まってうっくつしている蒲生氏郷。こすっからい天下人・秀吉。高山右近の家臣だったらしいが今は山に暮らす老人・ジュンサイ。

なんだかわからんけど、けっこう面白い本でした。なんだかんだ言いながら、織部は意地はって破滅の道を歩む。戦場の討ち死にがかなわなかったジュンサイ老人は、買い取った女と交合の限りを尽くして腹上死しようともくろむ。山で平穏に暮らしたいと願っていたはずのウスは、中年を過ぎてまた豪姫に出会ってしまう。実はウス、若いころに豪姫様と一夜の契りを結んだ(というようなロマンチックな話でもないんですが)ことがあり・・・。

ま、読んで見てください。後味は悪くないです。

 

光文社 ★★★

 

shidenshimsengumi.jpg小説宝石に連載していたもののようです。

血沸き肉踊るタイプの新選組じゃありません。なんせ「史伝」ですし、作者は三好徹です。どうもけっこう新発掘の資料も多いようで、従来の子母沢寛、司馬遼太郎とはまた解釈も違うし、観点も異なっています。

冒頭、いきなり出てくるのが福地源一郎。えっなんでこれが新選組なんだ?という導入ですね。剣を握ったこともない福地が少しは覚えようと思い立って門を叩いたのが牛込試衛館。近藤に入門は断られけたど、なんなとく気に入られて、時々は遊びに行った。なんせこのころの福地は一応幕臣ですから、粗末には扱われません。

で、ある日道場で福地が漏れ聞いた浪士募集の話を何気なくした。例の清河の浪士組設立の一件です。近藤たちとはたいした関係もなかった福地だけど、この「情報を伝えた」という一点において実は新選組誕生に大きくかかわってしまっていた・・・。とういうような展開。

松本良順なんかもそうですね。なんとなく、なんとなく近藤や土方との接点を持ってしまう。なんとなく、なんとなく、函館まで同行してしまう。もちろん最後の最後、良順は五稜郭を去ります。

とまぁ、そういう趣向で語られる新選組です。ですから近藤にしろ土方にしろ、その行動は登場人物から見た「情景」として語られる。全体としてたいした量は語られていませんが、でも新選組の存在感は確かにあります。

一味違って、いい本でした。読後感はさわやかです。

新潮社(小学館だっけ?)から出て売れているらしいですが、あいにく購入して読んだわけではなくまとめサイトの閲覧です。

本というべきなのかなー。掲示板の書き込みではありますが、そこに「整理してまとめる」という作業が加わった段階で、やはり一種の「本」になってるんでしょうね。

何気なく読み始めて、やはり感動しました。平凡な、オタク系のウブな青年が女性と知り合い、緊張しまくりながら食事の約束をとりつけ、生まれて初めて美容院で髪をカットし、、女性に好感をもってもらえそうな服装を算段し、会い、ぎこちなく話をし、そのうち手を握り、・・・数カ月後にようやく告白までたどり着く。

どこといって特にドラマチックな要素があるわけでもありません。ま、キッカケは電車の中で酔漢から女性をかばおうとした、という点では多少のドラマですが、でもテレビドラマと違って特にヒロイックな行動がとれたわけでもない。ヒーローになれたわけでもない。どちらかというと、自己嫌悪に陥ってしまうようなぶざまな結末です。

でも青年は以前から出入りしている2ちゃんねるの掲示板(彼女のいない、モテナイ男専用みたいな自虐系掲示板)に、報告書き込みします。こんなことがあったよ。普通なら、感謝→食事→交際→カップル! みたいな進行だってありそうなものだけどなー、ドジなことにメールアドレスも聞き忘れた・・・。

しかし後日、その女性からお礼にティーカップが2つ届きます。HERMESという刻印を見て、どこの陶器屋だろうといぶかしくおもう青年。それ、エルメスだぞ、相手は金持ちだ、お嬢様だ、と沸き立つ掲示板の常連たち。

このへんから常連たちは逡巡する青年のサポーターになります。あるいは青年が彼らの輝けるチャンピオン(代闘者)候補になります。女性の心理をみんなで推察し合い、どんな食事に誘うべきか、どういう内容の電話をすべきか、デートの服装、髪形、行動のとり方、などなど。

自信もなく頼りなかった青年も、ハードルをひとつ越える毎に強くなっていきます。強くはなるのですが、時として急速に落ち込みます。比較的裕福な家に育ったらしい女性に対するコンプレックス、自分なんか相手にしてもらえるわけがない。からかわれているんではないだろうか。釣り合いがとれないよなー。そんなふうに落ち込んだとき、モテナイ板の常連たちは意外なほど暖かく励まし、応援し、助言し、親身に勇気付けてくれます。その熱気をもらって青年もまた立ち直る。

いよいよ最終段階。青年が「今日は決戦だ!」と腹をくくって出かけたデートの夜、常連たちはPCの前で彼の帰宅を待ちます。彼が「帰宅しました」と報告したのは朝方の4時40分。その時点でも、かなりの数の常連たちが寝ずに待機していたようです。報告の結果は大吉。眠い目をこすりながら自分のことのように興奮し、喜び、涙する仲間たち。

・・・こう記述していくと、あまりにキレイすぎる話にみえますね。実際は、2ちゃん特有の妬みや嘲弄、悪意の書き込みもあったんだろうと思います。でも大筋としては、たぶん上記のようにリアルタイムで進行しました。青年は恋人を得ることができました。仲間たちは祝福しました。そしてたぶん青年はモテナイ板を卒業して、カップル板に移行したのかもしれません。

男なら誰でも経験したことがあるような、恋の逡巡や緊張や悩みや高揚や喜びや苦しみです。その青年と一緒になって興奮し、一緒に共演しているかのような参加意識を味わい、成果を期待し、でもひそかに失敗をも期待しているだろう男たち。こんなストーリー展開のどこが面白いんでしょうかね。所詮は他人のことでしかない。人の恋路なんて犬に喰われてしまえ!

でも、読後には不思議な感動があります。感情移入ができる。臨場感がある。素晴らしい大恋愛小説を読んだような読後感です。

こういうストーリー(小説)が刊行されてしまうと、大人の文化人や評論家たちは戸惑うでしょうね。インターネットサブカルチャーの特異性として片づけてしまうのか、あるいは文芸のターニングポイントとして妙に評価してしまうのか。でもそんなふうに一言で処理できない要素が、このストーリーにはたっぷり含まれています。

ま、久々に面白いものを読ませてもらいました。

 

追記
これって、高橋留美子の「めぞん一刻」そのものだなー。あれも最後の方では冴えない主人公・五代に感情移入してしまう。

 

早川書房 ★

7king.jpg最近、新しい本を読んでないなー。

で、性懲りものなく、またこの本を借り出してしまった。英語で今読んでいる部分と、ときどき照合するのが目的。日本語で読むと、やはりだいぶ違う。あーそうだったのか・・という部分がかなりある。

この本を借りたのは3回目。さすがに製本が疲れてきて、あちこちのページが危なくなりかかっている。ページが取れないようにちょっと神経を使う。

噂によると続編を早川が出す予定らしいです。なんだったか。すごい訳タイトル。えーと、「王狼たちの戦旗」だ。ちなみにこのBOOK2の原題は A Clash of Kings です。それほどひどい翻訳でもないというべきかな。表紙イラストはあいかわらずファンタジー調のようですが。

そうそう、原作者のGeorge.R.R.Martinは今回の大統領選に非常にご不満のようです。「MOURNING FOR AMERICA」という大タイトルで文句をつけています。で、あいかわらずBook4はまだまだ書き終わる見込みもたっておらず、今年中の刊行は無理な雰囲気ですね。本当は2月に出版のはずだったんだけどなー。

朝日新聞社 ★

 

gansakutenchi.jpg天地創造から四十六億ン千ン百ン十ン年ン日・・後。かなりボケのかかった神様がふと作品のことを思い出して・・・というような、七日間のお話。

何なんでしょうね。大人の童話といえばいえる。無意味といえば無意味。今日も料理下手な奥様の神様の作ったパスタかなんかを無理やり食べさせられている神様、ま、愛嬌があるといえば言えるけど。

のったりした雰囲気は悪くないものの、どうも人類の精子減少がどうとかクローン羊がどうとか、何か言いたいことがあるようで、でもハッキリしない。別役実って、こんな人だったんだろうか。

失敗でした。

 

集英社 ★★

yumekumano.jpg分厚い一冊。著者名に馴染みがなく、ゲテものかな(でも集英社だし)と心配しながら借り出したが、収穫だった。

時代は源平です。源為義が熊野の別当の娘に生ませた娘、鶴(たず)を織物の縦糸として、熊野三山の歴史というか民俗をあやしく描き出しています。なんせこの鶴、為義の娘ということは義朝の妹、八郎為朝にとっては慕う姉、頼朝や義経には信頼の叔母。ここに後白河や清盛、弁慶、新宮十郎行家 熊野の湛増、河野三郎(ではなく熊野水軍の鈴木三郎らしい)、巫女やら鬼やら天狗やら。

ただ、そんなにおどろおどろしい内容ではありません。本宮、那智、新宮の絡み、当時の京と熊野の関係などなど、へーっという部分もたくさんあります。熊野のあたりのことって、なんにも知らなかったもんですから。

「丹鶴姫伝説」ってのは、実際にあるらしいですね。山深い熊野。高貴な血筋の怪しい巫女。何十年たっても美貌が衰えない八百比丘尼みたいな存在。雰囲気があります。

紀和鏡という人、中上健次の奥さんらしいです。

講談社プラスアルファ文庫 ★★

 

namake.jpg副題は「生き物たちの驚きのシステム」

「ゾウの時間ネズミの時間」「歌う生物学」なんかと内容はかなりかぶっているけど、ま、だから問題があるわけじゃない。そうそう、思い出したけど「歌う生物学」では「せんばる音頭」とか「ナマコの教訓歌」とか、たまたま子供が音符を読めたのでメロディを教えてもらって、家族でいっしょに歌った記憶もあります。

このシリーズ、数字処理がいい加減だとか専門の学者仲間からは批判もあったらしい(たぶん)ですが、でも啓蒙書としては秀逸です。指数グラフなんも一応はのってますが、そんなことは誰も気にしないで読めますね。

で、わかったこと。ナマケモノは外見ほど幸せとは限らない。もちろん、不幸とも言えませんが、本人が特に「のんびり生きられて幸せだな・・」と感じているわけでもないようです。残念。

だからどうした。なんという無意味な読後感想だ!と叱られそうです。ナマケモノは叱られても気にしません。そもそも、ナマケモノに聴力があるんだろうか。

別件。

矢野徹さんが亡くなられたようですね。81歳。作家として記憶に残っているのは「折紙宇宙船の伝説」くらいかなー。翻訳はうんとこさあって、ハインラインといえばこの人。ただF.ハーバートの「デューン 砂の惑星」シリーズも矢野さんだったとは知らなかった。

「ウィザードリィ日記」は楽しく読みました。この頃、もう60歳は越していたはずですけど。枯れない元気なジイさんだったという印象です。

 

マガジンハウス ★★

 

shikoku.jpg「蛇鏡」によく似た構成ですね。

四国は「死国」である。右回りの正統お遍路に対して、死んだ人の年の数だけ左回りに回ると死者が帰ってくる。何やかにやで四国の中心の村には死者がつぎつぎと蘇ってきて・・・。ま、そういうようなストーリーです。

私、板東眞砂子は好きですが、ホラーそのものはあまり興味がない。ですからストーリーなんかはどうでもよくて、むしろ文体とか人間描写のほうが面白い。この本でも東京へ出ていたっ女がちょっと出戻りして、野暮ったかった少女が都会的に変貌していて、あいかわらずの村の同級生なんかと親しんだり疎外感を感じたり。そういう都会vs田舎、現代vs過去みたいな構図が好きです。土俗描写にかけてはこの作者、名人ですから。

あんまり説明になってないなー。それでもけっこういい本だったと思います。ちなみに私の場合、この人の代表作は「山妣(やまはは)」と「善魂宿」。とくに山妣は雪深い山奥を舞台にしたドロドロの因果もので、まるで圓朝の「真景累ケ淵」ですね。蛇足ですが洋もの(旅涯ての地などイタリアもの)は閉口で、読了したことはありません。

実業之日本社 ★

chieizu.jpg

中村彰彦ってのは「いつの日か還る」とか「名君の碑」の人ですね。あまり上手ではない印象でしたが、今回はかなりひどい。

そもそも松平伊豆という人、私はあまりよく知らない。知恵伊豆と言われたとか、島原の乱で指揮をとったとか、大名潰しの原動力であった(たぶん)とか、ま、その程度です。

死ぬときに関係書類をぜんぶ焼却してしまったらしい。それで詳細がわからない。なんで焼却したかというと、秀忠とか家光とかから貰ったものも多く、あとでそのへんを誰かが利用したり誤解したりしちゃいかんから、というのが理由だそうです。たとえば長年官房長官をやってたような人が、死後に持ってる書類をすべて公開されたらそりゃ大騒ぎになる。おおっぴらに言えないようなことも多々あるでしょうし。

そういうわけで、あまり人物の材料がない。結果的にこの本、「チエ伊豆トンチ話集」になってしまいました。家光がワガママ言ったり、誰かが困ったりするとチエ伊豆があらわれて、サッと解決。みんな感心感嘆。一休さんみたいですね。

ひどい本でした。


草思社 ★

tonosama.jpg

徳川慶喜の孫として育ち榊原家(越後高田藩)に嫁いだ女性の暮らしと生き方。戦争、敗戦、華族解体。それなりに強くたくましく生きていく。

ただ、前作「徳川慶喜家の子ども部屋」に比べるとだいぶ落ちます。内容が個人的すぎるからでしょうか。どうしてもナントカオバサン半生記みたいなふうになってしまう。「徳川慶喜家」の方はなんといっても十五代将軍の後半生そのものに価値がありますからね。老いた慶喜が運動のため革張り廊下を毎日スタスタ往復していたというだけのエピソードでも、重みがある。 

チョロッとですが太宰の「斜陽」についても触れています。「この作家はほんとうの華族はどういうものか、まったくご存じない。おそらく華族に一度もお会いになったことがないだろう」と疑問を呈しています。そりゃそうでしょ。華族ったって下々が思うほど特殊な人種というわけではなく、それなりに逞しかったり強かったり。霞を食べて暮らしているわけじゃないんですから。

そうそう、和服をいう場合、自分たちは「お召し」という言葉を使った。使える下々の者たちは「着物」と言った。だから最近よく聞く「お着物」という言い方がどうも奇妙な感じがして・・という部分、けっこう面白かったです。なるほど。よくテレビなんかで耳にする「今日の妃殿下は藤色の御着物で・・」なんていう表現、違和感を感じるんでしょうね。


新潮社 ★★★

midnight1.jpg

このところ妻がハマっていて、やたら沢木の話をするもんで、読ませてもらった。

なるほど。

26歳で所持金のすべてをトラベラーズチェックと現金に換えて、これが1900ドル。で、ユーラシア大陸バスの旅に出かける。そのとっかかりが、まず香港。ほんの数日のはずが香港にとりつかれてしまってズルズルと長期滞在となり、マカオではカジノにひっかかって破滅しかかり、でもかろうじて200ドルの損失にまで取り戻し、フェリーのデッキに転がって香港に逃げ帰る。

今月行ってきたばかりの香港の話なんで、リアルで面白かったです。泊まった安宿の黄金宮殿というのはあのへんかな、なんて見当もつく。この時代の青年の感覚。フラストレーション、閉塞感もたぶん理解できます。

1900ドルって、当時はどれくらい金額だったんだろう。沢木26歳の1973年頃なら1ドル300円程度のはずです。すると57万円か。ちょっと調べてみたら昭和51年(1976年)の大卒初任給が9万4000円でした。でもこのへんって、ものすごいインフル期なんですよね。これ以前の資料がなかなか発見できなかったんで責任持てませんが、たぶん3年前の昭和48年なら初任給6万~7万程度じゃないかな。

とすると(ずいぶんいい加減な推測計算ですが)ほぼボーナス込み給与の半年分くらいになりますか。現在の大卒初任給を20万円とすると、ザッと160~190万円。うーん、単に金額にするとたいしたことないみたいですけど、実際の重みは物凄く違いますね。とにかくカツカツで必死で食べてる時代の、年間所得のほぼ半額です。そんな大金、自由に使える青年なんてほとんどいなかった。おしなべて国民すべてが貧しかったんです。

ま、そんなことはともかく。

この文庫の後書き対談で山口文憲(この人の香港ものは以前に読んで感動した記憶あり。もっと若い人かと思っていた)としゃべっていて、二人とも1947年生まれ、26歳で放浪の旅に出ていることが判明。当時の放浪旅はたいてい20歳前後が多いんですが、これだと受け止めるものが一気に多すぎる。カルチャーショック、金、女、すべてが怒濤のようにおしよせ、結果的につぶれてしまう青年が多かった。それに比べると26歳はそれなりのスタンスも出来、世間知もある。核がある。

「それがよかったですよね」と二人が納得しあっている。そりゃ間違いないんだけど、でも26歳というと、もうバカは卒業して固く会社勤めしてるケースがふつうなんです。この年になってからアホをやろうと思いたったというのが沢木、山口。ま、そういうタイプでないと物書き商売で生きていくのは難しいでしょうな。

いい本でした。

追記
思いついて上記 山口文憲の「香港旅の雑学ノ-ト 新潮文庫」を再読。やはり面白い本です。沢木とは違った方向からのアプローチですけどね。


新潮文庫 ★★★

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書棚で発見。こんな本、誰が買ったんだろ・・って、もちろん自分しかありえない。数ページをぱらぱらめくってみたが、なんか読んだような記憶もない。変だなー。

読み進むうちに、ようやく記憶が蘇ってきました。確かに数年前、これは読んでいます。良著とでもいうべき一冊でしょうね。

ただ池澤夏樹って嫌いではないし、魅力もあるんですが、1~2冊読むと疲れる。押さえ込んだメッセージ性とでもいうべきでしょうか。いかにも理系ふうに、著者は主張を冷静にググッと抑えてはいるんだけど、でも中の暑さが皮を通して輻射してくる。放射してくる。その放射が暑い。

というようなグチを別にすれば、好感のもてるフィールドワークふう、ルポルタージュふう、紀行エッセイです。ハワイイ( HAWAIではなく HAWAII )という島嶼の成り立ち、歴史、現在が実によく理解できます。


実業之日本社 ★★

副題は「土方歳三異聞」。私が借り出したわけではなく、転がっていたので一読。

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この作者、よく知りません。新撰組関係というか、土方関連が多いみたいですね。この本も鳥羽伏見の後の土方と、その土方を付け狙う元隊士と女を絡ませたもので、なんかウジウジしながら股旅物みたいに函館まで行って、土方が死んでおしまい。

元隊士とは芹沢鴨の配下(あるいは同士)の平間重助。結果的に鴨を裏切って逃走し、落ちるところまで落ちてから逆恨みで匕首呑んで土方を付け狙う。女のほうは20歳の頃に年下の土方に孕むまされてしまったという経歴で、これも愛憎こもごもで土方を追う。なんだかわけのわからない筋書きです。

ま、そんなストーリーはどうでもよくて、ようするに江戸・奥州・蝦夷を転々とする新撰組副長土方を描きたかったんでしょうね。ちょっと土方が颯爽としすぎています。

うまいんだか下手なんだか不明の一冊でした。


集英社 ★★

soundt.jpg

読み終えて表紙を撮影。フォルダに入れようとしたら「上書きしますか?」のメッセージが出た。え?とチェックしたら、今年の1月に同じ表紙画像を(それも同じ soundt.jpgという名称)入れていたことがわかった。

要するに8カ月前、いったん読みかけて挫折していたということのようです。ひどいものだ。なーんにも覚えていない。

で、この本。うーん、古川日出男という人、魅力ある設定で魅力あるストーリーを展開し始めるんだけど、必ず途中からおかしくなる。今回の「サウンドトラック」も二人の子供が孤島で生き延び、片方は音楽を憎悪、片方は身体を動かす=舞うという強迫観念にとりつかれてしまう。

これからどうなるのかなーと思っていると、結局どうにもならない。熱帯化した近未来のトーキョーを舞台にこの二人が勝手にアホをやりつづける。トウタはアンダーグラウンドで生き続け、ヒツジコはカトリックの学園でダンスの巫女となる。そこにアラブの少女(少年)が絡んで、なんだか知らんけどカラスに惚れてしまい。ついでに映画を撮る。古川作品って、映像とか音楽に奇妙なトラウマありますね、いつも。

完全に分裂、混乱してしまった失敗作でしょう。部分部分には面白い味があって、それが古川日出男の魅力ではあるのですが。そういえば「13」も「アラビアの夜の種族」も、みんな失敗作といえなくもないような気がします。

文藝春秋 藤沢周平全集巻6 ★★★


kaitennomon.jpgこのところ時間がとれず、本がすすまない。この間、吉村昭の「深海の使者」とかマーガレット アトウッドの「昏き目の暗殺者」も手がけてみたが、どれも読了まで至らなかった。「昏き目・・」は機会があったらまた挑戦の予定。

で、安易にまた藤沢周平。たまたま何かで「二天の窟」について書いてあるのを読んで、興味をひかれて借り出し。とりあえずこの一編と、もう一つ「玄鳥」を読む。どちらも士道もの、決闘ものですね。

二天はもちろん宮本武蔵です。武蔵の晩年ものは各作家がいろいろとりあげてますが、藤沢さんのこれなんかは秀作の方でしょうね。余韻が残ります。老いた武蔵が生涯初めて若い武芸者に遅れをとる。負けた!と自覚する。それで武蔵はどうするか・・。ま、そういう話です。

「玄鳥」も若い平凡な人妻の目を通して見た、冴えない武士のこと。強いけれども間抜け。おっちょこちょい。道場主である父も他の大人たちも見抜いていなかったその男のソコツさを子供たちはとっくに知っていた。これも味の残る佳作です。藤沢さん、やはり短編がいいですね。他にもたくさん収録されている短編集なので、これからチョコチョコ読むつもりです。

文藝春秋 藤沢周平全集巻18 ★★


kaitennomon.jpg周平づいてしまって、棚の中にあった「三屋清左衛門残日録」を再読。もちろん悪くはないけど、でもそんなに大傑作なのかなー。なかなかの一冊ではありますが、私の個人評価ではせいぜい三つ星。

ついでに文春の全集を借り出して「よろずや平四郎活人剣」。このテの浪人もの、長屋ものを読むのは初めてです。なんとなく昔の山手樹一郎のような印象を持っていました。

で、平四郎ですが、水野忠邦の天保が時代ですね。一味違っていて、主人公はちょっとグレかかった旗本の庶子です。性格も深刻ではなく、時代が下っているせいか軽い。明るい。金銭感覚もしっかりしています。長屋住まいをしながら「もめごと解決」で小銭を稼いでいる。

なんだかんだ言いながら、最後まで読んだんだから、ま、いい本なんでしょう。ただ後半まで行く頃になると、また例のパターンか・・と飽きてくることも事実です。怪物鳥居は暗躍するし、登場するヤクザ者はみんなドスを呑んでいるし、性格の悪そうな侍はすぐ切りかかってくるし、しかも平四郎は主人公ですからえらく強くて、バッタバッタと峰打ちでやっつける。

多分、藤沢さんはけっこう楽しみながらこの連載を続けたんだろーな、という印象です。こういうストーリーも書かないと精神衛生上のバランスがとれない。どれもこれも一茶みたいな本だったら、やりきれません。

ま、悪くはありませんでした。上出来の講談本です。

蛇足
平四郎が稼ぐ手間賃ですが、捜し物程度だと200文~400文程度。ちょっと大きな仕事では1両とか5両。文と両の関係がよくわからないのでサイトで調べてみました。寛永の頃の公定価格で、1両=1000文。おおざっぱに言って1両は10万円くらいだそうですから、200文で2万円ですか。煮豆屋の娘さんから謝礼で取るにしては、けっこうな額です。

蛇足 2
1両=6000文(銭6貫)といううデータもありました。幕末あたりは銭相場が下落して1万文にもなったとも。こういうとこが難しい。1両の価値もかなり下がっていたようです。


文芸春秋 ★


shuuhei.jpgたぶん、藤沢周平没後の文春記念特集号かなんかが元になっているようです。

書いてる人たちはみんな周平さんを褒めちぎってるんで、だんだん飽きてきます。飽きて来るけど、一応は最後まで読みました。

読後感はあまり感心しませんでしたが、でもまた藤沢本を読んでみようという気になったんだから、ま、良い本だったんでしょう。


中公文庫 ★★★


keppuroku.jpg人気らしい「燃えよ剣」なんかと比べると、はるかに好きです。

なんといいますか、取り上げた連中にみんな味がある。女のため、出世のため、あるいは意地のため、あるいは成り行きで。必死に頑張って、たいていは破滅する。

この中で名前は忘れましたが薩摩からもぐりこんだ男のエピソート、興味を持てました。冴えなくて、頭悪そうで、でも示現流の達人で、虫歯の兆候があるとすぐ釘抜きで無理やり抜いてしまうんで歯が一本もない。変な男です。こういう男が新撰組に間諜として入る。

ま、いろいろあるんですが、生命力がすごい。戊辰戦役で官軍に捕まっても最後の最後まで脱走をはかる。逃げきれないと知っても逃げる。往生際が悪いのなんの、思い切って抵抗する。もちろん惨殺されます。で、殺したほうが一種の感動を覚えてしまうほどの野獣ぶりです。他におさめられた挿話の主人公はみんな従容として切腹したり斬首されたりするんですが、この人だけは別格。

調べてみたら富山弥兵衛という名前でした。


新潮文庫 ★★


erizabeth.jpg映画のノベラゼーションなのか、それとも原作なのかは不明。いずれにしても進行を波瀾万丈にするため時系列はけっこう無茶しているし、諜報担当ウォルシンガムがハリウッドのスーパーマンのような働きで困難を次々と解決していく。

という真っ当な話を別にすると、それなりに面白い一冊だった。

実際のエリザベスというのは、どんな人物だったんだろう。超ケチ、優柔不断、戦争恐怖症、足して二で割り何もしない、石橋叩いて渡らない・・・。でも結果的に辺境の島国イングランドを一流国に育て上げたのは彼女、あるいは、彼女の時代だ。

ひどい連想だけど、東京12チャンネル。日テレ、フジ、TBS、テレ朝などと比べると、いかんせん力はない。予算もない。平均すると番組の質も低い。でも低予算の中で工夫をこらして思いもよらない番組を作って当てる。一流キー局には決して作れないコンテンツをひねり出す。我が家ではNHKの次によく見るのが12チャンネルです。よくまぁあれだけB級タレントを使って、いいかげんな(でもけっこう面白い)番組を作る。好きな局です。

まっとうな国家が海賊働きを奨励して、しかも上前をはねる(この小説の中では確か75パーセント納入させる)なんて、普通は考えつかないですね。でもそういう政策の結果、たとえばフランシス・ドレイクがサーの称号を得、無敵艦隊撃破の立役者になる。

もう一つ、この小説で思ったのは大貴族という連中の位置づけでした。たとえばノーフォーク公という人は絶大な権力を握っていて、場合によっては女王の寝室へズカズカ侵入してきて、文句をたれている。女王側ではなんとか彼の力を削ごうとするけど、でも簡単にはいかない。

たとえば江戸時代の尾張とか紀州のようなもんなんでしょうか。でも、もっと実力がありそうな雰囲気です。淀の方に対する家康のような関係かなのかな。

論より証拠。年表を調べると、この小説に登場するノーフォーク公は4代目のトマス・ハワードのようです。1572年に処刑されてますね。となるとエリザベス戴冠が1558年ですから、エリザベスは1533年生まれの25歳。で、ノーフォーク公は1537年生まれですからまだ21歳の青年じゃないですか。こんなに偉そうにできるわけがない。ちなみに4代ノーフォーク公とアン・ブーリン(エリザベスの母)は、たぶん従兄弟です。

なんか、雰囲気が違ってきますね。もっともウォルシンガムやセシルなんかも実際にははるかに若かったようです。


文春文庫 ★★★

semishigure.jpg名作!ということになっているらしい。確かに良品という記憶はあったのだが、久しぶりに読み返してみて、あらためて自分自身の評価をつけると四つ星ではなく、やはり三つ星になってしまう。

藤沢作品に対しては、常にこの不満感を覚える。絶世の美人なのに後姿に瑕瑾があるとか、惜しいかな声が悪いとか。キズになるようなものではないけど、でも不満が残る。せっかくの、めったにいない美人なのになー。

蝉しぐれ。清涼感、透明感がいいですね。藤沢さんの風景描写は特に絶妙です。厭味のない名人芸。五間川にそそぐ小さな流れのほとりに下級武士の家々が立ち並び、その一軒の裏手で稽古帰りの少年が体をすすぐ。隣の家には12~13の女の子がいる。子供だと思っていたのに、最近は妙に恥ずかしがって避けるような様子すらある。少年も意識するような、しないような、はっきりしないモヤモヤした状況。

でも、少年にはもっともっと大事なことがたくさんあります。友人のこと、道場のこと、決着をつけなければならない少年同士の揉め事、母親への気兼ね、昼食までに帰らないといけないだろうか、それとも多少はおしゃべりの時間をとれるだろうか。

たいていの成長物語がそうであるように、というより少年が青年に脱皮していく過程こそがこの小説の芯であるからですが、境遇の劇的な変化、隣の美しい寡婦への形容できない感情、剣の道へのストイックなのめりこみ等々、読者は少年と一体になって耐え忍んだり、喜びを覚えたり、希望を抱いたりしていきます。そして、どれだけ共感させてくれるかが、こうした小説の出来不出来なんでしょうね。そういう意味では90点、95点の素晴らしい一冊なのですが・・。

終盤、透明感を持った成長物語が急に俗悪時代小説に変貌します。家老の命を受けてから友人二人と大活躍を開始するところからですね。いきなりスターウォーズかバックトウザフューチャーの一場面みたいなチャンバラ活劇になってしまい、バッタバッタと人を斬る。サービスが過ぎます。残された刺客うんぬんの挿話も余計ですね。

おまけにハッピーエンドの大団円。エピソードでのおふくとの一件は非常な蛇足です。おいおい、そんな甘い恋愛話ではなかったんじゃないの? と言いたくなります。

同じような作品では、たとえば周五郎の「ながい坂」。これも主人公がスーパーマンすぎるのが厭味ではありますが、さすがに最後はギュッと締まっている。家老かなんかに出世した主人公の背に「さすが出頭人、颯爽たるもんだな」とかなんとか、若侍たちの心ない揶揄が飛ぶところで終わっていたような気がします。

この二人、いいとこ取りしたら物凄い作品になるんだろうか。無理か。

Voyager ★★★★


stormswords2.jpgA Song of Ice and Fire シリーズのBook3 「A Storm of Swords」の下巻 「The Blood and Gold」をようやく読了。マスマーケット版(廉価版のペーパーブックですね)で、本文600ページほど。

ふだんは電車の中でしか読まないのだが、最後の70~80ページくらいは意外な進行の連続で、ついつい根を詰めてしまった。思いっきり気を持たせたところで終えて、次のBook4はまだ刊行予定が立っていないというのだからファンがイライラするのもわかります。

これで私の洋書歴は計3冊。この年になってからこんなややこしいことを始めるとは自分自身でも意外です。ただ、いまだに単語はほとんど分からないままで、そうですね、各ページに5~6コはわけがわからない。一応理解しているつもりの単語でも細かい部分は不明だし、目が悪いせいでスペルを勘違いすることも多い。headとheardを間違えたりとか。

一番笑えたのはliver。南の国で大食らいの強者が「liverとオニオンを一緒に食べる」とかいうクダリがあったけど、liverっていったい何なんだ? 辞書をひいたら「レバー」なんですね。肝臓。そうか、あれはレバーではなく、正しくはリバーだったのか・・・。oarってのもなかなか見当がつかなかった。船を漕ぐオールですわな。こういう単純そうなものがいちばん誤解してしまう。

ま、次のBook4が出るまでの間はBook1 「A Game of Thrones」で時間をかせぐ予定です。内容は邦訳でよく知っているはずなので、たぶんすいすい読める(?)でしょう。かな?

蛇足ですが、この巻のエピローグにはまいった。死んだはずがまだ死んでいなかったとは・・・。こういう掟破りもできるのがファンタジーというか、SFというか・・。


早川書房 ★★★


inuha.jpgg副題は「あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」。原文タイトルは「TO SAY NOTHING OF THE DOG or How We Found The Bishop's Bird Stump At Last」

判じ物みたいな題だが、どうもジェローム.J.ジェロームという人の「ボートの三人男」(邦訳もある模様) からとったものらしい。呑気な三人の紳士が犬をつれてテムズ川下り。一種のテムズ観光案内のような内容とか。

それはともかく。

Bird Stumpってのが何なのか。それがややこしいです。ページの最初の方では「鳥株」という訳で出てくる。そりゃ直訳すれば鳥の株だろうけど、それって言葉になっている?・・と混乱しながら我慢して読み進むうちに、だんだん見えてくる仕掛けになっています。数十ページ読んで投げ出さないように。ま、コニー・ウィリスの読者なら、こうした我慢は承知の上でしょうね。すべてが伏線、入念な仕掛けになっている。

なんといいますか、「ドゥームズデイ・ブック」の姉妹編ですね。例のダンワージー先生も登場します。秘書役のフィンチも(今回は妙に有能)出番があります。で、ネッド君が苛められながら21世紀と20世紀と19世紀をうろうろ彷徨したり活躍したり、推理したり走ったり。珍しく恋までもするようです。

ただ、書評なんかで言われているよりは犬、猫のキャラは立っていません。魅力がないわけではないけど、でも平凡。どうしても犬猫を舞台まわしに使う必然性も特にはなかった気がします。この点は少し残念でした。

ま、何であれかんであれ、「ドゥームズデイ・ブック」の陰の対して陽。「ドゥームズデイ・ブック」の涙に対しては笑い。悲惨でもなく、悲劇的でもなく、くすりと笑える好品。いわばコミック仕立てのアガサ・クリスティ。お勧めの一冊です。ただし、2940円(税込)は高すぎる! 高すぎるぞ!


小学館 ★★


metalcolor.jpgこのシリーズ、たぶん大昔に第1巻、第2巻あたりは読んでいるはず。まだしぶとく続いていたんですね。ここから例のNHKのプロジェクトXに採用される例が多いと自慢が書かれていたけど、確かにそうだろーな。

その大昔の内容と比べると、大企業が増えているような気がします。前は町工場のガンコオヤジとか中小企業の社長なんかが多かったような気がするけど。もっとも、大企業といってもシェーバー専門の子会社だったり、炊飯器に命をかけていたりという点では、やはり「中小」の仲間なんでしょうね。

そこそこ楽しみながら半分ほど読みました。あとは時間切れ。

ま、山根さんもこんなライフワークみたいな連載を持ててよかったよかった。一時期の超売れっ子状態からフッと沈んだような印象で、メディアで名前をみる機会も少なくなり、少し心配していたのですがまったく杞憂でした。余計なお世話。


朝日新聞社 ★★


buson.jpgパソコンの前にかけてあるカレンダー。モリサワというフォント屋さん(というのも乱暴な言い方だけど)のカレンダーで、なかなか趣味がいいです。で、先月の絵がなんかいい雰囲気。鳥が一羽、斜めに飛んでいる。俳画というんでしょうか、絵と俳句のようなものがゴタマゼになっている。こういう言い方もひどいですね。

妻が「これ、何と読むんだろう」と言い出したので私も興味を持ちました。もちろん、必死になって目をこらしたけど読めません。なんか「狂女」とあるような気もする。「岩○○」とあるような部分もある。どうも蕪村のようなんで、調べてみました。

岩くらの狂女恋せよ子規

これが正解。岩倉と狂女はどういう関係なんだろう。そんな逸話でもあるのかな・・などと思っていたら上記の本があったので借り出し。私は覚えてないけど新聞に連載されたものらしいですね。

拾い読みしても、けっこう面白いです。高橋さんという人、芭蕉と蕪村の対比に関心があるらしく、ところどころで比べている。私はなんとなく蕪村の感性の方が好きです。妻は芭蕉もいいわ・・といいます。

で、タラタラ気がむいたときに拾い読みしているうち借り出し期限到来。全体の1割も読んでいません。ま、そんなものでしょう。


朝日新聞社

朝日新聞の連載だったらしいですね。御一新の後、淡路から蝦夷へ開拓で渡った家族の話らしい。読み始めてけっこういいな・・とは思ったのだけど、時間がとれなかった。返却期限が迫ってきて、挫折。

また機会があったら借りなおします。池沢夏樹って、すべてが面白いとは限らないけど、割合好きな作家です。最初に読んだ「マシアス・ギリの失脚」で名前を鮮明に覚えました。


紀伊国屋書店 ★★


botanical.jpg奥さんが気に入って借りてきた本をサラサラッと拾い読み。

いとうせいこうなる人物、よく知らない。顔はなんとなく知っているような気がする。オカッパ頭のあいつだろう、という程度。何やってる人なのかも知らない。

で、ベランダ園芸のお話。お洒落で本格的な「ガーデニング」とは違う。要するに狭いベランダで、誰でも知っているようなありきたりの花をイジイジと育てている。特別なことは何もしていない。育て方も私やあなたと大同小異。いい加減であったり、適当であったり、気が向くと世話をしすぎてみたり。

だから、いいんでしょうね。意外な花が咲く。大切にしている花が死ぬ。枯れかけたやつがしぶとく生き残る。濁った水の中で金魚がポカリと浮く。水草(名も知らぬ、ただの水草)はまがまがしく繁茂して水槽を占拠する。後悔するのはわかっているのに、またメダカを買ってしまう。独身(たぶん)男の、西日の当たる、マンション生活。

確かに日本版、現代版の「園芸12カ月」でしょう。カレル・チャペックの矮小版というか、現実版というか。哀しいけれど、なつかしいようなベランダーの1年です。


集英社 ★


matsutoshi2.jpg副題は「加賀百万石を創った人々」

複数の執筆者による加賀百万石史。 ま、期待しないで読んだのだが、予想通りだった。冒頭(だったかな)の永井路子の分担分が比較的読めて、あとは・・・という印象。たいして知識のない私にとってさえ、新視野で目ウロコ!という内容はなかった。

要するに、利家、まつ、利長、利政あたりというのは、いい資料が残っていないんでしょうね。もちろん量はそれなりにあるんだろうけど、みんな後世のものだったり、やけに神格化されていたり。

集英社というのもよくないかな。このテの本は歴史専門の人物往来社(名称これで正しい?)みたいな版元のほうが、むしろまともに作ってくれるような気もする。


筑摩書房 ★★


igirisuno.jpg副題は「フォークロアと文学」。よく知らないのですがブリッグスという人、このジャンルでは定評のある研究者らしく、堅い真面目な本です。ファンタジーがすごく好きでつい手にとってみた・・という読者にはとっつきにくい内容でしょう。

と、偉そうに書いてる私も、けっこう手こずりました。そもそもの素養がないからなー。ゴブリン、フェアリー、インプ、ブラウニー、ドワーフ、エルフ、シルフ・・・あとは知らない、という程度。

なんとなくブラウニーというのは家にいて、よい事もしてくれる妖精というイメージはありましたが、読んでみると面白い。妖精と付き合うのはそれなりに大変なんですね。気がむくと家事を手伝ってくれるけど、お礼には最上のクリームを容器に入れて暖炉の上に置いておかなければならない。感謝しないと怒るし、といってへんにお礼を言ったりするとヘソを曲げるし、感謝の気持ちで着るものを作ってあげても素材が粗末だといって文句をいったり、あるいは上等の衣服でも「もういなくなれってことか!」と怒って消えたり。

だいだいは小さな連中のようです。小はキリギリス大、親指大からせいぜいで子供程度。岩山の内部に宮殿があって、月夜は丘の上で踊ったり、歌ったりする。日本のコブ取り爺さんのような話も多々あるようです。ま、日本にすれば河童とか天狗とか、狸みたいなイメージなんでしょうかね。キリスト教の立場からは「悪魔の手先」と毛嫌いされているけど、民間には根強く残っている。

そういえばあのジャンヌ・ダルクも村外れの泉で妖精のダンスを見たということ読んだ記憶もあります。感受性のある人には彼らの存在が感知できるのでしょう。

なかなかに勉強になりました。


マガジンハウス ★★★★

boushoku.jpg拾い物だった文人悪食の続編。妻が前編「悪食」と間違って、新刊の「暴食」を借りてきてくれた。

「悪食」の方では既にメジャーの漱石とか鴎外などを使ってしまっているので、こっちは少し格落ちの八雲、逍遥、四迷、独歩、虚子、犀星などなどの連中。格落ちといったって、錚々たる作家たちですよね。

テーマ(暴露された食生活)も面白いんだけど、でも要するに嵐山さんの書き方、切り取り方が上手なんですよね。この続編を書くのに八年だか十年かかったと記してありましたが、それも理解できる。あるいは代表作といっていいかも知れないです。ほかに嵐山って、どんな本、書いてたっけか。

この本では常にその作家の体型や容貌、食べ物の嗜好や量など、具体的なものから迫っていきます。だから説得力もあり、実に意外性がある。たとえば徳富蘇峰と蘆花、なんとなく蘇峰は豪快な快男児で蘆花は繊細な民衆派みたいな印象があるけど、実際には逆転。蘆花ってのは腕力モリモリの巨漢で、豚のような大食漢でおまけにウジウジした嫌な野郎だった。

鈴木三重吉には笑えました。漱石門下。童話の「赤い鳥」創刊で有名な人です。なんとなく眉唾な気持ちを個人的には抱いていましたが、やっぱりそうだった。大酒飲みで、からみ酒で、お山の大将になりたいタイプ。でも傲慢かつ独りよがりでみんなに嫌われた。仲のよかった白秋とのケンカが致命的で、我慢できなくなった白秋が離れた結果、この赤い鳥は衰退します。

芥川の原稿(蜘蛛の糸)を添削したというのもすごい。さすがに周囲が「そんなことしていいのか」と咎めたけど「いや、芥川といえど子供向けの文章はウニャウニャ・・」と、平気で赤を入れた。

若い頃の川口松太郎。こういうタイプは大っ嫌いだから我慢できず、なんかの時に突っ張り棒かなんかで三重吉をさんざんぶん殴ったこともあるらしい。三重吉、偉そうにしている割りにはケンカは超弱かったそうです。

そうそう、芥川の「葱」のモデルは宇野千代と今東光だったんですね。「オレとデートしてるのにあいつ、ネギなんか買いやがって」と東光がボヤいたのを聞いて、あの短編が生まれた。宇野千代ってのは男も好きだったけど、食べることも好きだったし料理に工夫するも好きだった。長生きした人です。


コニー・ウィリスの新刊が出たらしい。「犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」という本。朝日新聞の書評欄に出ていた。

内容はドゥームズデイ・ブックに似ているらしい。インフルエンザ流行の21世紀、オックスフォード史学科大学院生がタイムマシンで過去に飛ぶ。似ているというより、酷似かな。

良さそうなんだけど、例によって高い。2940円だって・・。多分、面白いだろうけど、でも2940円の価値があるかどうか・・。買えないだろうなー。そのうち図書館に並ぶのを待つか。

この週末は奥さんが借りてきた嵐山光三郎の「文人暴食」をパラパラ拾い読み中。「文人悪食」の続編らしい。例によって、実にいい。奥さんに聞いてみたら、前に私が読んでいた「文人悪食」と勘違いして借り出したらしい。よかったよかった。


Voyager ★★★★


stormswords1.jpg長大な A Song of Ice and Fire シリーズのBOOK 3が A Storm of Swords。UK版ではこれが更に上下に分かれており、上巻は Steel and Snow と題されている。で、その上巻をようやく読了した。時間がかかったなー。

通常の米国版は上下の合本で売られているはずで、たぶん、こっちの方の読者が多いんだろうな。参考までにUK版の上巻はJonがWallの南で自由野生人の女 Ygritte と袂をわかつ章までです。You know nothing, Jon Snow. やたら出てくるこのセリフ、けっこう気に入ってしまいました。馬を盗んで逃げ出したJonですが暗闇には正体不明の灰色の狼がいるようだし、近くの城の塔には弟たちが潜んでいるはず。はて、どうなるんでしょう。

架空の世界を舞台にしたこのシリーズ、下敷きになっているはもちろこの地球の世界です。闘争を繰り返す王、騎士などの思考パターンは中世のブリテンでしょうし、海の向こうに広がるのはアジアの広大なステップと騎馬民族、あるいはイスラムの街々でしょうか。もっと南にはアフリカの交易都市のようなものもあるようだし、壁の北の野生人Free Folkの原点は米国のヒッピーみたいに感じられます。中世のヒッピーたちがギターの代わりに竪琴かなんかを持って定住している。ん、違うかな。なんせ読みかけ途中なんで、わからないことが多すぎます。思い込むと、すぐ裏切られてしまうのがGeorge R.R. Martinの特徴。

少し前の章で王弟が3人の王を呪いました。Kings Landingの困った若い王、鉄の島の老いた王(王といってもいいんだろうな)、そして北の国の、頑張ってる若い王。そのうち、みんな死ぬんだろうなー。死んだあとがどうなるのか、つい引っ張られてしまいます。

これから下巻、The Blood and Gold にとりかかります。こっちは少しページが少なくて実質は580ページ程度。ボチボチ読んでるうちに続編のBook 4も刊行になるでしょう、たぶん。遅筆のGeorge R.R. Martin、まだ書き終わっていないみたいですが。

それにしてもこの5月、あんまり本が読めなかった。けっこう週末に出かける用があったしな。


早川書房 ★★★★


再読。

7king.jpg図書館に置いてあったのでまた借りてしまいました。本当は購入してもいいような本だけど、表紙がひどすぎて、わざわざ金を出す気にはなれない。上下巻で5600円というのも、ちょっとねー。最近の早川書房は嫌いだ。

前にも書きましたが、「氷と炎の歌(A Song of Ice and Fire)」と題したファンタジーシリーズのBOOK 1です。去年の4月にこの邦訳を読んでハマってしまい、なんせその後の訳本がなかなか出ないので仕方なく原書でBOOK 2、BOOK
3とボチボチ進めてきました。今はBOOK 3(上)の終わりに差しかかったところ。続いて(下)の700ページくらいを読了すれば、たぶん夏頃には出るだろうBOOK
4(だいぶ遅れてるらしい)にとりかかれる予定です。どの巻も膨大なページ数です。

で、この邦訳。どうかなと心配しながら読みましたが、相変わらずいいです。続編で主役級として登場してくる人物について、安心できる日本語でもう一度頭にたたき込んでおこうという意図もあったのですが、成功。そうか、こんなふうにチョロリと出てくる騎士が続編では大悪党になったり、存在感を示したり、あるいはさりげなく伏線が張ってあったり。

北と西の領主、狼と獅子の戦いの陰の仕掛け人も、ようやく見当がつきました。狼スターク家の当主(BOOK 1であっさり斬首)がやたら思い起こす妹の意味深なセリフの背景も、なんとなくイメージが湧いてきます。そんなふうに多少は見えてきた部分もありますが、でもわけのわからない部分はまだ山ほど残っていて、BOOK
2、BOOK 3とさらに謎は増えていく。

6巻完結ということになってるらしいけど、本当に完結するのかな。下手すると全10巻、完結は210年!なんてことも十分ありえます。

追記
良質のファンタジーなら読めるという人、甘ったるいファンタジーは飽きた!という人、深みのある冒険小説は好きだという人、権謀術数の戦国歴史ものには目がないという人、いつになっても先が見えない推理小説でも大丈夫という人、差別暴力強姦大量殺人幼児虐待の叙述てんこもりも平気という人、登場人物ン百人でも頭は混乱しないぜという人、自立したけなげな子供が好きという人、ぜひ一読をお勧めします。


文芸春秋 ★★


strike.jpg訳は村上博基。野球のかなり好きな人らしい。この人の訳でなんか他の野球小説も読んだ記憶がある。

引退間際の頑固なアンパイア。ま、よくあるパターンです。のっぴきならない事情で、なんとかカブスを負けさせなければならない。で、カブスのピッチャーは32歳の「大リーグ新人投手」。最終試合で何故か抜擢初登板という、ヘロヘロのナックルだけが武器という男。

どちらも破滅しかかった家庭をかかえ、それぞれの事情で力を尽くす。ただ、そんなことよりこの小説のテーマは「試合の流れにおいてアンパイアはどこまで不正ができるか」ということでしょうね。

けっこう楽しめた本です。ただ、最後の決着は、うーん・・・・。ちょっとねえー・・。


小学館 ★★★

yakeato.jpg 「戦中派不戦日記」の続編になるのだろうか。

この日記での医学生風太郎は暗く憤っています。マッカーサーも戦後民主主義も、共産党も日本人も、誰も信用していません。とくに付和雷同の軽薄民衆にたいする絶望感は深い。

混み合う列車の中での罵り合い。デッキにしがみついた男が「こっちは寒風にさらされてるのに、中に座っている奴が眠れないから静かにしろってのは、民主主義じゃないだろ!」とわめく。ちょっと以前はこんなとき「鬼畜米英主義だろ!」と言ったものだ、と風太郎青年は喝破します。

神と崇められた特攻隊員も、戦後は社会不適不良の代名詞「トッコー上がり」と変化します。「へんなものね」と若い女たちもコロコロ笑っています。何が変わったわけでもない。ただ戦争に負けただけのことですが。

この日記の刊行がかなり晩年まで著者に許可してもらえなかったというのも納得できる気がします。それにしても風太郎青年、折りにふれて「復讐」と呟くのは何なんだろう。


幻冬舎 ★★


kokuino.jpg火坂雅志という人本を読むのは初めてです。まったく期待せず、ただ金地院崇伝という人物の概略が知りたくて手にとりました。

金地院以心崇伝。南禅寺の住持になったんですね。南禅寺中興の祖ということになっているようです。どういう人かというと、例の天海僧正なんかと同じで、家康のブレーン。国家安康という方広寺鐘銘ナンクセ事件はこの崇伝が仕掛け人のようです。

ま、それなりに面白い本でした。ただ美貌の女忍者が絡んだり、大蔵卿の右腕である女性との絡みとかはちょっと閉口。小説としてはあんまりデキのいいものではない印象です。

そうそう、やっぱり天海と崇伝はライバルだったですね。死後の家康を権現にするか明神にするかで二人が争ったというのは初耳。なるほどねー。もちろん結果としては天海が勝ちました。


晶文社 ★★


sekisho.jpg文久というから、もう幕末も末の方だが、「参宮道中諸用記」という文書が残っているらしい。中身は旅の小遣い帳。ただし、ただの出納帳ではなく、東北出羽の中年女性が、ふと思い立って全国遊覧の旅に出た、その出納メモ。

どういう境遇のどういう人だったのかは不明のようだ。かなり豊か自由な身分だったことは確か。どっか行きたいなーと思っていたところに、急に「私も行きたい」という人があらわれたので、じゃ一緒に出かけましょ、と決心。下男のような雰囲気の男衆を二人つれて出発してしまった。

そんな女旅が出来たのか・・というのが実感です。どこの領内に入るにも出るにも手形が必要な建前だったはずだし、所々には厳重な関所もある。入り鉄砲に出女、と学校で習いましたよね。それが善光寺やら京都やら、金比羅やら、帰路では関東にも入っているから、ほぼ日本一周みたいなもんです。いたるところで賄賂をつかませ、手引きを受けて関所は裏街道を抜け、でもそんなに危ない橋を渡っている感覚はないみたい。幕末とはいえ、制度がいいかげんになっていたんですね。


図書出版社 ★★★


chijiran.jpg副題は「庶民の生きた明治・大正・昭和」

茨城の田舎に開業したお医者が、面白い婆さん出会います。なんというか、実に図太い。したたか。人を食っている。

だいたい、そもそもが、自分は静脈が出ない体質で注射が難しいのを承知で、わざわざ「血をとってくれ」と医院に来るんです。新任の医者が四苦八苦するのを見て笑ってやろうという意図。で、医者は腕も千切れんばかりに縛りあげて、無理やり血管を浮き上がらせて採血してしまう。そこで婆さんに気に入られた。

ということで、この婆さんをはじめとした、地元の老人たちからの聞き語りです。平凡な茨城の田舎の人たちの少年時代、少女時代、夫婦の暮らし方、嫁姑の話。出産の話。夫婦喧嘩の話。実に貧しいです。悲惨でもあります。間引き、身売り、病、極貧。徴兵されて軍隊に入ると、楽で楽でたまらんと喜ぶような境遇の人たちです。2.26の青年将校決起の背景がわかります。

でも、妙に明るいんですよね。あっけらかんとしている。たくましい。恨んだり、僻んだりはしていない。おそらく自分を特に不幸とも思っていない。ほんの数十年前まで、日本の田舎はこんなふうだった。

ちなみに「ちじらんかんぷん」とは、イタイノイタイノ トンデケ!みたいな、民間呪文だそうです。


文藝春秋 ★★★


mibugishi.jpgテレビや映画では有名ですね。ただし、私は見ていません。

浅田次郎という人、これまで敬遠していたのですが、初めて読みました。うーん、なんといいますか、巧い小説ではあります。それなりに感動もあります。でも、ちょっと書き手が計算しすぎという気がする。面白いけど、臭みが残る。

新撰組の吉村貫一郎という隊士が鳥羽伏見の戦いのあと、南部藩の大阪屋敷に逃げてくる。逃げてきたけど、相手にしてもらえず切腹させられる。で、介錯なしの悶死の後、座敷には二分銀を10枚ですか、きちんとならべてあった。国元の妻子に届けてくれるよう置き手紙があった。

多分、ここまでは史実(かも知れない部分)なんでしょうね。で、その背景になにがあったのか。吉村というのはどんな隊士だったのか。浅田次郎は「義」という言葉を置いた。義とは何なのか。義とは妻子を飢えさせないこと。家族のために生きること。かっこよく死ぬのは義士ではない、何と言われようと生き抜こうとするのが義士。あるいは、生きることが無理ならその義のために死ぬ。そう考えたとき、このストーリーはできたのでしょう。

よく言えば感動の傑作。悪く言えばお涙頂戴の通俗もの。私は主人公の吉村という人物がいまいちスッキリ見えませんでした。理解はでぎなかったけど、でも一気に読み終えた上下巻です。そうそう、他の新撰組の面々、人物の描き方は秀逸です。こんな面白い斉藤一とか土方は初めてです。実にリアルな雰囲気で、味がある。人間が生きています。上手な書き手ですねー。子母澤寛の描いた隊士たちをさらに生き生きとさせたと言ってもよさそうな気がします。


筑摩書房 ★★★


huhuin.jpg森まゆみというのは「谷中・根津・千駄木」という地域雑誌を出している人らしい。ただし私は未見。ただ、たしか森鴎外について書いていたのを読んで面白かった記憶がある。えーと、どこかに書いてたはずだな。ここだ。

ページ数の少ない本ですが、いいですね。読み終えるのがもったいない。内容は最晩年の山田風太郎に森まゆみ(他)がインタビューしたもの。インタビューといってもほとんど編集が入っていないので、風々居士の息づかいが直に伝わるような内容になっている。順番に明治開花ものの作品について聞いていくんだけど、なんせ風々居士だから話が飛ぶこと飛ぶこと。飛んだのを聞き手がなんとか軌道修正しようとすると、またヒョイと飛ぶ。その飛び方がまたいい。

というわけなので、山田風太郎を知らない、あるいは読んだことがない人にとっては超難解な一冊でしょう。明治期の人物や出来事の知識のない人にとっても辛いだろうな。ある意味、ちょっとスノッブな本でもあります。

惜しい人をなくしました。といってもご本人はヘッと笑ってるかもしれないけど。


青山出版社 ★★


akaite.jpg 板東英二というのは、あの元中日のピッチャー、テレビでやたらよく見るタレントです。役者としてもいい味がありますね。

この本が図書館の本棚にあることは以前から知っていました。タイトルをチラッと見て、器用な男だなー、小説まで書いてるのか、と思っただけでパス。たいして面白いわけないじゃないか。

それがフとしたはずみで借りてしまいました。「赤い手」および「赤い手 運命の岐路」の二冊です。

「赤い手」とは、敗戦後の満州・朝鮮国境付近、いつ動くか、いつ止まるか知らない貨車に乗っていた引揚げ家族、6歳の少年の手です。止まっていた貨車が前触れもなく突然動き出す。下に降りていた6歳の子供は必死で貨車に追いすがります。でも栄養失調の子供の足には走る力がありません。置いていかれたら、後は死のみ。

背後に迫る死を本能で知っている子供は、よたよた走りながら手を伸ばします。母親も必死で手を伸ばします。ようやく手と手が触れ、渾身の力で握られ、ひっぱり上げられる。生還。カサカサの汚い細い手は、握り締められて真っ赤に充血しています。満州の赤い夕日がその手を染めています。

そういう少年時代を持っていたんですね。徳島での貧しい引揚者生活。父親との確執。母への盲愛。しかもその母が、一時とはいえ少年を満州に捨てようと決心したことを知る。その母の決心を鈍らせたのも、6歳の子供の本能的な生への執着でした。

ただ、畑荒らしを常習としてきた貧しい少年は足が速く、野球に才能がありました。中学時代に町のヒーローとなり、野球部入学を条件に徳島商業へ進学。狂気の沙汰ともいえるチームの猛練習。甲子園出場。進学断念。プロ入り。そしてまた恋、事業、危機、成功。

全編を通しているのは猛烈な生への執着心です。富への執念。真っ白な飯に対する執着。貧乏はイヤだ。うまいものを食べたい。称賛されたい。成功したい。

たぶんゴーストライターを使っていると思うのですが、素人くさい文章です。構成もちょっと臭い。でもその臭さがいいですね。見栄っ張り、欲たかり、自分勝手。そうした欠点を隠そうとはしていない。そうしたあらゆる欠点を含めて、板東英二という存在が、多分ある。


新潮文庫 ★


tokinokanata.jpg本棚で発見。どうも読み終えた記憶がない。ものは試しで就寝前の時間をつかって再読(?)してみた。

なんといいますか、SFコミックふうの恋物語、とでもいいますか。なんか知らないけどドジな女がふられて泣きだすと、その声の魔力で16世紀から美男の伯爵がタイムトリップしてくる。伯爵は現代のロンドンにとまどうし、そのうちお決まりで女も16世紀へワープしてしまって悪戦苦闘する。不思議なことに二人のセックスを引き金にしてタイムワープが作動するらしい。

16世紀の考証は比較的まっとうなんですけどね。男と女の恋のストーリーが甘ったるすぎて読むのが辛い。読むのが辛いなーと思いつつ、でも最後まで読んでしまった。いったい、何なんだ・・・。

コミカルな味を出したタイムワープSFというと、コニー・ウィリスの「ドゥームズデイ・ブック」もそうですが、厚みとか深さとか、まっとうに比較すると90点対35点という感じ。もちろん「ドゥームズデイ・ブック」が90点です。「ドゥームズデイ・ブック」はたぶんこれから一生の間に数回は読み直すだろうと思っています。


新潮社 ★★★


peisonno.jpg時々読みたくなって借りてしまう吉村昭です。

プリズンといえば、もちろん巣鴨プリズン。戦犯を収容した監獄(拘置所)ですね。現サンシャイン。A級戦犯を扱った本はいろいろ読んだ記憶がありますが、この本のように看守(警務官)を主人公にしたものは未見。テーマも時代も違うけど山田風太郎なんかが同種の本を書いていますか。

戦争に勝った側が負けた側を「正義」の名のもとに裁く。煎じ詰めれば戦争そもののが超極悪な集団犯罪なんですから、裁こうとすればいくらでも裁ける。矛盾の固まりです。小学生のころにフランキー堺の映画で「私は貝になりたい」をみたもんで、これに関してはやりきれない気持ちが強いです。

巣鴨の場合は、GHQの指令のもとに、日本人看守たちもカービン銃を持たされて監視にあたった。囚人(収容者)たちに「その銃でオレたちを撃つのか」と問われたとき、看守たちは返事のしようもない。絞首台を作らされた徴用者、執行の際に使った覆面をその夜に洗わされる収容者。陰惨です。

田島という教誨師が登場します。この人は死を前にした人に説教なんかしない。とにかく泣きます。号泣します。死骸を抱いて泣き叫びます。他になにができるというのか・・。そんな坊さんがいた。

ただ、占領軍が撤退してからの巣鴨プリズンは日本独特のナァナァの雰囲気で運営されていきます。戦犯をどう見るのか、どう裁くのか、あるいは名誉復権させるのか。そうした根本的な部分をそっくり抜きにして、ウヤムヤのうちに釈放してしまう。あるいは長期の「一時外出」を適用して実質的に束縛を解いてしまう。こうした姿勢がいまの不明瞭な靖国問題にまで禍根を残しているような気がします。




中央公論新社 ★★


tojiki.jpg妻が借りてきた本です。サラっと通読。

京都育ちの骨董好きの元気な女の子が元気に育ち、元気に会社勤めをしながら英国へ行ったり、日本で修行したり。今では陶磁器の修理をわりあい真面目にやっている元気なオバサンになっているというお話。

元気な人です。高校生のころ、学校の隣の大徳寺の坊さんと仲良くなって、国宝級の茶碗で湯漬を食べさせてもらったという話は笑えます。また壊れた陶磁器に対する欧米の「修復」と日本の「修繕」の違いも面白いですね。欧米では限りなく元の姿に戻して飾り物にする。日本では金継ぎして「修繕」し、そのまま使い続ける。わざわざ異質のものを付加する金継ぎという考え方は、どうやっても欧米では理解してもらえないそうです。ニッポン人は金が好きだからなー、などと言われてしまうらしい。


角川書店 ★★★


keikinokodomo.jpg本棚から発見。ときどき気が向くと読んでいる。

著者は十五代将軍徳川慶喜の孫です。長じて高田榊原家(子爵?)に嫁したので榊原喜佐子。孫といっても下のほうで、したがって祖父慶喜の思い出はなし。要するに第六天町(今の文京区春日のあたりらしい)にあった公爵家での少女時代の思い出です。

著者は「広いけれども質素な作りで」と書いていますが、さすがに広大な屋敷です。見取り図もついています。ひたすら部屋数が多く、執事やら女中やらなんやら数十人が暮らしていたようですね。戦前の華族の生活、それも子供の目からみた暮らしが興味深いです

ただ、彼らととって代わりたいとは思いません。実に制約の多い生活。高貴なお方たちは窮屈な暮らしを強いられていたようです。そうそう、文章は何といいますか、品の感じられる実にいい文章です。


文藝春秋 ★★


sailerfuku.jpg鹿島茂という人は「レ・ミゼラブル 百六景(文春文庫)」で初めて知りました。レ・ミゼラブルの挿絵を基にして当時のパリの町並みの話やら広汎な知識を展開していく。いい本でした。

で、今回はテーブルの上に転がっていたのを発見して一読。たぶん、奥さんが借りてきたんでしょう。内容は日本のセーラー服の起源やら、SM亀甲縛りの由緒(海軍と陸軍が絡んでいた?)、エッフェル塔売り出し詐欺の話、英仏カエル食いと牛肉食いの悪口合戦などなど・・。ありとあらゆることに興味を持って、いろいろ調べていく。なんとも守備範囲の広い人です。

けっこう面白かったです。


飛鳥新社 ★★


ooyama.jpg河口七段(かな?)の書いたものは、以前はけっこう好きでよく読んだ。4~5冊読んでいくうち、少し飽きてきた。文章の非常に達者な人なんだけど、なんせ書いてる人が同じで、書かれる対象も将棋界しかないのだから、仕方ないだろうなー。

この書のテーマは大山康晴。好悪はあるだろうけど、とにかく超人物であったことは事実だし、強烈に強い人であったことも事実。河口も、個人としてはあまり合わないタイプだったらしい。合わないタイプだけど、でも勝負師として、政治家としては完全に認めざるを得ない。

かなり、いいです。特に有名な盤外の駆け引きやらなんやらが素人には面白い。ただ河口七段によると「対戦相手に負けてくれと懇願させた」という説は信じられないという。大山という人、とにかくプライドが高かったから、自分から相手に頭を下げるようなことはするわけない、という。ただ、自分に代わって友人某が頭を下げたことを知っても、それはそれで受け入れたんではないか。懇願にひるむような対戦相手なら組みやすし!と、みくびったかもしれない。

いろいろ考えると、けっこう怖いような内容です。


講談社 ★★


shoginoko.jpg著者は例のナントカ和(やまと)ちゃんと結婚した、元将棋世界(多分)編集長です。編集者をやめてから、確か賞をもらったはずですね。村山聖を書いた本だったかな。

「将棋の子」というタイトル、なんだか大地の仔みたいでイヤな題だなーと感じたのですが、中身は、ま、それなり。簡単にいうと奨励会挫折の少年(たち)の人生を描いたものです。天才少年として地方から上京し、天才集団・奨励会では平凡な能力でしかないことを知って打ちのめされ、また希望を抱き、また叩きつぶされ、そしていつのまにか退会年齢が迫ってくる。きつい競争社会です。

叙述はちょっと思い入れが強すぎるかな。一昔前に流行した新進ドキュメンタリーライターのサンプルみたいな雰囲気です。一枚のハガキをきっかけに、将棋雑誌編集者が夜行に乗って(ビール飲みながら)札幌へ行き、古紙回収の仕事でかつかつ食っている奨励会挫折の青年に会い、深い理由もないけど、なぜか青年が恋を知った町・北見まで足を運びたくなり・・・・。書き手の「私」がハードボイルドふうトレンチコートでも羽織っているとピッタリ。

ま、悪くはない本です。ただ、私にはちょっと。感傷的すぎた。


Bantam Books★★★


clashking.jpgジョージ.R.R.マーチンの「a Song of Fire and Ice」シリーズ第2巻。4カ月以上をかけ、生まれて初めて読み通した原書です。本文は970ページ弱。付録の登場人物表・王家表などを入れると優に1000ページを超えます。老眼鏡でペーパーバックの小さな活字はなかなかに苦労しました。早川書房が早く翻訳を出してくれればこんな苦労はしないですんだのですが。

「どんな本なの」と妻に聞かれて答えに窮しました。一言でいえばファンタジー。でもハリー・ポッターなんかと同じかというと多分まったく違います。(あ、ハリポタは読んでません)。主な登場人物の数だけで100人くらいはいるでしょう。ノルマン征服後のブリテンを連想させる巨大な島(小大陸?) に諸侯がひしめく、いわば戦国時代。歴史ファンタジーとでもいうべきなんでしょうか。

この本の際立ったところは、ストーリーがシビアであること。キャラが生きていること。主要人物はあっけなく死んでしまうし、子供は悲惨な運命に翻弄されるし。悪者かと思うとそれなりに感情移入できる背景があったり、けなげな少女が非情に人を刺したり。鬼のような小男が意外や意外に好漢だったり。殺戮や強姦は日常茶飯事。魔法の要素は今のところかなり少ない。通俗小説ではありますが、非常によくできた通俗小説です。

次にはシリーズ第3巻の「A Storm of Swords」が待っています。私の買ったのは上下2分冊になった版。その分冊もそれぞれ700ページくらいあるようです。先が長い・・・。


原書房 ★★


shieldriring.jpgサトクリフの中世ブリテンシリーズ。今回はノルマンコンクェストのすぐ後、ノルマン勢力が次第に北上し、ついに湖水地方まで迫ったころのお話。このへん谷やら湖のほとりにはヴァイキングの末裔たちが住んでいたらしい。で、ノルマンの圧力に耐えるため、彼らが最後の頼りとしたのが「シールドリング」、つまり盾の輪と呼ばれる山中の砦ということ。ノルマンの捕虜となっても、この砦の所在を敵に明かす者は一人もいなかった。

もちろん、我々はこうした地元勢力の抵抗が最後には押しつぶされたことを知っている。それを知っていながら、この砦で成長する少年少女になにがしかの感情移入をする・・というのが魅力かな。

サトクリフのシリーズに共通することですが、当時の人々の貧しさが胸を打ちます。人間って、ほんの少し前まで実に貧しかった。いや、現代においても同様な暮らしを強いられている人々は多数いるのですが。

ジュブナイルとはいえ、大人が読んでもけっこう心に残る本です。


講談社文庫 ★★★


kazunomiya.jpg「公武御一和」のため犠牲になった・・ということになっている皇女和宮のお話。「御留」とは関東に付いていった官女のメモのことらしい。

大分以前に大竹しのぶでテレビドラマを見てしまったんで、主人公フキ=大竹しのぶというイメージが強烈になってしまった。テレビを見る前(多分、今回で3回目くらいの再読)はどんな少女を想像していたんだろう。もちろん、もう思い出すのも無理だな。

有吉佐和子ってのは達者な人ですから、登場文物のキャラクタが立っている。ぼーっとした姫さまは姫さまらしく、お公家は公家らしく、武家は武家らしく。お公家さんたちの流れるような(字面を追うのが実に辛いです)無意味な会話もだんだん楽しんで読めるようになってきた。

もう少し年をとったら、もう一回読んでみよう。今度はもっともっとゆっくり読んでみたい。


文藝春秋 藤沢周平全集巻7 ★★


kaitennomon.jpg「雲奔る」と「回天の門」を収録した巻7。雲井龍雄には関心なかったので、回天の門だけ読了。

要するに清河八郎のお話です。策士とかほら吹きとか熱血の志士とか、毀誉褒貶激しい人ですが、ではいったい何をしたかというと新選組に絡んだ挿話でしょうね。幕閣をたばかって浪士を集め、京都までつれていって勤皇攘夷(本当は倒幕)のために働かせようとした。で、芹沢や近藤一派がここから分離して新選組誕生。

で、江戸に戻って横浜焼き討ちを謀り、いよいよというとき幕府の刺客の手で抹殺。通常は、以上お終いです。

前から疑問がありました。幕閣は何故清河を捕縛しないで、わざわざ暗殺したのか。たかが庄内藩の家来(実質は造り酒屋の長男。たぶん郷士という扱い)です。いかようにも料理できたはずなのに・・。

結局のところ、幕府の権威がとことん低落していたということのようです。清河というのは才能もあったんでしょうが天性のデマゴーグです。「薩摩が兵を率いて上坂するからみんな集まれ!」と全国に檄をとばして、実際、京に多数の浮浪志士を集合させてしまった実績がある。もちろん目論見は外れて天下の策士ということになってしまった。嘘かホントか知りませんが、おそれ多くも勅まで貰ったと称していたらしい。(※)

こういう人物を堂々と捕縛する度胸が当時の幕閣にはなかった。で、手っとり早いのは暗殺。なんかケチ臭い、嫌な処理の仕方ですね。

清河の女房という人も、その前の倒幕策謀露顕のさいにあおりを食らって逮捕されています。で、入牢はさせたけど決して取り調べはしない。だんだん牢内で体が弱ってくると死ぬのを恐れて(でしょう、多分)出牢させ、庄内藩の預かりにする。そして庄内藩預かりになった日、ボックリ死んでしまう。かなりの確率で庄内藩による毒殺です。阿吽の呼吸。おおやけには何もしていない。あくまで本人が病気で衰弱して死んだ形をとる。

幕府とか藩とか、幕末のこうした大きな組織の行動というのはひたすら陰湿で暗いです。

ついでに言えば、志士たちの行動もひどく粗野です。集まっちゃ大酒をくらって大騒ぎする。倒幕だ! 攘夷だ!と大声で喚きたてる。清河が組織した倒幕組織が密偵に露顕したキッカケは、志士の一人が興奮して庭の大きな木に切りつけ「大樹を斬ったぞ!」と喜んだから,という話を読んだ記憶もあります。それでいて誰にもバレていないと思い込んでいる。そして、気分の高揚の果てにすぐに死にます。壮絶に死にます。

大騒ぎするための資金は親元から送らせたり、豪商から強要したり、大藩から供与してもらったものです。まともな用途にも使ったでしょうが、かなりの部分が遊廓や酒席で消えたようです。不思議な時代だったんですね。良くも悪しくも膨大なエネルギーがあふれていた。清河という摩訶不思議な人物、こうした不思議な不思議な時代の申し子だったということなんでしょうか。

※ 勅
一応本人が代表して貰ったと思い込んでいたけど、これって浪士組が貰った内勅のことだったかな・・。ちょっと記憶があいまいです。なんせ、いい加減に読んでるから。


新潮文庫 ★★★


nagaisaka.jpgたぶん3~4回目の読み返し。

だんだん面白みがなくなったきた。比較するのも変だが、ちょうど「エンダーのゲーム」のような感じ。最初のうちは印象が強烈で、主人公のストイックさや刻苦勉励に感動するのだが、だんだん飽きてくる。できすぎだろ?という臭さがにおってくる。

それを言うなら山本周五郎の本はみんなそういう部分があるなー。非常に巧い人だけに、その巧さが鼻についてくると辛い。太宰の本なども、昔は陶酔していたものだが、今となってはもう読めない。芥川も同じような感触が残る。計算しすぎ、磨き抜かれた文体ってのも問題があるんだろうなー。

そうそう。内容は「貧しい侍の子供が一念発起、文武に励み、御家の陰謀を阻止、最後は城代家老にまでなる」というお話です。こういうふうに書くと、身も蓋もない。


文藝春秋 ★★


senzaki.jpg久しぶりの単行本購入。長いタイトルだなー。

先崎8段の本というなら、ま、買わなくてはならない。税込み1400円ならそう高くもないしね。しかし読んでみると、うーん・・ちょっと期待外れかな。期待が大きかっただけ、ちょっと損をした感じ。

もちろん、センザキ節は健在です。それなりに(ごめん!)面白い。楽しめます。でもこれまでの著書にあったような、にじみ出る執念、怨念のようなものが希薄。血が流れていないとでもいうべきか、濃くないというべきか。もちろん満身創痍ではあるんだろうけど、深手になっていない。傷が浅い。

やっぱり奥さんもらって、生活が健全になったんだろうか。大人になったんだろうか。友人たちへの突っ込みももちろん所々にあるけど、これも毒が薄まった印象。ま、いつまでも毒吐きトカゲでいることは難しい。

あ、まるで評価していないような書き方でしたが、好著ですよ。1000円くらいの価値は十分にある。将棋をあまり知らない人にも楽しめます。非常に文章の巧い人で、名人の域に達しています。


maison.jpg一応最後までは読んでしまったのだけど、実は12巻から15巻まで再読し、続いて6巻からまた読み直している。1日1冊ペース。再読だと、初回とは違った読み方をするようで、今度は八神がけっこう好きになってきた。ストレートでケナゲですよね。九条令嬢はあいかわらず、いい感じ。

妻も寝る前に1巻から読み始めたらしい。「床につくのが楽しみになってきた」という。ただし毎晩数ページでダウンしているような雰囲気だ。1年かかるかもしれない。いいなあ。

この年末年始は風邪でダウンしたせいか、本がちっとも進まなかった。3冊くらい積んであったんだけど、結局手つかずのまま、この土曜には返却しないといけない。そうそう、塩野さんのローマ人新刊も出たらしいし、将棋の先崎学の「浮いたり沈んだり」の2巻目(まわり将棋は技術だ)も出たという。サボってる間にどんどん宿題が増えていくような感じ。

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