Book.04の最近の記事

新潮文庫 ★★★

 

  jiyuunochi.jpg文庫で上下二冊。大昔に読んだのもの再読、と思っていたが、奥付を見たら平成十二年。そんなに以前ではなかった。

ケン・フォレットって作家は出来不出来がある印象です。たとえば最近読んだ「鴉よ闇へ翔べ」なんかは超ひどかった。で、この本は割合いい方でしょう。内容は、そうですね・・前半はフォレット得意の近世英国もの。搾取に憤る、貧しく鼻っ柱の強いスコットランドの炭鉱夫の話です。で後半は甘っちょろい「ルーツ」+「コールドマウンテン」という感じかな。時代は独立戦争前夜です。

たいした小説でもないのになぜ読後がいいんだろう・・と考えてみると、やはり若い男女がプランテーションを逃亡して西部へ旅立つという設定なのかな。西部ったって、この頃はせいぜいアパラチアを越えるという程度ですが、でも夢がある。人がいなくて、川には魚がうようよしていて、山には鹿がゴロゴロ遊んでいて、梢には悠然とワシが飛翔。そんな辺境へ愛し合う健康な男女が旅立つ。もちろん弾薬用の鉛や農機具などたっぷり持っていないと、ひたすら悲惨な話になってしまいますが。

この小説の最後では、悪役はみんな死んでしまうし、新生活用に馬は10頭もいるし、インディアンは公正だし、西部の季節は春。男はたくましくて機転がきき、女は銃と乗馬が得意々々。ま、楽しそうな結末です。現実の悲惨さはまったくないからフラストレーション解消になるんでしょうね。これが厳冬だったり、装備がなかったり、食料が乏しかったりしたら、ひたすらみじめ。コールドマウンテンになってしまう。

(そうそう、私は見ていませんが映画のコールドマウンテンは男女がめでたく最後で会うらしいですね。小説コールドマウンテンではヒーローがあっさり殺されてしまいます。めぐり合うこともできません)

米国の地理にまったくくらいので、読み終えてから地図帳をくってみました。なるほど、バージニアの農園から馬車でリッチモンドへ南に下り、そこから西のシャーロッツビル。さらに西のスタントン(ストーントン)。その先で山脈にそって東北に上がって峠を越える。地図ではたいした距離に見えないんですが、何百キロもありますね。そりゃ大変だ。

別件ですが、この小説の主人公は流刑囚としてバージニアに送られます。で、徒刑の期間が7年。7年たつと自由人になれる。なるほど。渡航費の払えない一般の貧しい移民の場合は運賃後払いの形で行き、4~5年間の徒弟奉公という形をとる。奉公期間が終わると自由。うまくいくと手に職もつくし、開業資金もため込めるかもしれない。で、もちろん黒人奴隷もいます。こっちは期限なし。原則として一生奉公。というか権利ある人間としては認められない。ま、いろいろです。

集英社 ★★

 

aaieba.jpg
 リビングに転がっていたので、つい一読。

阿川と檀、どっちも達者ですねー。うまい。二人の掛け合い漫才(じゃなくって交互発表)の形をとった、ま、エッセイ集というか、雑文というか、悪口合戦というか。その悪口雑言と暴露の度合い、突っ込みセンスが絶妙。笑えます。なんかこの本で賞をもらったらしいです。

檀ふみはB.A.(ビフォー・アガワ)、AA(アフター・アガワ)と年号を使い分けているらしい。知的清純派だったはずの檀が実は意外なドジ女の面を暴露するようになったのは、アガワとの交際が始まってから。ここを転機に人生が変わってしまったんです。だから損をしたってことでもないんですけど。

一応は食べることをテーマにした軽い読み物。楽しめます。好きになれます。

そうそう。アガワが「中高はキリスト教系だったので・・」とか書いていたので、あれ、この人、聖心(なぜかそう思い込んだ)だったっけ・・とチェックしてみたら、聖心ではなく東洋英和でした。六本木にあるプロテスタント系の学校ですよね。よくは知りませんが、なんとなく雰囲気のいい学校。村松英子もそうだっような(遠藤周作あたりが制服姿の英子にオドオオしてしまうとか、読んだ記憶)

ところが檀ふみの方はどこのサイトを見ても大学のことしか書いてない。高校をスッ飛ばしている。なぜだろ、としつこく探したら筑付でした。当時はまだ教育大付属だったのかな。筑付から慶応の経済かなんかへ進学。両家の親(檀一雄と阿川弘之)の教育感の違いや本人の性向なんかもなんとなく想像されるようで、余計なことですが面白かったです。

これも余計ですが、上記の本で受賞したのは「第15回講談社エッセイ賞」だそうです。

河出書房新社 ★★

 

shimaakira.jpg著者は棋士。その実力そのものより、むしろ羽生など若手の参集した「島研」主催者として有名になってしまった印象。将棋界の語り部 河口七段(たぶん七段?)によると、確か洋装お洒落派の嚆矢みたいな書かれ方をしていたような気がする。ラルフローレンあたりを着こなした最初とか。

中身は、先輩から見た「チャイルドブランド」の連中、羽生とか森内、佐藤、郷田といった棋士たちの凄さ、考え方、エピソード集ですね。たぶんゴーストライターは使っていません。多少文章に自信のある将棋指しが、ま、渾身の力を入れて書いたというようなものです。それだけに読みづらい部分もあり、面白い部分もある。

棋士同士ってのは、面白い関係です。みんな少年時代からの仲間でもあり、ライバルでもあり、なんせゼロサム社会ですから誰かが上昇すれば誰かがひっこむ。敵のようでもあり、仲間のようでもあり。仲がいいからといって気を許すのはやはり勝負師ではない。ツンケンばかりするのは仲間じゃない。

全体を読んで印象に残ったのは、やはり羽生のこと。みんなにとって羽生対策というのが大変な課題なんですね。羽生に気後れしたら最後。でも認めないのはアホ。悪いやつじゃないことは百も承知だけど、対局中のあの目つきが気に入らない。あのザーとらしい手つきはなんだ・・・。

誰だったか忘れましたが、「なんで羽生さんは駒を打つとき、わざわざ左上から大きく右下に手を振って打つんですか。どう考えたってあの動きは無意味。合理的じゃない!」とブツブツ言っていた棋士のエピソードがある。イライラするんだろうなー。それを言うなら熱血シニア加藤一二三の動作なんて、相手から見たら腹が立って仕方ないでしょうね。仁王立ちにはなるわ、ベルトをずりあげるわ、自分の背後にはまわるわ、だいたいあの超長いネクタイはなんだ・・悪趣味な。えーい、腹が煮える。

というように、なかなかの一冊です。ちなみに「純粋」ってのは棋士たちの心のことみたい。自分で言うのもちょいとナンですが。

文藝春秋 ★★★

 

kazega.jpg週刊文春に連載していたもののようです。読書日記。

池沢夏樹の本を読むといつも感じるのですが、どうもうまくいかない。抑制のきいた文体は好きだし、見方もいいです。興味の方向も広範。じっくり読むと「うん、いいなー」と感じるのですが、でも読み通すことができない。不思議です。美人で人柄もよくて賢くて、なんにも難点がない女性なのに、でも結婚する気になれない・・というような不思議さでしょうか。

今回もしばらく放置しておいて、さすがにもったいないのでパラパラとアトランダム拾い読みしました。たぶん全体の7~8割は目を通したと思います。そこまで到達したところで返却期限がきた。

文芸、科学、社会、歴史、いろんな範疇に関心を持っている人ですね。たぶん、非常にきっちりした人なんだろうなぁ。取り上げた本の中で、たとえばアン・パチェットの「ベル・カント」に対しては甘すぎる!と厳しかったです。人物の設定がご都合主義で甘々、だから結末も破綻しているとご批判。まったく指摘の通りだと私も思いますが、でもわたしはその本、けっこう好きでした。

そうそう。読み終えてからふと、サン・テクジェペリの「星の王子様」の結末の部分が気になりました。王子様が「もう思い残すことはない」と言ったというけど、実は原文は「なにもいうことはない」だったはず、という一文。訳の内藤濯さんがそんな誤訳(意図的なんだろうな)をするだろうか・・・と不審で、該当ページをもう一度探したけど発見できない。サンテックスのことは書いてあるけど、女房はそんなに悪妻でもなかったというようなことだけ。どこに書いてあったんだっけか。

トシヨリの勘違いでした。たまたま今日の朝日新聞(土曜特集)に星の王子様が取り上げられていて、この話が乗っていた。「なにもいうことはない」ってのは、どこかの少年がそう記憶して手紙に書いたというようなストーリーで、「原文」というのは出版の日本語文、という趣旨みたい。最近の新聞のこのテの文芸ものは、とにかく文章が悪く凝っていて、意味がなかなか読みきれない。おまけに私がボケかかってるから、新聞と書評本の記述がゴッチャになってシナプスに残ってしまった。

困ったもんです。自分の記憶が信用できなくなると、けっこう悲惨です。

NHK出版 ★★

 

nankyoku.jpgさして期待しないで借り出した一冊です。

このところNHKがやけに力いれて南極ものを放映していますね。ま、せっかく取材班を送り込んだんだから、番組作らないと仕方ない。で、そうしたレポートをまとめたのがこの本のようです。

「プロジェクト」編のため書き手は複数。達者な人もいるし、ひたすら固い人もいます。それでも内容そのものに迫力があるため、けっこう楽しんで読めるものになっています。

この本では氷床の研究をしている英国チームの話が面白かったです。時代おくれの三角テントを張って寝泊まりし、プラスチックではなく木箱に機材を収納している。ローテクふうですが、実はあんがい賢い選択だし、堅牢。米国チームみたいに圧倒的ハイテク機材とパワーで南極の自然をねじ伏せるんではなく、なんといいますか、一種の共存のような姿勢。こなれた伝統を信頼しながら自然とうまく折り合いをつけいく進め方ですね。英国人ってのは、やは独特です。

観測船ももう三代目なんですか。宗谷から始まって、ふじ、しらせ。宗谷は海上保安庁の船だったはずですが、調べてみたら2736トン。今は船の科学館に係留されてるけど、実に小さいです。こんな船が南極まで行ったのか。文献引写しですが建造が昭和13年の「耐氷型貨物船」です。戦後は引楊船、灯台補給船。で最後が南極観測船ですか。

1次隊は南極海で氷に閉ざされて立ち往生。ソ連のオビ号に助けてもらったことがありました。宗谷には手も足も出ない厚い氷(といっても多分1メートル弱程度)の海をオビ号はザックザックとあっさり航行します。日本は情けないなー、大国ソ連はすごいなーと日本中の子供たちは実感したものです。

二代目の「ふじ」は5250トンです。三代目の「しらせ」は1万1600トン。倍々に巨大化している計算です。その「しらせ」も老朽化し、次船の予算がとれるとかとれないとかが問題になっているようです。

南極って、やはりロマンをかきたてられます。無理だろうけど、生涯に一回くらいは見てみたい。アムンゼンとスコットの極点到達レース、そして白瀬中尉の探検(でもやっぱり力が足りなかった・・)。子供にとっては憧れでした。月や火星への旅に比べても、夢がありましたね。

新潮社 ★★★

 

midnight1.jpgこのところパラパラ読み続け、この土曜日曜に最後の5巻6巻を読了。パキスタンあたりからアフガニスタン。イランを経由してトルコ、ギリシャ、イタリア、フランス、スペイン、どん詰まりがポルトガルのサグレス岬。あとはオマケでパリ、ロンドン。

旅の直後に書いたものとばっかり思い込んでいましたが、どうも違う。20代の旅をふりかえって、30代40代になってから執筆したものらしい。そういう意味では紀行記ではなく、やはり一種のフィクション、ノンフィクションの匂いはするけど実は整理整頓して再構成したフィクションなんでしょうね。

特有の臭さはあります。良くいえば清冽な感受性、悪しざまに言えば若気の気取りとでもいうか。でもそうした些細なハナモチを完全に打ち消す迫力のあるシリーズだと思います。沢木にしか書けなかったものなんでしょうね。もし同じものを山口文憲が書いたら、まったく雰囲気が違ってしまう。

話は違いますが、私もマドリードに一泊したとき、夜中のバールで変なオッサンに酒を奢られました。超貧相な黒づくめオヤジで、たしか市役所かなんかに勤めてる下っぱというようなことでした。でも、私の貧弱な英語力でなぜそんなことまでわかったんだろう。不思議です。

グラナダの夜のバスではセビリア農協かセビリア婦人会のオバサンたち(たぶん)と同乗したことも思いだしました。薄暗いバスの中でオバサンたちが歌うセビリアおけさ(のようなものでしょう、たぶん)は哀愁があってなかなか良かったです。

そんなことを思い出してしまいました。

祥伝社 ★★

 

douzoumeguri.jpg清水義範の感性は割合好きで、たいてい読んでいる。ただし現代ふう小説には好悪があって、こっちに限ると制覇率30パーセントくらいかな。どっちかというとアホ話のほうが好きです。

「銅像めぐり旅」は、奥さんと二人で全国の有名銅像をめぐり、その町を少し語り、銅像となった人物について語り、ついでに土地のものを食べて帰るというようなシリーズ。

ま、そういう本です。サラリと読み終えました。内容もソコソコ。悪くはなかったです。

六興出版 ★★

 

gouhime.jpg新潮社からも出ているらしい。これは六興出版の版。

豪姫ってのは、例の前田利家の娘で秀吉の養女になった女性です。宇喜多秀家に嫁した人ですね。八郎秀家は関ケ原の後、八丈だったか、どこかの孤島へ流されて、けっこう長生きしたはずですが、豪姫は実家である金沢に戻ったらしい。はばかりのある出戻りですから、たぶん、あんまり幸せな老後にはならなかったでしょうね。どこかで髪をおろしたか。

で、作者は富士正晴。すんなりストーリーを作る人じゃありません。

この本の主要登場人物は、まずお転婆娘の豪姫。大名茶人としても知られる古田織部(織部焼ですな)、織部の下人、ウス。脇役としては会津配転が決まってうっくつしている蒲生氏郷。こすっからい天下人・秀吉。高山右近の家臣だったらしいが今は山に暮らす老人・ジュンサイ。

なんだかわからんけど、けっこう面白い本でした。なんだかんだ言いながら、織部は意地はって破滅の道を歩む。戦場の討ち死にがかなわなかったジュンサイ老人は、買い取った女と交合の限りを尽くして腹上死しようともくろむ。山で平穏に暮らしたいと願っていたはずのウスは、中年を過ぎてまた豪姫に出会ってしまう。実はウス、若いころに豪姫様と一夜の契りを結んだ(というようなロマンチックな話でもないんですが)ことがあり・・・。

ま、読んで見てください。後味は悪くないです。

 

光文社 ★★★

 

shidenshimsengumi.jpg小説宝石に連載していたもののようです。

血沸き肉踊るタイプの新選組じゃありません。なんせ「史伝」ですし、作者は三好徹です。どうもけっこう新発掘の資料も多いようで、従来の子母沢寛、司馬遼太郎とはまた解釈も違うし、観点も異なっています。

冒頭、いきなり出てくるのが福地源一郎。えっなんでこれが新選組なんだ?という導入ですね。剣を握ったこともない福地が少しは覚えようと思い立って門を叩いたのが牛込試衛館。近藤に入門は断られけたど、なんなとく気に入られて、時々は遊びに行った。なんせこのころの福地は一応幕臣ですから、粗末には扱われません。

で、ある日道場で福地が漏れ聞いた浪士募集の話を何気なくした。例の清河の浪士組設立の一件です。近藤たちとはたいした関係もなかった福地だけど、この「情報を伝えた」という一点において実は新選組誕生に大きくかかわってしまっていた・・・。とういうような展開。

松本良順なんかもそうですね。なんとなく、なんとなく近藤や土方との接点を持ってしまう。なんとなく、なんとなく、函館まで同行してしまう。もちろん最後の最後、良順は五稜郭を去ります。

とまぁ、そういう趣向で語られる新選組です。ですから近藤にしろ土方にしろ、その行動は登場人物から見た「情景」として語られる。全体としてたいした量は語られていませんが、でも新選組の存在感は確かにあります。

一味違って、いい本でした。読後感はさわやかです。

新潮社(小学館だっけ?)から出て売れているらしいですが、あいにく購入して読んだわけではなくまとめサイトの閲覧です。

本というべきなのかなー。掲示板の書き込みではありますが、そこに「整理してまとめる」という作業が加わった段階で、やはり一種の「本」になってるんでしょうね。

何気なく読み始めて、やはり感動しました。平凡な、オタク系のウブな青年が女性と知り合い、緊張しまくりながら食事の約束をとりつけ、生まれて初めて美容院で髪をカットし、、女性に好感をもってもらえそうな服装を算段し、会い、ぎこちなく話をし、そのうち手を握り、・・・数カ月後にようやく告白までたどり着く。

どこといって特にドラマチックな要素があるわけでもありません。ま、キッカケは電車の中で酔漢から女性をかばおうとした、という点では多少のドラマですが、でもテレビドラマと違って特にヒロイックな行動がとれたわけでもない。ヒーローになれたわけでもない。どちらかというと、自己嫌悪に陥ってしまうようなぶざまな結末です。

でも青年は以前から出入りしている2ちゃんねるの掲示板(彼女のいない、モテナイ男専用みたいな自虐系掲示板)に、報告書き込みします。こんなことがあったよ。普通なら、感謝→食事→交際→カップル! みたいな進行だってありそうなものだけどなー、ドジなことにメールアドレスも聞き忘れた・・・。

しかし後日、その女性からお礼にティーカップが2つ届きます。HERMESという刻印を見て、どこの陶器屋だろうといぶかしくおもう青年。それ、エルメスだぞ、相手は金持ちだ、お嬢様だ、と沸き立つ掲示板の常連たち。

このへんから常連たちは逡巡する青年のサポーターになります。あるいは青年が彼らの輝けるチャンピオン(代闘者)候補になります。女性の心理をみんなで推察し合い、どんな食事に誘うべきか、どういう内容の電話をすべきか、デートの服装、髪形、行動のとり方、などなど。

自信もなく頼りなかった青年も、ハードルをひとつ越える毎に強くなっていきます。強くはなるのですが、時として急速に落ち込みます。比較的裕福な家に育ったらしい女性に対するコンプレックス、自分なんか相手にしてもらえるわけがない。からかわれているんではないだろうか。釣り合いがとれないよなー。そんなふうに落ち込んだとき、モテナイ板の常連たちは意外なほど暖かく励まし、応援し、助言し、親身に勇気付けてくれます。その熱気をもらって青年もまた立ち直る。

いよいよ最終段階。青年が「今日は決戦だ!」と腹をくくって出かけたデートの夜、常連たちはPCの前で彼の帰宅を待ちます。彼が「帰宅しました」と報告したのは朝方の4時40分。その時点でも、かなりの数の常連たちが寝ずに待機していたようです。報告の結果は大吉。眠い目をこすりながら自分のことのように興奮し、喜び、涙する仲間たち。

・・・こう記述していくと、あまりにキレイすぎる話にみえますね。実際は、2ちゃん特有の妬みや嘲弄、悪意の書き込みもあったんだろうと思います。でも大筋としては、たぶん上記のようにリアルタイムで進行しました。青年は恋人を得ることができました。仲間たちは祝福しました。そしてたぶん青年はモテナイ板を卒業して、カップル板に移行したのかもしれません。

男なら誰でも経験したことがあるような、恋の逡巡や緊張や悩みや高揚や喜びや苦しみです。その青年と一緒になって興奮し、一緒に共演しているかのような参加意識を味わい、成果を期待し、でもひそかに失敗をも期待しているだろう男たち。こんなストーリー展開のどこが面白いんでしょうかね。所詮は他人のことでしかない。人の恋路なんて犬に喰われてしまえ!

でも、読後には不思議な感動があります。感情移入ができる。臨場感がある。素晴らしい大恋愛小説を読んだような読後感です。

こういうストーリー(小説)が刊行されてしまうと、大人の文化人や評論家たちは戸惑うでしょうね。インターネットサブカルチャーの特異性として片づけてしまうのか、あるいは文芸のターニングポイントとして妙に評価してしまうのか。でもそんなふうに一言で処理できない要素が、このストーリーにはたっぷり含まれています。

ま、久々に面白いものを読ませてもらいました。

 

追記
これって、高橋留美子の「めぞん一刻」そのものだなー。あれも最後の方では冴えない主人公・五代に感情移入してしまう。

 

早川書房 ★

7king.jpg最近、新しい本を読んでないなー。

で、性懲りものなく、またこの本を借り出してしまった。英語で今読んでいる部分と、ときどき照合するのが目的。日本語で読むと、やはりだいぶ違う。あーそうだったのか・・という部分がかなりある。

この本を借りたのは3回目。さすがに製本が疲れてきて、あちこちのページが危なくなりかかっている。ページが取れないようにちょっと神経を使う。

噂によると続編を早川が出す予定らしいです。なんだったか。すごい訳タイトル。えーと、「王狼たちの戦旗」だ。ちなみにこのBOOK2の原題は A Clash of Kings です。それほどひどい翻訳でもないというべきかな。表紙イラストはあいかわらずファンタジー調のようですが。

そうそう、原作者のGeorge.R.R.Martinは今回の大統領選に非常にご不満のようです。「MOURNING FOR AMERICA」という大タイトルで文句をつけています。で、あいかわらずBook4はまだまだ書き終わる見込みもたっておらず、今年中の刊行は無理な雰囲気ですね。本当は2月に出版のはずだったんだけどなー。

朝日新聞社 ★

 

gansakutenchi.jpg天地創造から四十六億ン千ン百ン十ン年ン日・・後。かなりボケのかかった神様がふと作品のことを思い出して・・・というような、七日間のお話。

何なんでしょうね。大人の童話といえばいえる。無意味といえば無意味。今日も料理下手な奥様の神様の作ったパスタかなんかを無理やり食べさせられている神様、ま、愛嬌があるといえば言えるけど。

のったりした雰囲気は悪くないものの、どうも人類の精子減少がどうとかクローン羊がどうとか、何か言いたいことがあるようで、でもハッキリしない。別役実って、こんな人だったんだろうか。

失敗でした。

 

集英社 ★★

yumekumano.jpg分厚い一冊。著者名に馴染みがなく、ゲテものかな(でも集英社だし)と心配しながら借り出したが、収穫だった。

時代は源平です。源為義が熊野の別当の娘に生ませた娘、鶴(たず)を織物の縦糸として、熊野三山の歴史というか民俗をあやしく描き出しています。なんせこの鶴、為義の娘ということは義朝の妹、八郎為朝にとっては慕う姉、頼朝や義経には信頼の叔母。ここに後白河や清盛、弁慶、新宮十郎行家 熊野の湛増、河野三郎(ではなく熊野水軍の鈴木三郎らしい)、巫女やら鬼やら天狗やら。

ただ、そんなにおどろおどろしい内容ではありません。本宮、那智、新宮の絡み、当時の京と熊野の関係などなど、へーっという部分もたくさんあります。熊野のあたりのことって、なんにも知らなかったもんですから。

「丹鶴姫伝説」ってのは、実際にあるらしいですね。山深い熊野。高貴な血筋の怪しい巫女。何十年たっても美貌が衰えない八百比丘尼みたいな存在。雰囲気があります。

紀和鏡という人、中上健次の奥さんらしいです。

講談社プラスアルファ文庫 ★★

 

namake.jpg副題は「生き物たちの驚きのシステム」

「ゾウの時間ネズミの時間」「歌う生物学」なんかと内容はかなりかぶっているけど、ま、だから問題があるわけじゃない。そうそう、思い出したけど「歌う生物学」では「せんばる音頭」とか「ナマコの教訓歌」とか、たまたま子供が音符を読めたのでメロディを教えてもらって、家族でいっしょに歌った記憶もあります。

このシリーズ、数字処理がいい加減だとか専門の学者仲間からは批判もあったらしい(たぶん)ですが、でも啓蒙書としては秀逸です。指数グラフなんも一応はのってますが、そんなことは誰も気にしないで読めますね。

で、わかったこと。ナマケモノは外見ほど幸せとは限らない。もちろん、不幸とも言えませんが、本人が特に「のんびり生きられて幸せだな・・」と感じているわけでもないようです。残念。

だからどうした。なんという無意味な読後感想だ!と叱られそうです。ナマケモノは叱られても気にしません。そもそも、ナマケモノに聴力があるんだろうか。

別件。

矢野徹さんが亡くなられたようですね。81歳。作家として記憶に残っているのは「折紙宇宙船の伝説」くらいかなー。翻訳はうんとこさあって、ハインラインといえばこの人。ただF.ハーバートの「デューン 砂の惑星」シリーズも矢野さんだったとは知らなかった。

「ウィザードリィ日記」は楽しく読みました。この頃、もう60歳は越していたはずですけど。枯れない元気なジイさんだったという印象です。

 

マガジンハウス ★★

 

shikoku.jpg「蛇鏡」によく似た構成ですね。

四国は「死国」である。右回りの正統お遍路に対して、死んだ人の年の数だけ左回りに回ると死者が帰ってくる。何やかにやで四国の中心の村には死者がつぎつぎと蘇ってきて・・・。ま、そういうようなストーリーです。

私、板東眞砂子は好きですが、ホラーそのものはあまり興味がない。ですからストーリーなんかはどうでもよくて、むしろ文体とか人間描写のほうが面白い。この本でも東京へ出ていたっ女がちょっと出戻りして、野暮ったかった少女が都会的に変貌していて、あいかわらずの村の同級生なんかと親しんだり疎外感を感じたり。そういう都会vs田舎、現代vs過去みたいな構図が好きです。土俗描写にかけてはこの作者、名人ですから。

あんまり説明になってないなー。それでもけっこういい本だったと思います。ちなみに私の場合、この人の代表作は「山妣(やまはは)」と「善魂宿」。とくに山妣は雪深い山奥を舞台にしたドロドロの因果もので、まるで圓朝の「真景累ケ淵」ですね。蛇足ですが洋もの(旅涯ての地などイタリアもの)は閉口で、読了したことはありません。

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