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アーティストハウス ★★★

獄中記―地獄篇の続編。

gokuchuki2.jpgジェフリー・アーチャーが次の刑務所へ移ってからの日々です。前回同様、なかなかに誇り高く(なんせ一代貴族)暮らしているようで、囚人仲間といろいろ取引してみたり、名画を安く入手するため画策してみたり、こすっからく元気です。

前回の地獄篇もそうでしたが、彼の日記を読んでいると、囚人はみんな根は善良でいい奴ばっかりかと錯覚しますね。今回もだいたいはそうしたトーンで書かれているのですが、時折ギョッとするような記述もある。仲間うちのリンチの話だったり、凄惨な報復だったり。

そうした暗い部分はどんどん省略して、いかにも売れそうな、面白そうなエピソードを集めて本に仕立て上げている。囚人として収監されていても、発想はあくまでベストセラー作家。獄内のテーブルに向かい、せっせとメモバッドにソフトペンを走らせているアーチャーの姿を想像すると、それはそれでけっこう暗いものがあります。

結局、2年くらい収監されていたらしいですね。

朝日新聞社 ★★★

 

shishibun.jpgまとめて古書店で購入した 獅子文六全集、全16巻の一冊。手始めに読んだのは大番でした。

なるほど。大昔に読んだ記憶とは多少違っていましたね。もっと長編だったような気がしますが、意外に短い。短いといっても600ページ余りはあるんで、十分長いんですが、印象としては2~3巻くらいはあったような。

最後の方、こんなふうに結末がついていたのか。なんとなくゴルフ場建設でゴチャゴチャして、可奈子さんには手ひどくふられて、かなり悲惨な感じで終焉だったように思い込んでいたのですが、読んでみるとそれなりにサッパリしています。

再読する機会があってよかった、よかった。こういう本が、今は古本屋でしか手に入らないというのは、日本の貧しさですね。

 

角川書店 ★★

 

avenger.jpgフォーサイスの比較的新しい作のようです。なんせビン・ラディンが出てくる。

今回の舞台は旧ユーゴスラビアです。ややこしいですね。セルビアやらクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナがどう絡んでいるか・・新聞や本の解説を読んだときは理解しているのですが、すぐ忘れてしまう。要するに、ゴタゴタしている悲しい地域。

ま、その地域でNGOのアメリカ人青年が殺される。で、彼の祖父は犯人をつきとめようとする。そのためには動いてくれるゴルゴ13が必要で、そのゴルゴ13がアヴェンジャー。

物語の背景なんてどうでもいいんです。超厳重警備の南国の要塞に、主人公(一応は)がどう忍び込み、どう計略をめぐらすか。その一点だけがテーマですね。

途中までは、なんかなー・・・という感じで読み進んでいたのですが、最後だけは驚いた。なるほど、そういう仕掛けだったのか。ま、達者なフォーサイスです。読んで損はしません。たぶん。

アーティストハウス ★★★

 

gokuchuki.jpg「百万ドルをとり返せ!」のジェフリー・アーチャーが偽証罪で実刑判決を受けたということは知っていました。その後どうしたのか知らなかったのですが、刑務所に入るやいなやこんな本を書いていたとは。

要するに、刑務所体験記です。なかなか興味深いです。保守党の元副幹事長でもあり一代貴族でもあるアーチャーが、殺人犯や強姦犯といっしょに刑務所。なるほど。で、最初に入った数週間の監獄での体験記です。

年齢もあるでしょうが、いちばん苦労したのは食事のようですね。あまりに不味くて支給食が食べられない。1週間12ポンドくらいが自由に使えるらしいですが、そのお金でやりくりして、なんとか喉を通りそうな食べ物を買い食いしている。なんせ12ポンドですから、すぐ底をつく。ボトルの水も残り少なくなる。原稿用紙代わりのクリップペーパーも買わなければならない。

なかなか面白かったです。

東京創元社 ★★★

 

reservationb.jpgシャーマン・アレクシーという人は数少ないネイティブアメリカン作家のようです。昔ふうにいうとインディアンですわな。

なんといいますか、こういうハードな代物は久しぶりなんで、最初は戸惑いました。あ、ハードといっても文体は超やわらかいです。やわらかい・・というよりシュールと表現すべきかな。土俗的でシュールなロックンロール・ストーリー。何いってんだか不明ですね。

シャーマン・アレクシーという人、そもそもは詩人のようです。そう考えると納得。古いブルースの歌い手ロバート・ジョンスン(有名な人なのかな?)の魂がギターかかえて西海岸の居留地へあらわれる。意志あるギターが火花を散らして勝手に演奏する。

どうしようもないネイティブ3人組がバンドを組み、他の部族の姉妹も参加し、見すぼらしい居留地で大騒ぎをする。現実と精霊と現在と過去。すべてが混在しているのがこうした見捨てられたリザベーションなんでしょうね。悲しいおとぎ話でもあり、詩でもあります。読後感はよかったです。

ハヤカワ文庫 ★★

yorukitaru.jpgアイザック・アシモフの超有名な短編をシルヴァーバーグとの共著という形にしたリメイク。

リメイクというのはたいてい面白くもないものですが、いかにシルヴァーバーグといえども成功はしていません。ひたすらダラダラと長くなっただけ。そもそも原作そのものが設定に少し無理があったわけですから、その無理がいっそう拡大されただけという印象です。

ただし、読むんじゃなかった!というレベルではないと思います。

文芸春秋 ★★

 

hibinoshoku.jpg達者な文章だなーと思ったら、大昔に読んでなかなか良かった「もしも宮中晩餐会に招かれたら」の著者でした。皇室の大膳(料理人)をやっていた方です。

皇室の料理って、民間とは発想がまったく違うんですね。もったいないとか、惜しいとかいうことを考えない。大根切るにもニンジン切るにも、大きさや厚さなどなどアホみたいにきっちりやる。1ミリ違ってもいけない。不公平のないようにという意図なのか、それとも煮え方が完全に均一になるようにという考えなのか・・・。なぜかジャガイモなんかは完全な球形に切る。ゴロゴロと転がして転がりが曲がるとゴミバコに全部ポイ!になる。

また高貴な御方は原則として「出されたものはそのまま食べる」のだそうです。カシワ餅を葉に包んだまま出したら、そのまま食べてしまったそうで、これは不味かったらしい。こういう場合は葉を開いて、その上に餅を乗せておくべきだったんでしょうね。

給仕の女官も「聞かれない限りは助言はしない」のが基本で、アレレ!と思っても黙っている。「知っていて、あえてやっているかも知れないから」という発想のようです。

面白い本でした。

河出書房新社 ★★

 

somurieno.jpg田崎真也という人、知らないながら何故か好きではなかったのですが、実際にはけっこう良かったです。

要するに、考え方がプロですね。ワイングラスはテーブルの右か左か、食べ終わったらナイフとフォークを揃えるのがマナーなのか、ボジョレーヌーボーは寝かせるといけないのか・・・。

ぜーんぶ、お好きなように!というのが田崎ソムリエの考え。ウェイターに気を使う必要なんでまったくないし、自分で美味いと思うワインを好きなように飲めばいい。ルールなんてない! ただ基本は「楽しく、美味しく。他の客に迷惑さえかけなければ可」

私、個人的には最近の地酒ブームに迷惑しておりまして、ちょっとした酒に燗を付けてくれと頼むとやたら怒られるのに困っています。燗というと安酒しかおいてない。名前のあるような地酒はぜーんぶ冷や専用。学生時代にアルバイトした飲み屋では、越の寒梅に燗つけて、さんざん板さんと飲んでたんですけどね。

アスコム

nichibeiit.jpg知りませんでした。アスキー出版は「アスコム」になってたんですね。この会社、好きだったんですがどんどん変化してきている。

ま、田原が1980年代ごろからあちこちにインタビューしてきたものの集大成です。知ってる話もあるし、初耳のものもある。大部ですが、飽きませんでした。

そうじゃないかと思ってましたが、やはり日本の通産省というのは凄い。賢い人たちが日本のためを思って、賢く必死に動いている。もちろん民間も民間で凄い人たちが必死に動いている。そこに米国巨大企業や米国政府の意図が絡んだりして、文字通りの経済戦争。

電力、原子力、コンビュータ、通信、特許、鯨、環境。壮大な格闘絵巻です

草思社 ★★

 

「全史」というのがすごいですね。

seimei40.jpgよほど上手な書き手じゃないと、こういう通史は難しいです。本音を言うと、例のパンゲアとかなんとかとか、大陸分裂移動のあたりを詳しく書いてあるかな・・というだけの期待で読みました。このあたりの推移を分かりやすく書いたものを知らないので。

うーん、やはり読みにくかったです。そう下手でもないし、いろいろ新鮮な話もあったり(たとえばカンブリア爆発の件(バージェス頁岩)ではスティーブン・グールドがかなり勇み足だったとか少し批判)で、それなりだったのですが。

チラホラと、拾い読みでした。

中央公論新社 ★★

udagawa.jpg小林恭二というと確か「猫鮫」という俳号をもってた人ですわな。ん、短歌だったかな。ま、そのようなものでした。非常に多才な人です。

で、読売新聞に連載されていたものの加筆本のようです。

うーん、なんといいますか。こういう本って感想が言いにくい。テーマは「愛」です。今の東京渋谷、宇田川町のあたりを舞台として鎌倉時代から江戸末期、ついでに現代。時代を超えた真摯な男女の愛の糸筋を描く・・・これじゃなんだかわからないなあ。

どっちみち小林恭二ですから、まっとうな筋じゃありません。でも若い読者なんかだと中には「まっとうな恋愛小説じゃないの。なんて美しい。感動!」とか勘違いするかもしれない。そういう、人を食った小説です。

やっぱり何も説明になっていなかった・・。

東京創元社 ★★

americashoku.jpg東 理夫という人、名前は大昔から知っていましたが、実際に読んだのは初めて。なかなか面白い本でした。

アメリカというと「まともな食べ物は皆無。比較的いいのがマックとフライドチキン」が定説です。私も個人的にはこの見解を強く支持します。

ところが東氏は反論します。アメリカにもまともな食事はたくさんある。ただ、食の目指す方向がフランスや日本のような「おいしいもの」ではなく、もっと違った方向へ進んでしまったのだ・・と。

ま、それはともかく、私はインディアンが何を本当は食べていたのか(ビーフジャーキーとペミカンというのが従来の固定観念ですなわ)、あるいはカウボーイたちがどんな食事をしたのか、西部への幌馬車に乗った連中は毎日どんな食事をしていたのか・・というふうな部分が面白かったです。

結論としてはやはり、どうやらインディアン(いろんな部族がいますが)も、けっこう文化的な食事をしていたらしい。バッファローの固い肉だけ齧っていたというのは、案の定、偏見だったようです。よかったよかった。長年の疑問が氷解しました。

小学館 ★★

kisekino6.jpgこれもタイトルが長いなー。アーロン・ラルストンといったって、ほとんどの日本人は知らない名前だと思うのですが。

アウトドア派の青年で、アメリカでは超有名らしいです。なんで有名かというと、ユタ州あたりの人里離れた谷で落石にあい、右手を挟まれてしまった。で、そのまま6日間放置。小便を飲んで渇きをいやし、7日目に自らの手首を切りとって生還をはかった。

文章そのものはつまらないです。かなり下手なゴーストが書いた気配。というより、こういうドラマチックな内容って、当の本人はあまり重大にとらえていないんじゃないかな。よくあるパターンですが、地震とか台風で東京のアナウンサーが「そちらの状況を教えてくださ」と意気込んで呼びかけると、助役さんあたりが「いや、大きな災害は発生していません」と落ち着きはらっている。でもよくよく聞くと家が何軒か倒れたり、車が水に浸かっていたりする。でも助役さんとしては人が死んだわけじゃなし、たいして重要視していない。震度6強なんだから家くらい倒れて当然だろ、という感覚。

それはともかく。自分で自分の手を切れるかどうか。そこに私は関心がありました。しかも挟まれたのが右手。使ったのは切れない十徳ナイフ(のようなもの、たぶん)。斧でもあって、思い切って「えい!」とヤケっぱちなら何かとかなるかもしれない。でも左手に握ったナマクラのナイフで自分の手首をギコギコと切れるか。肉は切れても骨はどうか。

興味のある方は読んでみてください。ちなみにバラしてしまうと、彼は手首の骨を折ってしまいました。切るよりは楽だったんでしょうね。うーん、想像しただけで怖いです。

講談社 ★★★

 

ishibumi.jpg「講談」と副題にあるように、講談です。いわゆる天保六花撰(例の悪坊主・河内山宗俊とかです)のSF仕立て、舞台盗用仕立てとでもいいましょうか。ただしSFはあくまで便宜であって、真意は天保六花撰をネタにして江戸情緒+ストレス解消本を書いてみたかった、ということと理解しています。主人公が国士館出身で、なぜか剣道の達人で、超いい男で、なぜか天保の時代に飛ばされて、そこにはキップのいい美女がいる。そんなこと、ま、どうだっていいです。

半村さんという人、昔から会話が上手な人でした。しっとりした情感を、短い言葉のやりとりの中に込めていく名人。特に詳しく描写もしていないのに、たとえば夜十郎とおきぬの絡みは実にエロティックにもうつります。交合の際におきぬの「腹がへこむ」という表現のあたり、笑ってしまいましたが、考えてみると実に新鮮な言葉ですね。こんなドライな言葉で表現された男女の交情シーン、読んだ記憶がない。

惜しい人をなくしたなぁと、あらためて思います。もう少し長く書いてほしかった。遺作(でしょう、きっと)の江戸打入りなぞ、この年にして新境地かな・・というものでしたが。

ハヤカワ文庫 ★

 

 ジェラシック・パーク2です。

lostworld.jpg○○○2にろくなものがないのは常識ですが、これも例外ではなく、最初から映画化を想定して書かれた本のようですね。筋書き、登場人物などは基本的に「ジェラシック・パーク」と同パターンです。というより、ちょっと恥ずかしいくらいに同じ筋書きを流用している。

強いていえばやけに元気な動物行動学者(もちろん女性)が新キャラかな。あとはすべて類型的です。

読んで損をしたというほどではないものの、ま、読まなくても損はしません。そうそう、ティラノサウルスの夫婦ががけっこう可愛いです。

 

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