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garasunohanma.jpg★★★ 角川書店

貴志祐介はこれで何冊目かな。みんな面白いです。

今回は密室殺人もの。ビル最上階にある社長室で死体がみつかる。窓は完全防弾ガラス。直通エレベータは暗証番号を知らないと動かない。階段からフロアへのドアは鍵がかかっている。もちろん防犯ビデオは稼働しているし、社長室への通路脇には秘書が控えている。

怪しげな人物はいっぱいいるのに、肝心の凶器は発見できない。殺した方法もわからない。美人弁護士と怪しい防犯ショップ店長のコンビが推理を重ねては失敗し、失敗し、ついに・・・。

トリックはかなりよく考えられています。またこの作家の特徴ですが、細かい部分がなんとも具体的。細かすぎるくらいに詳細。「え? それは無理だろ」というところが非常に少ない。

探偵役の防犯コンサルタント榎本というキャラもいいですね。ちょっとした悪党。頭がキレて冷静で、美人にはちょっと弱い。住居侵入も辞さないし、機会があれば金品をちょろまかす

たぶん再読はしないでしょうが、通読、楽しめる本でした。

★★ 講談社

himiko.jpg帚木蓬生って、何か読んだことがあるかどうか。ないような気もする。

で、「日御子」。例の邪馬台国のヒミコです。ただいきなりヒミコが主人公になるのではなくて、はるか前から話がつながる。北九州の小さな国で代々通訳(使譯)をつとめる一族がストーリーテラーで、まずは奴国。丸木舟のような小舟の使節団に随行、漢へ渡って光武帝から金印をもらいます。

その孫(だったかな)の代になると舟のサイズも少し大きくなって三国時代の魏へ。帰路は魏の使節団も同行で、これが後の魏志倭人伝になる。そのまた孫(たぶん)もまた使節団とともに大陸へ・・・というようなお話。親から子へ、祖母から孫への語り伝えです。

その間に北九州もだんだん統合され、ヒミコの治世で邪馬台国が力をつけます。しかしヒミコが没するとその南の国が力を蓄え、彼らの目は海を渡った東へ向いて、いつかは西日本一帯の統合も示唆されます。

スケールも大きいし「使譯の一族」という舞台回しもなかなかいいんですが、基本的に登場人物がみんな誠実で善意の人ばっかり。その甘さがちょっとものたりません。雰囲気は違うものの、ローズマリー・サトクリフの歴史ものに近いような気もします。要するにジュブナイルの雰囲気。

peninsula_q.jpg★★ 朝日新聞社

分厚い一冊です。小泉総理の北朝鮮訪問から筆を起こし、ウラン濃縮計画やら核危機などなど、六カ国協議の進展やぶりや進展しなさぶりを克明に描いたものです。「描いた」というより、とにかく要人たちの膨大なコメント取材集ですね。

もちろん取材といっても対象になっているのは主に日中韓の外交官たちです。こうした連中とかなり親しいんでしょうね。よくまあという細かい部分を調べ上げている。

血湧き肉踊るドラマチックなストーリーを期待しちゃいけません。とにかく外交官や政府要人たちがどうたらこうたら、内部抗争したり足を引っ張ったり、会議では席の並び順でもめたり、声明文の一言一句に神経を尖らせたり、妥協したり。現実の「外交」って、たぶんこうしたことの連続なんでしょうね、きっと。

なるほどねぇ・・・という点では面白い本でした。ただしひたすら細部事実の羅列なので、読み通すとぐったり疲れます。

細かなエピソードですが、平壌訪問を決定するまで、小泉純一郎は徹底的に秘密ガードした。政府内でも外務官僚でも、事情を知っていたのはほんの一握り。米国に対してさえ、ギリギリまで知らせなかった。直前の調整で、だれか大物政治家を北朝鮮に派遣しましょうと提案された際にも拒否したそうです。「政治家を行かせると必ず妥協をはかろうとする(それが政治家の天性)。おまけに秘密を保てず必ず事前に誰かに話す。こんな仕事に政治家を使っちゃいかん」

そうそう。なんか当時から拉致問題の当事者だったみたいに自慢しているアベくんですが、実は訪朝発表の前日になってようやく知らせてもらった。さすがにアベに黙ってるわけにもいかないしなあ、前日ならなんとか顔も立つだろ・・という感じ。当時は官房副長官だったみたいですが。

つい笑ってしまいました。

sengoku_buki.jpg★★ 原書房

米国の(たぶん)若手の研究者による戦国武器変遷史です。時代的にはだいたい鎌倉末期から南北朝、室町、江戸初期まで。図解が非常に多く、ところどころオリジナルの武装イラストも挿入されていて、それなりに面白い本となっています。

こうして長いスパンで俯瞰した武器・防具・戦術史ってのは寡聞にして知りません。その意味では価値がありますね。ただしこの著者がどれだけ広く深く戦国時代を研究したのか、ちょっと「?」な感も残りました。あきらかな「?」は少ないんですが、どうも数少ない特定の資料だけにずいぶん拘ってしまった印象がある。

若い学者が一応は研究して、なるほど!と断定・発表。もちろん聞くべき部分もあるけど、なんか思い込み先走りの感じがめだつ。せっかくの豊富な図版も、本文記述とは無関係なものが多いです。たまたま手に入れた図版を(もったいないから)むやみに掲載したかのような雰囲気。

英語で書いた本を自身で翻訳したようですね。そのためか、こなれていない日本語です。できの悪い史学生が書いた卒論みたいな感じですね。

文句はともかく、通読してわかったこと。要するに鉄砲によって戦術が変わったというより、実は槍兵の集団戦法が誕生したことのほうが重大だった。それまでバラバラで勝手に戦っていたのが、規律ある槍部隊の誕生で一変した。馬に乗った武将の個の強さが通用しなくなった。

戦法が変化するということの背景には、統率する戦国大名の作った政治システムや収税システム、兵団編成などのソフトウェア革命があった。うん、なるほど。この点は十分に納得です。

ついでに、サムライの刀についてもクソミソにけなしています。「刀こそ武士の魂」なんてのは、平和な徳川期になってアイデンティティを失った武士階級が必死になって言い出したこと。刀が戦闘で役に立たなかったことは、いろんな軍忠状を調べてみるとわかる。将兵が負った傷のほとんどは矢傷でした。その後は槍傷。そして時代が下がると銃創。ま、そうでしょうね。

いろいろ不満は残るものの、けっこう楽しめる本でした。ところで「胴丸」と「腹巻」、どっちがどうだったっけ。著者によると、この両者は時代によった混同されたり取り違えられたりしてるんだそうです。読んだばっかりなのに、もう違いがわからない。

 ★★★ 文藝春秋

jinrui20mannen.jpgNHKでも放映されたBBC科学ドキュメンタリーを本にしたもののようです。

20万年前ほどにアフリカの大地溝帯(たぶん)で誕生した現世人類。6万年ほど前にアフリカを出て、そこから小さなバンドが世界中に拡散した。いわゆる「アフリカ単一起源説」ですが、いまのところこの説が主流のようです。

で、そこからどうやってどこへ拡散したのた。面白かったのはスエズ地峡ではなく紅海の南端あたりを通過した連中のほうが成功したという説。北方ルートは沙漠地帯が障壁になっていた可能性がある。しかし紅海南端ルートだとアラビア半島の海沿いの緑地伝いに動けたかもしれない。

へえー、すると当時はアラビア半島と繋がってたんでしょうか。原始的ながら舟を使ったという説もあるようですが、はたして足を濡らさずに渡れたのかどうか。

もうひとつ意外だったのは、アラスカから北米への南下ルート。従来の定説では中央部の巨大な氷河と氷河の間の回廊を伝って南下という感じで、すっかり信用してましたが、実は太平洋沿いという説もあるんだそうです。海沿いは氷河の撤退が早かったというんですね。ワカメや貝を採ったりアザラシ殺したりしながらブラブラと拡散した。

また、いまの主流はもちろん「アフリカ単一起源説」ですが、実は「多地域進化説」もまだまだ根強い。またアフリカを出たのが1回だったのか、それとも何回もチャンスがあったのか。そのへんもまだ決定的ではない。世界中にはいろんな学者がいます。

そうそう、もうひとつ。狩猟から農耕への変化は必ずしも従来説が正しいとは限らない。従来説とは、貧しい狩猟民族が農耕を発見してよろこんで定住し、発展して小社会ができたという考え方。

まったく反対に、狩猟文化にもある程度の社会(や信仰)があり、なにか必要性に迫られて農耕が発展したかもしれないというんですね。農耕ってのが、それほどたいしたもんじゃないということです。狩猟生活も悪くはなかった。

実際、農業が始まると栄養状態は悪くなり、病気は増え、いろいろ不便なことが多くなったそうです。でも一応安定してたんで人口は一気に増えた。で、仕方ないから農耕を続ける羽目になった。なんかジャレド・ダイアモンドも同じような趣旨のこと書いてなかったっけ。

アリス・ロバーツってのは、いわゆるサイエンス・コミュニケーターというんでしょうか。あまり専門的ではなく、かなりかみ砕いた展開の本でした。まったく関係ないけどけっこう若くて美人です。いかにもBBCが喜びそうな人選。

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★★★ 角川書店

貴志祐介は3冊目。「新世界より」「悪の教典」のどちらも面白く読めたので、たぶんこれも大丈夫だろうと借り出し。

はい。大丈夫でした。「新世界より」がファンタジーSF、「悪の教典」がバイオレンス・サスペンスとすれば、「青の炎」は学園ミステリー・・・とも少し違うか。いわゆる完全犯罪もので、主人公はラスコリニコフ的高校生です。

この作者、そんなに若くはないようですが、けっこう高校生あたりを描くのがうまいですね。雰囲気がある。現実の高校生とは違うかもしれませんが「いかにも」という感じで描いてくれる。それっぽければ十分。

ちょっと悲しいストーリーです。ま、完全犯罪もののオキマリで、最後はナニになってしまいますが。

いきなり話は飛びますが、映画「太陽がいっぱい」ではアラン・ドロンがいい気分で太陽を浴びていると刑事が迫ります。でもパトリシア・ハイスミスの原作では逮捕なんかされません。それどころかその後のトム・リプリーを描いてシリーズものにまでなっています。才覚のあるワルはしっかり生き延びる。

映画版も実際には2通パターンで作成して、さんざん議論の末、ひんしゅくをかわない「悪は滅びる穏当パターン」が採用されたらしいです。


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★★★ 新潮社

著者は元サンケイ新聞記者。北京の大学で勉強したとかで、中国語は達者らしいです。

中国でサンケイ記者といったら蛇蝎のように嫌われそうですが、この人は典型的な現場主義というか、とにかく取材対象に食らいつく。軍や党の要人たちにうまく接近して、いろいろ情報を得ている。もちろん何十回となく飯を喰ったり酒を飲んだり。会うときは必ず贈り物を欠かさない。そんなタイプ、確かにいるだろうなあという記者です。

なんかスパイ小説みたいです。変装をする。携帯をいくつも使い分ける。クルマを乗り継ぐ。とにかく周囲は密告者や手先だらけと覚悟する。自宅のベッドにも盗聴器がしかけられているのは当然。ちょっと危ない現場では、官憲にカメラの画像を消される前に素早くSDカードをダミーと差し替える。連行されたり恫喝されるなんてのは日常茶飯。

中国にいる多くの日本人記者や企業人、外交官たちが、諜報分野ではいかに素人まるだしで騙されやすいか。中国は海千山千の鉄火場。そもそも日本人には騙しあいとか交渉とかのセンスが欠けているのかもしれません。他社のナイーブな記者に対しての苛立ちもけっこう書かれています。

要人と会う場合は、すぐに取材しようとはしません。とにかく自慢話を聞いてやったり日本の考えを説明してやったりカラオケやって仲良くなる。最初は他人行儀な「野口先生」だったのが、そのうち「オマエ」になる。こうなればチャンスです。もちろん要人だって、簡単にうかつなことは話しませんが、あいまいながらけっこう本音情報を吐露してくれる。

ということで、真の権力構造がわかりにくい中国の、本当の仕組みや人的な絡みをいろいろ知ることのできる面白い一冊でした。。

現代中国を理解する手引きとしては、スーザン・L・シャークの「中国 危うい超大国」が既読の中では一番と思いますが、それに次ぐかもしれません。そうそう、小説ではあるものの、ノーベル賞作家 莫言の一連の物語も非常にわかりやすいです。

この三つ、要するに概観として評論家的に解説するか、そのパーツである官僚や軍人たちについての体験事実を書くか、あるいはもっと下層の農民・村レベルの感覚で著述するか。その違いでしかないですね。

たぶん有能かつ臭そうなこの記者(おそらくブンヤ仲間では異端者)、その後はサンケイを辞職して政治家を目指してるみたいです。維新だったかな。

中国13億人、腐敗や理不尽は多いものの、これはある程度歴史的な「文化」です。不合理だからといってトップにいる官僚や軍人が単なるアホなわけはありません。超有能。日本についても深く調べ、合法不合法に関係なくあらゆる手段で情報を得、真剣に将来の戦略を練っている。けっして軽んじちゃいけないですね。

★★ 作品社

kurodakanbei.jpg新しい本のようです。来年の大河ドラマを意識した出版なのかな。

中身は官兵衛を扱った中編・短編を集めたもの。作者は菊池寛、鷲尾雨工、坂口安吾、海音寺潮五郎、武者小路実篤、池波正太郎。他にもいたかもしれません。

鷲尾雨工は知りませんでしたが、戦後すぐまで活躍した人で直木賞作家みたいです。この人の黒田官兵衛がいちばんボリュームあって、ただし要するに講談本。昔は講談本ってのがあったんです。猿飛佐助とか後藤又兵衛とか、人気ありそうな英雄豪傑を扱った俗本。半分落語ですね。子供にも読みやすいので、小学生のころはせっせと貸本屋から借り出して読んでました。

海音寺潮五郎のは官兵衛(如水)が国内の反抗勢力である城井鎮房を謀殺した事件。ただし、内容は史実とは別でかなり面白おかしく書かれている。だいたい海音寺さんってのは、かなり嘘八百を平気で書いた。もっともらしいけど、あの人の小説を史実と思ってはいけないらしいです。

中では坂口安吾の「二流の人」がやはりいちばん楽しかったですね。官兵衛をしょせんは二流の英雄と断じるもので、半分評論みたいな感じです。とにかく好き勝手に評価して、縦横無尽に書いている。その断定する文章に勢いがある。不思議な魅力です。

keimanoryoatari.jpg★★ NHK出版
 
先崎学はもちろん将棋の棋士。ただしこれはNHK囲碁講座のテキストに連載されたものらしいです。

昔はけっこう強い人だったんだけどなあ。才気がキラキラしていた。羽生のライバルといってもいいくらいでしたが、才気にエネルギー使い果たしてすっかり差がついてしまった。

昔のエッセイ本でしたか、羽生と自分の写真が掲載されて「左は天才、右は天才」とキャプションつけられて、さすがに凹んだ。実力の世界だけに、気持ちは察せられます。その夜は泣いたんだったかな。

ただし文才ではたぶん将棋界No.1です。河口俊彦さんも文章が達者でしたが、やはり先崎には一歩譲ります。で、これは将棋の先崎が碁について書き綴ったエッセイ。他業界のことなので力が抜けていて、すんなり読めます。

文中でボヤいてますが、「碁の棋譜は追っかけにくい」という意見には大賛成。ゴチャゴチャした広い盤面で「67」とか「98」とかいう石を探すのは大変なんです。棋力のある人なら、次は当然このあたりだろうという予測がつくんでしょうが、素人が番号を探してると目がチラチラしてくる。もっと探しやすい記載方法はないもんですかね。
 
tabihe.jpg★★★ 文春文庫   ★★★★(2022年 再評価)

廉価購入本、その2。初読です。

いいですね。大学を出たけど、何かを求め続けて、でも得られない青年。自由にあこがれて放浪している。いろいろやったあげく日本を脱出しようと決めて、せっせと金を稼ぐ。稼いだ金を持って(もちろん定番のソ連経由で)旅立つ。念願の自由を得る。でもだからといって完全に幸福になれるわけではありません

少し時代は違いますが、わかります。とにかく日本を出たかった。でも旅費がない。貧乏ニッポンの青年にとって渡航費用は高額だったんです。親に言えば出してもらえるような時代じゃありません。フルブライトに受かれば米国に行ける。サンケイスカラシップなんてのもあった。でも、どっちも成績が超優良でないと無理。勉強してない学生には不可能な話です。友達とグジグジ言いながら、ひたすら喫茶店で時間をつぶしていました。懐かしい青春時代なんていうもんじゃありません。無意味で自堕落で恥ずかしいような日々です。

現実の野田知佑青年は新聞販売店でアルバイトをし、実入りのいい英字新聞の勧誘で稼ぐ。精神的には辛いけど、勧誘はいいお金になった。そうやって現実的な一歩を踏み出した。

フィンランド、ギリシャ、マケドニア、フランス・・このへんの放浪談は楽しいです。精神的にはかなり辛そうだけど、でも逞しい。沢木耕太郎ほどスカシてないで、けっこうウジウジ悩んでいます。で、結局は日本に舞い戻る。舞い戻って、実家の近くに帰って一応は真面目に英語教師なんかもする。東京に戻ってカメラ雑誌の社員になる。つい、結婚もしてしまう。でもネクタイ締めたサラリーマン生活が堪えられない。大酒を飲むようになる。カヌーで遊ぶ楽しさを発見する。そして、フリーライター。

こうして、野田知佑という人間ができあがった。

読後感は非常に良し。また読みたいと思える一冊でした。

★★★ 文春文庫

アマゾンにときどき見受ける「¥ 1」という価格。いったいこれは何だ?と思っていたのですが、氷解。

要するに大手の出品業者はショバ代である出品料金がかなり優遇されるんですね。そして一定の送料分をアマゾンから還付してもらえる仕組みらしい。

たとえば価格1円なんて場合は出品料が取れない。計算上は0円になってしまうんだそうです。すると出品料金が不要になり、なおかつ送料250円という設定だけど実際にはメール便で送れば、その差額が業者にはいる。たぶん100円か150円くらいの利益になるんでしょうか。わずかな利益ですが、ブックオフかなんかで安く仕入れて、大量に売れればなんとかなる。

不思議な仕組みです。hokkyokukaihe.jpg

ということで今回低価格なのを3冊買いました。みんな1円ではなかったので、計900円ほど。メール便で到着したのを見ると、思ったよりきれいです。表紙なんかはたぶん手入れしてるんでしょうけど、一応は美本といってもいいくらい。

で、まず読んだのがこの「北極海へ」です。

何年か前に読んだことがある本でした。野田さんが初めて北極圏へいった時のものかな。下ったのはマッケンジー川です。カナダを北へ向かって流れている。

読んで楽しいかと問われれば、同じような本でも「ユーコン漂流」のほうがいいですね。同じように殺風景で、クマはウロウロしていて、何万匹のでかい蚊が押し寄せる。水は濁った茶色で釣りは不可能だし(サカナは餌が見えない)岸はひたすら殺風景。でもユーコンにはサケマスがいるけど、マッケンジーにはいないらしい。これが大きな違い。

ユーコン川へ流れ込む大小の川、たいていはサケマスで溢れています。これをヒョイと釣って、筋子をとって醤油に漬ける。あの一升飯がなんともうまそうでした。マッケンジーの時点ではまだカヌー犬もいないし。ちょっと寂しい。

あまり強調していませんが、川下りを終えて肉体も精神もかなりまいった雰囲気です。陰惨。そりゃそうだろうなあ。何カ月もかけてよくまあ。

★★ 小学館

sengokunokaturyoku.jpgけっこう分厚い本。読み物ではなく、参考書、資料本とでもいうべきですね。

内容は応仁の乱から豊臣滅亡まで。英雄豪傑も地方の小領主もほぼ等価値に扱っています。あくまで「当時の世相や生活を知る」ことが重点なのかな。したがって決して面白い本ではありません。

ただ、ひたすら(ダラダラ書かれたのを)ダラダラ読み進んでいると、戦国が本当に下克上の世であることがわかる。誰が誰と戦争し、和睦し、また戦争し、勢力を蓄え、あるいは没落し。守護代が大名になり、それがまた家来に殺され、将軍は京から逃げ出してはまた雌伏して再起をはかる。これの連続。

大軍が衝突したり派手な城攻めなんてめったにないです。それぞれの領主たちは百姓対策に智恵を絞ったり、文句をいう家来たちをなだめたり、成敗したり、逆に暗殺されたり。百姓も百姓で税金逃れに奔走したり、仲間を裏切ったり、土地を手放したり。要するに、みんなそれぞれの「日常」があった。けっこう退屈な日々。

厚いのを読み終えて、なるほどね・・・というのが感想です。読まないよりは読んだほうがいい・・という一冊。

nihonshiwakonna.jpg★★★ 文藝春秋

半藤じいさんが各分野の碩学たち(ばっかりでもないけど)と対談。例によって講談調です。

とりあげた内容は聖徳太子から始まって最後は丸谷才一との阿部定事件だったかな。真面目な話もあるけど、ほとんどは酒の席での無駄話みたいなもんです。だから面白いともいえる。

へぇーという事実(たぶん)もいろいろあって、たとえば満州事変の石原莞爾がキリッとしたいい男だったとか。ただし後年になって取材しようとすると取り巻き連中のガードがえらく堅くて、それへの挨拶が大変だったとか。神様に祭り上げられてたんでしょうか。

天皇=軍人説なんかもけっこう面白かったです。そりゃ子供の頃から厳しく軍人として教育され続けたらずっーと「善良な学者」でばっかりはいられない。また何よりも(国民よりも)皇統を強く意識していたんじゃないかという説にも納得。母親(貞明皇太后)との微妙な関係についても初耳。

玉音放送に関しては、雑音まじりはともかく、話している内容や言葉は非常にわかりやすかった。難しい単語は使ってるけど要するに常套句・定型文です。あれを「難解でわからなかった」説が流布しているのはかなり変。発音が聞き取りにくかったとしても、アナウンサーが直後に非常にクリアに読んでいるし。確かに。

何事によらずエピソードってのは、耳に馴染みやすい説がいつのまにか定説になる傾向はありますね。みーんな確かめたりせず孫引き、孫々引きで書くから圧倒的に増えて、ゆるぎない常識になってしまう。あとになって「あれは違う」という人のほうが少数派になる。関係ないけど戦時中の英語教育なんかもそうですね。ストライクを「よし!」と言っていたという説のほうが面白い。

阿部定事件は新聞マスコミにやけに大きく取り上げられた。なんか想像以上の大事件だったみたいです。時代の閉塞感がきつくて、それで逆に破天荒の大騒ぎになったんじゃないかとか。一いわばガス抜き。

読みやすい内容ですが、けっこう考えさせられる部分も多い一冊でした。

bushitachinosaho.jpg★ 光文社

中村彰彦という作家、たしか保科正之かなんかの本を読んだ記憶あり。けっして駄作ではないけれど、ちょっと鼻につくというか、飽きる感じ。またぜひ読みたい・・という著者ではありません。

で、今回はエピソード集とでもいいますか。少し期待しましたが、やはり底が浅い。わりあい陳腐な知識が多くて水増しも多々。へーっ!という部分は全体の1割もありませんでした。0.5割かな。ちょっと残念。

eikokuonospeech.jpg岩波書店

オーストラリアの言語療法士が吃音に悩むジョージ6世をサポートしたお話。映画はけっこう面白そうで、見に行こうかと思ったくらいです。結局、行きませんでしたが。

で、この本。映画とどっちが古いのかは知りませんが、要するに世によくある「伝記」でした。事実だけは羅列してあるけど、感動がなにもない。きれいごとがひたすら並べてある。共著に「マーク・ローグ」という名前があるんで、たぶんライオネル・ローグの息子でしょうね。それじゃ面白い話が出てくるわけがない。

失敗でした。★なし。

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