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ザッと検索をかけてみたら、今年は★★★★が3冊。いい本にめぐり合わなかったという印象もありますが、そもそも読んだ本の数が少ない。多かった年の半分以下です。目が悪くなったこともあるけど、読む根気がなくなってきたんですね。

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ローラ・インガルスの本というより、安野光雅の絵本ですね。訳も新しくして、いちおうは安野がチェックした。で、やたらめったら挿絵をつけた。ほんと、多いです。

文章で説明すれば簡単なことでも、それを絵にしようとすると一気にハードルがあがる。たとえば「すぐりを木のボウルに入れました」と書かれていても、絵にする場合はその大きさから材質、色、質感、形、すべてを具体化しないといけない。べらぼうに大変です。指示されて調査したのは朝日出版社の編集さんだったのかな。いやはや。

どうも安野もこんな作業に手を出してしまって後悔した雰囲気がある。そんなわけで、ローラ絵本はこの一冊だけでオシマイ。続ける勇気をなくした。
 

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安倍政権が不信任に足る7つの理由」です。野党が共同してこの夏、内閣不信任案を提出。代表して趣旨説明演説を行ったのが立憲の枝野幸男で、延々3時間。

その日は私もネット中継を時々覗いてはみましたが、さすがにずーっと見つづける根気はなかった。なかったけれど、枝野の演説がなんとも理路整然としているなあとは感じた。演説ってのは、こういうもんなんだよな。シンゾーみたいに官僚作成のペーパーをへろへろ読むのとは根本的に違う。

で、翌日だったか翌々日だったか。立憲のサイトをのぞいたら、この長大な演説を書き起こした支持者がいた。えらいなあ。動画を見ては書き、見ては書く。テープ起こしみたいなもんですね。私もダウンロードして読ませてもらいました。

で、とうとうこの演説を緊急出版する出版社まであらわれた。扶桑社ってのが皮肉というか、面白いです。フジサンケイ系列の扶桑社が「安倍不信任案」の議事録を刊行したって、もちろん悪いという理由はない。売れる!と踏んだんでしょう。

演説の中身はいたってまっとうで、民主主義、多数決の原理、議員内閣制とはなにか。中3の社会か高校の公民あたりの副教材に最適です。子供たちはぜひとも読んでほしい。保守の人にもぜひ読んでほしい。エダノという人は、ある意味では保守です。
 

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ちょっと前、評判になった本ですね。2月に図書館に予約を入れ、9カ月ほど待ってから読みました。

本の中身は、ま、要するに「どうしてホモサピエンスだけが栄えたのか」ということです。ひろい意味で「人類」と考えられる連中、つまり「ホモなんとかかんとか」はけっこう雑多にいて、ホモサピエンスだけが人類だったわけではない。たとえば体力とか脳の重さとか、ネアンデルタールが「人類」の覇者になっても不思議ではなかった。なぜホモサピエンスなんだ。

このテーマは人気があって、解説本は種々雑多、山のように存在します。そうした何十冊もある人類史本の中で、どうしてこの「サピエンス全史」が大ベストセラーになったのか。

まず気がつくのは、著者がやけに明快に断定することですね。語尾がハッキリしている。いろいろ学界で異論あることでも、これだ!ときめる。「××なのかもしれない・・」という調子のあやふや説明は基本的にしない。慎重かつ用心深い「典型的な学者」ではない印象です。うん。この先生の講義なら、学生は目を輝かせて聴く。わかりやすい。気分がいい。

そして「なぜホモサピエンスが」の答えも面白いです。脳の重さでもないし、火や道具を使いこなしたことでもない。言葉が使えたことでもない。そうした長所を持った人類は他にもいたでしょう。著者が看破する答えは「嘘」が言えるようになったこと。「嘘」というとナンですが、きれいに表現すると「虚構・妄想」を話せるようになった。おそらくはDNAかなんかの突然変移。

「嘘」が言えるということは、事実でないことを話せるということです。たとえば近くを豹がうろついている。これは事実なので、たぶんネアンデルタールでも、あるいはチンパンジーでも集団に警告できる。しかし「おれに飯を食わせないと豹がくるぞ」と脅すのは嘘です。虚構。妄想。仮の話。

この虚構力が上手になると、役割分担して集団での狩りもできます。オレがコレしたら、お前はアレをしろ。そしたらオレがナニするから。

あるいは「オレを怒らせると豹がきて、お前を食っちまうからな」という脅し。みんなで力を合わせてマンモス狩れば、豹の神様が喜ぶぞ、などなど。

こうして神話が誕生し、村や国家がうまれ、集団謀議が成立し、桜の樹の下を双眼鏡もたずに歩いていた男が逮捕される。ボスにとってはめでたしめでたし。他の動物にはぜったい真似できない優れた能力です。かくしてホモサピエンスは栄えた。
 

tengokuhamada.jpg本棚に転がっていた文庫本。読んでみたら意外や意外で面白かった。ま、星印は「★★★」ですけどね。

気弱で根性ナシでもう生きていけない・・・と思い詰めた若い女が、そうだ、死のうと考える。死ぬんなら、やっぱ北ですね。行く先も知らない北行きの電車(たぶん「列車」ではない)に乗る。日本海にぶちあたったけどまだ雰囲気が足りないので、嫌がるタクシーの尻を叩いてさらに北へ。

海辺の山奥の汚い民宿に転がり込んで、たしか一泊1000円で泊まる。民宿といっても、そもそも辺鄙すぎて商売する気がない。何年も営業してない。だから宿泊代の相場もよくわからない。ま、1000円でいいや。以後はだいたい想像通りの展開なんですが、この主人公の女がとぼけていて味がある。本人は「気弱」と思っているけど、ほんとにそうか? けっこう図々しいぞ。

笑える一冊でした。ひろいもの。他にもあるかと図書館を探したら同じ著者の薄い単行本が5~6冊ならんでいた。ただしみんな行間があいてて、ページが少ない。うーん、借りる気が失せました。本はあるていど厚くないと・・・・。
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これも★★★

ヴィクトリア女王については何にも知りません。小柄だった。太っていた。やたら子供を産んだ。長生きだった。喪服だった。ヨーロッパ中の王室と婚姻をむすんだ。で、大英帝国は近代化して大繁栄し、世界中の何割かを占有してしまった。パックスブリタニカ。

ま、この程度の知識しかなかったです。ところがたまたまNHKの連続ドラマ「ダウントンアビー」にはまって、その続きで「女王ヴィクトリア」も見始めた。ただしこっちはかなり「うーむ・・」という代物です。制作は同じ英国の民放なんですけどね。けっこうテーストが違う。

で、そこで描かれる女王ヴィクトリアの姿に、実像のヴィクトリアを多少は知りたくなった。はい。テレビ版のは派手で細くて気が強くて子猫みたいで、なんかなあ。ただ単に小柄だから抜擢された女優みたいな感じです。

ということで読んだわけですが、写真や絵が豊富で読みやすい本でした。もちろん実像のヴィクトリアという人は、とくに偉くもないし、優れてもいなかった。保守的で、気が強くて、短気で、好き嫌いが激しい

女王になりたての頃は首相のメルバーンにべったり。テレビではしぶい俳優が演じていましたが、実際はかなり臭い政治家のようです。後年になっても好き嫌いは激しく、たとえばグラッドストンは大嫌い。彼の政策をしつこく妨害していたようです。反対に大好きだったのはディズレーリー。これは亭主(アルバート)が死んだときベタベタの顕彰演説をしてくれたため好感を持ったとWikiにありました。

理性の人というより、感情の人だったのかな。老年になってからは政治に興味を失ってしまった。こういう本を読むと籠の鳥みたいな日本の皇室が悲しくなります。
 

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これもよかったです。

「昭和天皇実録」というのは、宮内庁が長年かけて編纂し、全60巻とかいうもの。前天皇に関する公式史ですね。まるで中国の「正史」みたいだ。

ザーッと読み流しただけですが、昭和天皇って大変だったんだなあ。母親には期待されず、弟からは突き上げられ、重臣も軍部もちっとも言うことを聞いてくれない。たまに怒ったら、この田中義一、あたふた恐慌で、あっさり辞職。後味が悪い。

最近、故天皇の御製推敲メモが公開になりましたが、あれなんかもせつない。言えるものなら言いたいことがたくさんあったんだろうな。

勉誠出版 ★★★

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面白そうと思って借り出したんですが、あははは、2年前に読んでましたこちらです。

それでもせっかく借りたので、また読み直しています。いい本です。
チンギス・カン(この本ではこう表記)は決して単細胞の武将ではなく、ケースバイケースで金の庇護に入ったりウイグル商人を利用したり、かなり頭脳派。

けっこう目からウロコがポロポロ落ちます。すごーく読みややすい・・という本ではないですが。
柏書房 ★★★
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ないないと言っていた自衛隊「イラク日報」ですが、なんやかんやゴタゴタの末、のり弁で公開。みっともない話です。

「存在しない!」「聞いてない!」は脊髄反射なんでしょうね。何か聞かれたら、とりあえず否定する。否定できなくなったら「怪文書」とけなす。それも通用しなくなったら「私はまだ読んでいない」と逃げる。それでもダメなら「丁寧に」「検討中」でひきのばす。プロジェクトチーム(PT)なんて手もある。

で、せっかく公開されたんなら・・と、日報を収録した本が数冊でています。これはその一つ。日報の黒海苔の部分はそのままページでも黒塗りです。

なかなか面白いんですが、みんな文章が達者ですね。というより、なんか同じような文体に見える。まさか変造ではないでしょうから、ひょっとして「こういうスタイルで書くのが推奨」みたいなモデルがあったんだろうか。軽妙で、ちょっとユーモアを交えて、人間臭くする。

半分ほど読んだところで返却期限がきてしまいました。最近、読むのに時間がかかります。

草思社 ★★★
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副題は「写真で読み解く晩年の慶喜」。ちなみに慶喜の名誉回復は明治中期からのようです。明治30年に静岡から東京に居を移し、31年には天皇に拝謁(ただし内々)。35年に公爵に叙せられ、これで公式に復権。それから没するまで(大正2年)の間の写真が多く掲載されています。

感じたこと。

昔の生活は大変なんですよね。家と家の付き合いは面倒で、家族の中でも序列があり、そうした秩序をきちっと守っていかないと暮らしていけない。生活できない。

たとえば何かでお祝いしてもらったら、その返礼訪問だけでも1日がつぶれる。馬車で数十軒とか。仮に玄関先で挨拶だけして、名刺を置いてすぐ次に回るだけでも大変。考えただけでも面倒です。

35年の名誉回復のあとはもう遠慮することなく、徳川一門や一族、家臣なんかが集まってはお祝いをしました。公式のものもあるし、もっと私的なものもある。宴のあとは庭に集まって集合写真。この写真がなんというか、味があるんですね。親戚たち、息子たち、娘たち、またそれぞれの正室とか女中とか側妾とか。みんな自分の地位と立場を考えて適当な場所に並んでいる。一人々々の顔を眺めてみるだけでも、いろいろ関係が読み取れます。実に面白い。

そうそう。重要なことではありませんが、慶喜ってのはあまり背が高くなかった。均整はとれているけど、どちらかというと小柄。よく見る抑制的な表情の写真だけではなく、ごく稀には微笑んでいるスナップ写真もある。ま、それがこの本のタイトルになっているんですが。

写真が貴重なだけでなく、当時の人間関係や動き、よく調べられている本です。


河出書房新社 ★★★★
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図書館に予約をいれたのが、たしか今年の2月頃。それから9カ月を経て、ようやく順番がきました。話題になって面白そうではあったけど買うのはちょっと躊躇・・・という本だったので。

ホモサピエンスってのは、ネアンデルタールなんかに比べると、とくに強くもないし賢くもない。雑多な「人類」仲間の中でも平凡な一派であったんだけど、ひとつだけ奇跡をおこしたんだそうです。たぶんDNAかなんかの突然変移でしょう、7万年前あたりに、いきなり「嘘」がいえるようになった。嘘というか、要するに「虚構」です。

つまり「結束」とか「計画」「将来」「展望」などなど、具体的な実態のないことについて話す能力。チンパンジーだって「ライオンが来たぞぉー」という程度の警報言語を持ってはいます。しかし「この前、ライオンがオレに話したことだけど・・・」と嘘をいう能力はない。

それが発展すると「オレたちみんなライオン一族だ。だから仲良くしなきゃいけないんだぜ」と誰かを説得したり、シンボルとしてライオンのトーテムを立てたりする。いわばライオン教団の誕生。結束した社会ができる。

これが「認知革命」です。非常に画期的。これによって、その日暮らしでバラバラな家族単位から、まとまりのある集団になることができた。複雑で難しい内容の会話をする能力が発達し、みんなで協力して、計画をたてて特定の何かをする。この点で、単純なネアンデルタールなんかとは決定的に違いができたんですね。肉体的にはひよわなホモサピエンスだけど、協力すれば頑丈なネアンデルタールにも勝てるし、凶暴な剣歯虎とも戦える。みんなで力をあわせてマンモスも狩れる。

で、その次にはたぶん「農業革命」ですか。最近の学説では常識ですが、農業を覚えたからといって狩猟採集生活より楽になったかというと違う。たぶん正反対。定住して、人口がやたら増えて、病気が蔓延して、大多数にとっては辛い生活になって、だから必死に仕事をする。悪循環。やがて富のへだだりが生まれる。食料の貯蓄が可能になって支配階級の誕生です。支配する者と支配される者の分離。

やがて「貨幣」も誕生。貨幣とか貴金属とか、もちろん完全な虚構ですね。たとえばゴールド。特に価値があるわけではなくて、単に黄色くてフニャフニャした金属でしかない。ゴールドに特別な価値があるのはあくまで「約束事」です。みんなが「金がいい」というから金に値打ちがうまれた。貨幣の次には手形とかカードとか、ま、延長です。

こんな具合にホモサピエンスは進化し・・・ん? 進化という言葉にもまやかしの価値観があります。正しくは「ホモサピエンスは変化した」でしょう。

ごく最近は大変革である「科学革命」とかもあって、なんか人類は急に幸せになったような錯覚がありますが、厳密にいえば別に幸せになったともいえない。厳寒の中世の冬に一本の薪を得た市民の喜びと、1Kのアパートから3LDKに引越しした喜び、どっちが幸福かと問われると返事は非常に難しい。

・・・という具合に、ホモサピエンスの歴史を容赦なく著者は解説していきます。筆致は非常にドライですね。スッキリしすぎて気分がいいくらい。遠慮とか躊躇がない

そうそう。枝葉ですが著者はブッダの教えにけっこう興味をもっているようです。ブッダが説いたのはシンプルに言うと「すべての欲望を捨てよう」ということだそうです。なるほど。欲望・渇望がある限り、貧乏人も金持ちも、貴族も乞食も、けっして完全に幸福にはなれない。だから欲を捨てよう。ちなみに幸せになろうという気持ちもやはり「欲」です。

比べると、キリスト教もイスラム教も、いろいろなにかすることで神様に気に入ってもらって、それで天国に行こうとしているような気がします。うん、この点でまったく違うわけですね、たぶん。

ま、いろいろ、面白い本でした。ベストセラーになったのも理解できた気がします。


筑摩書房★★★
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神保町のすずらん通と思うんだけど、なんとかというカレーの店がありましたね。黒潮とか南海とか、そんなふうな印象の名前。タールのように真っ黒なカレーで、カツなんか乗せるのが定番。やたら混んでいて、入り口から中を覗くとすぐ奥のオバはんに見つけられて、高圧的に相席を指示される。そのテーブルがまた狭い。今もあるか調べてみたけど、発見できませんでした。

ま、どうでもいい思い出です。私、神保町で古本を売ったことはありません。大学が地方だったんで、だいたい4割から5割が古本の買い取り相場と思いこんでいた。ところが東京はえらく安いんですね。それで懲りて、以後古本を持ちこんだことは皆無。たまに買うだけです。大通(靖国通かな?)をずーっと冷やかして歩いて、すずらん通りに回って、最後は三省堂というルート。

で、この本は神保町という古本街のなりたちです。幕末から今日まで。鹿島さん、実によく調べた。知らなかったけど、共立女子大にずーっといたらしいですね。それでいつも神保町を歩いていた。

いろいろ面白いことを知りました。明治初期の学制改革(というか場当たり)にふりまわされて、英語派、独語派、仏語派の戦いがあったこと。あっ、もちろんもっと前には洋学派と漢学派、国語派の対立です。正則と変則。そうした混乱の中で、東大、明治、日大、法政などなどの初期学校が誕生した。(訳のわからん話ですが、たとえば仏語学校はみんな理系ということになり、それが理科大学につながったとか。ん、違ったかな。とにかく大混乱です)

そもそもを言うなら、お役所の役人たちがアルバイトで教えていた都合で、地理的に近い神田のあたりに学校がたくさんでき、学校がたくさんできたので本屋街もできた。漱石もこのへんをウロウロしていたし、時代が下れば魯迅や周恩来も勉強したり酒を飲んだりしていた。

面白い本でしたが、ずっしり中身がつまっているので返却期限までに読みきれず。途中で返してしまいました。


集英社★★★
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この作家は初めて。新聞に連載をしていることは知っていますが、だいたい連載の新聞小説ってのは読んだことがない。毎日少しずつ・・というのが性分にあわないです。

で、将軍で最悪といったら、ま、数人しか候補にあがりません。義満とか義政とかもそうなんでしょうけど、ちょっと認知度がない。やはりふつうは徳川でしょう。犬公方か、でなかったらオットセイ公方。場合によっては家定も入るか。それくらい。


なるほど、なかなか達者な人です。通説をうまくひっくり返している。下馬将軍といわれるほど権勢を振るった酒井忠清をちょっと下げて、そのかわり次の堀田正俊を持ち上げる。ついでに母の桂昌院(お玉の方)を憎めない陽性の女性に設定し、正室の鷹司信子は好奇心あふれる賢い女性。

そして、みんながいちばん興味のある柳沢吉保は、ま、ごく普通の気の利く能吏でした。とくに悪賢くもなく、とくに善良というわけでもなし。ごく善意で発した犬猫保護策が誤解されて騒動になる。心得違いの逆上大名に切腹させたら、なぜか大騒ぎの討ち入り事件になる。なんかうまくいかない。

実際、飢饉やら噴火、地震、大火などなど、次から次へと災難があった。みーんな将軍の責任と言われれば、ま、仕方ないですね。平成の御世だって天皇は引退するし、上に立つ総理に徳がないんで次から次へと台風やら地震やら天変地異。後の世に「悪政もりかけ時代」なんて言われるかもしれません。

そうそう。この小説は中山義秀文学賞をもらったそうです。前にNHKの(ときどき作る)良質ドラマ「眩~北斎の娘~」も、この人のが原作らしいですね。あのドラマは宮﨑あおい、長塚京三、松田龍平、みーんな最高で素晴らしかった。


文藝春秋 ★★
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えーと、まあ、執事の目からみた天皇の日常とでもいうんでしょうか。とくに何かを意図した本でもなく「天皇ってのはこんな日常を送ってるんだよ」「陛下はこんなに考えて配慮して暮らしいるんですよ」という叙述。

坦々と書かれています。天皇という『仕事』、頼まれても承諾しないほうがいいですね。とにかく忙しくて気が張ってしんどい、辛い。

陛下、真面目なお人柄のようです。昭和天皇も生真面目だった気配がありますが、今上も同じ性格らしい。

そうそう。天皇にはやたら仕事があるけど、その中で祭祀絡みが実はかなり多い。なんせ日本の神道の総元締めなんで、たいへんです。もっとサボればいいと思うんですが、気がすまない。

意外だったこと。お手植えの田んぼで稲を育てるのは、明治になってから。民百姓の仕事を知ってもらいたいという趣旨で元勲が薦めた。カイコを飼うのも同様。こっちは昭憲皇太后(明治天皇の奥さん) が始めた。それぞれ時節柄の理由があってのことだったんだから、都合によっては中止してもいいはずなんですが、どうも今上は更に真面目にやって仕事をどんどん増やしているらしい。体に悪いです。

朝日新聞出版★★★

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半藤一利・加藤陽子の「昭和史裁判」を借り出したんだけど、前に読んだものだったことが判明。アホだなあ。ついでですがこの「会えてよかった」もなぜか表紙画像がフォルダーに入っていた。タイムスタンプを見ると去年の初夏ごろに借り出したらしい。読みやすい種類の本なのに、なぜ読了しなかったんだろう。不審。

とにかくボケが始まっていますね。「不審」じゃなくて、そういうものだと思うしかない。

で、読み始めましたが、うん、たぶん未読。「たぶん」といか言えないところが悔しいけど、記憶が明確でないんだから仕方ない。

そうそう。肝心の内容ですが、ま、安野さんが記憶に残る数十人について(おそらく)思いつくまま自由に脈絡なく書き綴ったもの。トシのせいか、記述の自由奔放さは達人の域です。あの足の長かった俳優、名前が出てこないけどえーと・・・・ そう、池辺良。あの人の随筆も晩年はあっちに飛びこっちを語り、もう神の領域でした。

そうそう。面白かったのは高峰秀子について。「高峰秀子には2パターンいて、片方はみんなが憧れる楚々たる美女。もう一人はとにかく口うるさい女」という趣旨で、これは笑ってしまった。確かにねぇ。

角川選書★★
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長男はもちろん昭和天皇で、下は高松宮三笠宮、あとは内親王で清宮(すがのみや)。紀宮(清子)とは違うよ。たしかオスガとかオスタさんとか言われていたような。当時の婦人誌では人気があった。自分が記憶しているのはこのくらいです。

で、昭和天皇のすぐ下の弟が誰だったか。これがいつも迷ってしまう。あれやこれや呻吟して、ようやく最後に出てくるのが秩父宮です。なんせ新聞でもニュース映画でも見たことがない。(昭和28年に没。知らないわけです)

この本、要するにどんな弟宮がいて、天皇との関係がどうだったかを記しているだけ。ま、それだけという感じでした。秩父宮が兄に対して批判的だったらしいことは知っていましたが、実は高松宮もそうだった

図書館でみかける分厚い「高松宮日記」、格調ありそうで、興味を持ちつつも敬遠してきました。たしか細川護貞(細川元首相の父)がこの人の秘書かなんかをつとめていたはずですね。高松宮妃は徳川慶喜の孫娘(喜久子)。そのまた妹(喜佐子)は榊原に嫁いで、後年書いた本では、亭主が高松宮絡みで憲兵に睨まれて云々という記述がある。高松宮一派は和平策謀していると思われていたらしい。

そうそう。明治の頃やたら多かった皇族がバッサリ整理されたのは、大正天皇(というより貞明皇后)がボコボコ男の子を産んだからだそうです。初の一夫一妻制で4人の男宮。こんなにいるんなら、跡継ぎは万全。万一に備えての予備皇族は不要だ・・・ということらしい。当時でさえ皇族が多すぎていろいろ問題だった。中には困った皇族もいるし、弊害が目立ったんでしょう。

だいたい皇族の存在意義は何か。これを真面目に考えると非常に憂鬱なことになる。直系以外の皇族ってのは、要するに「保険」です。ただ起床して飯を喰って元気に過ごして寝るだけでいい。その他に何をする必要もない。「オレもお役にたつぞ」なんてなまじ動くとみんなが迷惑する。なにもしないのがイチバン。

昭和天皇の場合も最初は女の子ばっかり(4人)続いて心配だったけど、その後で男が2人。周囲はホッとしたらしい。ただその後、まさか一族に男が絶えるだろうとは、夢にだに想像できなかった。

実情に合わなくなったのなら、典範を変更すればいいだけなんですけどね。後継ルールが皇祖皇宗のころから不変というわけでもなし。男系がどうとか血筋がどうとか、不思議なことを言い張る連中がいるのが不思議です。

秩父宮は海軍へ行きたかった。でも「順番がある」ってんで陸軍。ちょっと可哀相です。ちなみに海軍へ行かされた高松宮は、実は馬が好きだった。


早川書房 ★★★

道東の旅で読了。なんせ空港でたっぷり時間があったので、ひたすら読んでました。

読み初めてすぐ出てくる「介護人」とか「提供者」という言葉に違和感を持ちます。ん? SF仕立てなのかな。ヘールシャムという施設か学校かが重要な意味を持つらしい。

解説にもありましたが、主人公たちがどういう存在なのか、けっこう早い時点で見当がつきます。でも秘密探しがテーマの小説ではないので、それはどうでもいいようです。作者のカズオ・イシグロでさえ、この本を人に紹介するとき、秘密をバラしてしまってもいっこうに差しつかえないと言明しているようだし。

カズオ・イシグロは他に「日の名残り」しか読んでいませんが、土屋政雄という訳者が丁寧な仕事をしていますね。穏やかな雰囲気の半分以上をつくっている。はい。グロテスクともいえるような題材ですが、とくに事件らしい事件は起きません。些細な出来事の連続である遠い日々。ただしその記憶のミルクの中に、ちょっと消化しきれない粒々のような感覚だけが残ります。どんな粒かは、たぶん人それぞれで違う。

集英社 ★★
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阿刀田さんの書くものは、正直、あまり面白くない。面白くないけど、ときどき借り出してしまう。

今回のこれも旧約をいろいろ説明していて、ま、平凡な内容です。ただところどころに手塚治のマンガが挿入されているのがミソ。これもどうという内容ではないけど、手塚の絵は雰囲気があるんですよね。火の鳥の黎明編あたりの印象です。

ザッと読んでひっかかった点。

旧約の「神殿」の大きさです。単位はキュビト。肘から中指の先までの長さで、だいたい44センチ強。で、たとえばノアの方舟は長さが300キュビトだそうです。換算するとだいたい140メートル。ま、納得かな。

ところが栄華をほこったというソロモンの神殿は長さ60キュビドで幅が20キュビド。だいたい27メートル9メートル弱。神殿なのでそんなものかもしれませんが、作るのに7年もかけた。そして問題は宮殿です。これが長さ100キュビド、幅50キュビド。えーと、45メートルの22メートル。990平米くらいですか。300坪弱。

300坪の建坪って、そう驚くほどではないです。宿屋や個人住宅としてならべらぼうな広さですが、なんせ宮殿です。しかも名にし負うソロモンの宮殿。

このスペースに大広間があり控えの間があり、シバの女王が休憩した部屋があり、もちろん衛兵の控室もあり、台所もあり・・・と考えると、どうみても手狭すぎる。間口12間ということになりますが、ひょっとしたら幕末の越後屋のほうが広いかもしれない()。ちなみに皇居と比較すると、宴会なんかでよくテレビにうつる豊明殿が915平米らしいです

もっと不思議なのは、旧約関係のいろんな解説本、「あんがい狭い!」と書かれたのを目にしたことがない。どれもこれも「さすが豪華な神殿、宮殿」と讃えるだけ。どっかで固定観念に目が曇っているような気がします。

駿河町越後屋は間口35間あったそうです。60m以上。

作品社 ★★★
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図書館で見かけたので借出し。デュマだから面白いとはいえません。けっこうダラダラしたのもある。で、デュマがメアリー・スチュアートをどう思っていたのか、ちょっと興味。少なくとも美人だったらしいですから。

書中でもイングランドのエリザベスとメアリー・スチュアートのさや当てが頻出します。この二人、また従姉妹になるのか大叔母と姪とかになるのか。よく知りませんが、とにかく親戚ですね。

で、たとえばスコットランド大使にエリザベスが何度も確認する。メアリは私より美人なのか。色白なのか。背が高いのか、どうなのか。大使もこうした質問に答えるのは難しいでしょうね。「イングランドでは女王陛下にかなうような美女はおらぬかと存じます

こんな返事じゃエリザベスは不満。ついに「はい。女王陛下より少し背はお高いかと存じます」という返答をひきだしてエリザベスが喜ぶ。「私より高いのなら、それはスタイルがいいとは言えないわね。背が高すぎよ」

めんどうだなあ

デュマに言わせると「エリザベスは女である前に女王であった。メアリは女王である前に女であった」 うん、いかにもデュマが好きそうなセリフです。

で、とにかくエリザベスは大嫌いなメアリを幽閉して、最後は無理やり死刑。生かしておくには怖すぎたんだろうなあ。なんせエリザベスには子供がいないという弱点がある。大嫌いな女に「イングランドの王位を求めるわよ!」なんて言われたら死んでもしにきれない。

ま、結局はメアリの息子がイングランド王になったわけですけど。

そうそう。死刑命令への署名をさんざん迷ったあげく、いざ処刑のあとは「誰が執行したのよ。まだやるとは思っていなかったのに。責任者、出てこい!」とか大騒ぎして責任回避。まるでトランプです。困った女王だなあ。


文藝春秋 ★★★
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昭和天皇実録」というのは、宮内庁が24年かけて編纂、全60巻を平成26年から刊行開始して天皇皇后に奉呈というものらしい。いわば前天皇に関する公式史ですね。

で、半藤一利、御厨貴、磯田道史、保阪正康らが対談鼎談の形で、この出たばかりの「昭和天皇実録」について語る。今回の中身は昭和天皇の幼少期から開戦、終戦のあたりまで。

「実録」だからといって書かれたことをそのまま真っ正直に受け取るわけにはいかない。たぶん嘘は書いてないんだろうけど、問題は「書かれなかったこと」にある。あるいは「妙にページを使って」詳細を語っている部分。意図がある。

推測によると、非常に賢くセンスのいい書き手が、渾身の配慮の記述をしているもよう。嘘は書かない。でも真実も書かない。ただ他の多くの資料を参照し、行間を必死に読んでいくと、真実らしいものの断片が見えてくる。そういう性質のものらしいです。

ザーッと読み流しただけですが、天皇ってストレスの固まりだったんだなあ。母親には期待されず、弟からは突き上げられ、重臣も軍部もちっとも言うことを聞いてくれない

ただし「平和を祈念しながらも抵抗できず流されていって・・」という悲劇の人ともまた違う雰囲気。平和主義の天皇であり、同時に大日本帝国陸海軍の大元帥でもあり、そして皇祖皇宗の末の大神官としての立場もある。ややこしいんです、たぶん。

少なくとも「天皇になりたい・・」とは絶対に思わなくなる。


扶桑社 ★★★★
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アマゾンで購入。副題は「安倍政権が不信任に足る7つの理由」。税込みで745円です。

いそいで単行本化したため8月9日の初版には正誤表がついてるという話でしたが、1週間たたないうちにニ刷。修正されていました。けっこう売れているらしい。

手にとってみると、うーん、さすがに薄いですね。128ページじゃ仕方ないか。本というより、小冊子という言い方が正しい。380円くらいなら妥当という印象。でもそもそも「エダノ応援」と「シンゾー行状録・備忘録」として注文したような部分もあるし、文句いう気はなし。

中身は非常に優れています。民主主義や多数決の原理、議員内閣制とは何か。論理的かつ明快に説明しています。平易だけど格調がある。原稿なしの演説でそれができるのはすごいですね。

中3の社会か高校の公民あたりで副教材に使ったらぴったりというような本です。子供たちはぜひとも読んでほしい。そして保守の人にもぜひ読んでほしい。エダノという人は、ある意味では正統な保守です。

扶桑社によると、印税分は7月豪雨義援金として赤十字に寄付するそうです。それにしても、なんでフジサンケイ系列の「扶桑社」なんだろ。


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