副題は「真実のアーサー王の物語」
サトクリフという人、アーサー王あたりをよく書いている人らしい。ただこの「落日の剣」はファンタジーというより、一種の想像歴史小説のような雰囲気を持っている。
したがって白く輝く鎧も貴重な名剣も登場しない。最強の騎士軍団とか称しても、せいぜい数百騎程度。主人公もアーサーではなく、山賊の親分みたいな熊のアルトスだし、宮廷も質素でボロ屋。食い物もまずい。要するに西ローマ帝国が滅びたあと、海を越えて侵攻するサクソンや北の高地からのピクト反攻に苦しむ5~6世紀のブリテン島の実情を、かなり正確に描いたものらしい。
これまでなんとなく「アーサー王」ってのはサクソン人かと思っていた。ま、フィクションであるアーサー王の雰囲気は多分9世紀とか10世紀あたりからとってるんだろうから、それならサクソン人ふうであっても当然だわな。あ、史実としてのアーサー王のモデルはブリトン人(ケルト系)だそうです。
ちなみに時代がくだってノルマン王朝(プランタジネット)になってからの獅子心王リチャードの12世紀末が、スコット描く「アイバンホー」になるわけで、ここではもうサクソンが被征服民族になってしまっている。ロビン・フッドの活躍も一応この頃。子供のころに読んで、「ブタ」はサクソン語だけど「ブタ肉」はノルマン語、という説明が面白かった記憶がある。サクソンが育て、ノルマンは奪って食べるのね。
ま、けっこう、読める本でした。ただし血沸き肉踊るカタルシスはありません。神話的ではあるものの、ひたすらリアリスティック。悲惨で辛い内容です。