「ザ・テラー -- 極北の恐怖」 ダン・シモンズ

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★★★ ハヤカワ文庫
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ダン・シモンズの北極探検ものなので、楽しめるかなと借り出し。探検とはヴィクトリア朝初期のフランクリン探検隊です。大西洋側からカナダ北部を抜けて太平洋へ達する最短距離の「北西航路」を探すべく出発。氷の多島海で全員が消息不明になってしまった。

この北西航路通過を達成したのは南極探検でも有名なアムンゼン。フランクリン探検隊の半世紀以上後です。しかもアムンゼンの探検隊は乗員6人で船も50トン弱だったらしい。吃水もあさくて小回りがきくし、エスキモー式の防寒具も採用。このときに現地人から学んだ犬ぞりが後の南極探検にも生きたようです(悲劇のスコット探検隊は犬ではなく馬を主力に使った) 。

それにくらべると北西航路のフランクリン探検隊は59歳のロートル隊長をいただき、130人余りの乗組員が準備万端ととのえた2隻の堂々たる軍艦に搭乗。当時としては最新装備で豪華な缶詰やらレモンジュースやら満載してたんですが、役に立たなかった。

後日の検証では、持っていった膨大な量の缶詰(お役所感覚の海軍省が欲かいて、超安い業者から購入した)が実は粗悪品で腐っていたり、納入時期の制限もあって缶の封入がいいかげんで鉛中毒になったり、あるいは石炭の積載量計算が甘かったり。防寒具も重いばかりで実際的ではなかったようです。

というわけで、フランクリン探検隊は誰も生き残っていません。誰も生き残っていないんですから、ダン・シモンズが何を書いてもいいわけですわな。どんなことを書いても「嘘だあ」と非難される心配はない。

小説は上下巻、ひたすら極寒の中のお話です。いまみたいな寒い時期に読むと、北極圏の冬の厳しい冷たさと暗さがきわだって伝わってきます。で、船はあっさり氷にとじこめられてしまいます。マストにも船体にもどんどん雪がつもり、氷がかさなる。船員は着膨れてモゴモゴ動きながら作業し、腐りかけたビスケットと缶詰を食べ、凍傷になる。

しかもここにエスキモー神話が絡み、何やら超自然的なモノが襲ってくる。怖~いです。ひたすら怖くて寒くて、バッタバッタと人が死ぬお話でした。