「巨人たちの落日」ケン・フォレット

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★★★ ソフトバンク文庫

 kyojinrakujitsy.jpg2011年の刊行。新しい本です。文庫で3巻。

時代は第一次大戦。英国ウェールズの貧しい労働者の姉弟(姉はお屋敷でメイド奉公、弟は炭鉱夫)。そのお屋敷の当主である伯爵と、その妹。伯爵の友人であるドイツ人の若い貴族。ロシアの工場で働く労働者とその弟。ついでにアメリカ人の青年。これはウイルソン大統領の側近です。

ウェールズの姉娘は賢くてたくましい。美人でしっかり者です。
ウェールズの弟も賢くて勇敢です。けっこう口も達者です。
伯爵は美男子でお金持ちで傲慢です。限界はあるけど自分なりに誠実。
ドイツ人の貴族は美男子で誠実で賢くて一本気。
その妹は美人で気が強くてモダンな女権論者です
ロシアの兄貴は無骨で真面目で、もちろん逞しい。
ロシアの弟はイケメンで調子がよくて無責任ですぐ女に手を出す。
アメリカ人は不器用で賢くて理想主義者。

みーんな賢いですな。あはは。

例のパターンで、こうした群像たちが時代に翻弄されながら戦っていきます。もちろんケン・フォレットなので、男女の熱烈恋愛がけっこうな比重を占めます。

そうした男女関係はちょっと類型的だし浅い感じで物足りないんですが、その代わりややこしい第一次大戦前後の国家関係やら政府首脳の考え方などは詳細かつ分かりやすく描かれます。なるほど、だからサラエボの単なる暗殺事件がこんな大騒ぎになってしまった。

なんやかんや、悲惨な戦争が続きます。機関銃時代だというのに、当初はナポレオン戦争当時のように横隊をつくって攻撃したりしたんですね。もちろんバッタバッタ死んだ。203高地の白襷隊さながら、さんざん部下の兵隊を殺して、ようやく将官たちは少し学ぶことができた。軍人ってのは、たいてい頭が固いもんです。

結果的に攻めるには難く守るに易い状況が生まれて、西部戦線の塹壕は万里の長城のように延々と続いた。もちろん両軍のクリスマス交歓の挿話もあります。

誰も積極的に戦争なんてしたくなかった。でも戦争になった。戦争になったら最後までやるしかない。米国に多大な借款を負った連合国としては、ドイツから賠償金をとらないことには逃げ道がない。ある意味、最後の方は賠償金目当てというところもあったらしい。

ま、いろいろです。国際連盟は実質的に破綻したし、ロシア革命は独裁と粛清へ突き進んだし、ハイパーインフレのドイツのビアホールではヒトラーが一揆をおこす。ここには書かれていませんが、中東はアラビアのロレンスたちの活躍と陰謀で将来の火種がうんとこさ蒔かれた。

文庫本3冊、これだけでも凄いボリュームですが、なおかつ三部作の第一部だそうです。フォレットが長生きすれば、ものすごい大作が完成する予定。