「中曽根康弘が語る戦後日本外交」 中曽根康弘

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★★★ 新潮社

nakasoneyasu.jpg著者は「中曽根康弘」です。構成としては複数の政治学者(かな)が「中曽根先生」にインタビューして、そのやり取りを記述というものですが、もちんろ本人(あるいは側近)がしっかりチェックしたものなのでしょう。したがって著者と名乗っても問題ない。

旧制中学・高等学校時代の回想から始まり、高文8位の優秀成績で内務省へ。そして海軍。戦後はまた内務省に復帰。

中曽根といえば売り物が「海軍主計中尉」の経歴です。てっきり中尉で退役した人かと思ってましたが、当時の特例でエリートが軍に入るといきなり中尉にしてもらえたらしい。なるほど。またどれだけ実戦経験があるのかなあと不審でもありましたが、一応はあったんですね。艦船に乗ってドンパチも経験している。ただし多くは陸上勤務です。いわゆる内政畑。敗戦の頃は少佐だった。

ということで、内務省をやめて政治家を志して、いわゆる「青年将校」として派手に動き出す。最初から吉田茂のやり方には反対だったみたいです。

で、いろいろあれこれ。自分がどう外交を考えていて、どう対処したか、非常に記憶力がいいみたいですが、ところどころ「忘れた」「覚えてない」「それは違うと思う」という部分もある。本当にそうなのか、かなり怪しい気がしますが。ま、仕方ないか。

言動内容の印象は、意外にバリバリの右翼政治家でもない。強いていえば中道右派くらいでしょうか。あるいは時代によっては中道左派ともいえる。要するに自分なりの政治理想を持ったリアリスト。

たとえば核搭載の米艦船が日本に寄港したかどうかと。これは「トランジット」という解釈でした。タテマエはともかくそりゃトランジットくらいはあるだろうという現実的な言い分です。「密約」ぐらいはあっただろうさ。

核兵器に関してもそうですね。現実として核兵器を持つのは難しいし、あえて持つ必要はない。しかし「日本にはいつでも核兵器を持つ力があるぞ」と誇示することは外向的に非常に有効だろう。そのほうが得です。

ま、あっちこっちで韜晦してるし我田引水部分も多いですが、なかなか面白いインタビュー本でした。この人、まったく外務省の役人を信用してないんだなあ。

そうそう。石油危機の際の「日の丸原油」。これを断行したときに、初めて国際石油メジャーの真の力を知ったんだそうです。メジャー=米国そのもの。それに絡んで、田中角栄はメジャーの逆鱗に触れたんじゃないか・・と(ごくあいまいにですが)示唆しています。こうした陰謀説があることは知ってましたが、まさか中曽根までが言うとは。信憑性、あったんですかねえ。