「現代中国の父 鄧小平」エズラ・F・ヴォーゲル

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★★★ 日本経済新聞出版社

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著者は大昔のベストセラー「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いた人らしい。なんせ読んでないので詳しくは知りません。

で、ヴォーゲルが退職して暇になってから調べだしたのが鄧小平です。良くも悪しくも現代中国の方向を決めてしまった政治家ですね。ちょっとレベルは違うものの、日本の吉田茂とか田中角栄にも似ている。

鄧小平。要するに毛沢東の有能忠実な部下。一時期は不遇だったが、毛沢東の復権と共に返り咲きして権力中枢へ駆け上がる。しかし毛沢東の意向に逆らうことも多く、だんだん機嫌をそこねることが増える。

走資派として文化大革命でも攻撃の対象となったけど、依然として「使える奴ではある」という毛沢東の評価はあったらしい。なんとか殺されずに生き延びる。周恩来のヒキもあり、やがて復権。

しかし頼みの周恩来の死後は、第一次天安門事件(周恩来追悼)の責任を問われてまたまた失脚。今度は江青一派に叩き落とされた。尽くしたはずの毛沢東は知らん顔。

そして毛沢東の死後、四人組が逮捕されてから再々度の復権を果たして、以後は第一人者として社会主義下の市場経済を導入。いろいろ批判はあるものの中国を経済的に豊かな国家に導いた・・・。。

べらぼうに厚い上下巻です。知ってることも多いですが、こうして通読するとやはり感慨がありますね。中国の政治ってのはひたすら権謀術数。大きく右派・左派という流れはあるものの、鍵となるのは首脳部の人間関係。根回しをどうするか、どう流れを作るか。指弾されないためにはどう保身をはかるか

絶対権力者の下で生き残り、自分の考えを少しずつ通し、最終的に権力を握るってのはものすごい能力が必要なんだと実感します。高く評価して育てたはずなのに、政治的に必要とあれば胡耀邦趙紫陽も情け容赦なく潰す。14億(だったか)の中国が豊かになることは必要だが、あくまで国家が第一。党あっての中国。趣旨が一貫していたんでしょうね。だからロシアやルーマニアの轍を踏まずにすんだ

大昔、機会があって(遠くからですが)趙紫陽を見たことがあります。たまたま見ただけなんですが、それだけでちょっと親近感がある。政治家が選挙でひたすら握手戦術をとるのは理解できますね。一回握手しただけで、かなりの好感を得られる。そうそう、ほんの数時間ですが(近い空間で)田中角栄の近くにいたこともあります。良い悪いは別として非常に魅力のある人でした。

そういうわけで第二次天安門事件の後、趙紫陽の左遷・軟禁ニュースは個人的に失望でした。これで民主化の流れは途絶えたのか・・・。ただ、あのときの鄧小平の冷徹な決断が中国という一党独裁国家にとって正しかったか間違っていたか、それは永遠にわからない。

ぼんやり考えたのは、この本は莫言の「転生夢現」とか「蛙鳴」あたりと平行して読むべきだということでしょうか。「現代中国の父 鄧小平」は党政府中央部の政争や生き残りを描いたいわばマクロのお話です。そうした雲の上の中央の動きが地方の末端まで少しずつ波紋をひろげたときに「転生夢現」とか「蛙鳴」の世界になる。

党中央のナントカ局長が「集団農業の見直しには理がある」とかいう論文を発表すると、そのうち山東省高密県東北郷の村役場の陳さんが外国タバコを自慢げに吸い始める。「適正な人口政策展開を学習しよう」とか誰か高官が新聞に書くとと、そのうち真面目な田舎の女医さんが懸命に二人目の胎児を堕胎し始める。子供のいる父親を脅してパイプカットして回る。

ま、そうやって中国はエネルギッシュかつユラユラ揺れながら歩み続けてきた。そして沿岸地域を先頭に欲と野心と欲求不満にあふれた豊かな大混乱の時期を迎えている。ようするに国土が広すぎる、人口が多すぎる、それが最大問題。そんな気もしてきます。今まではうまくやっきてたと党政府は自負しているようですが、あふれる14億人。コントロールするにはちょっと多すぎます。