「ねずみに支配された島」 ウィリアム・ソウルゼンバーグ

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★★★ 文藝春秋

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著者は違いますが「ウルフ・ウォーズ」と同じ系列です。太平洋の島々で固有生物がどんどん絶滅していく・・というお話。

孤島は周囲と隔絶された環境です。そのため固有種がはびこる。特に鳥類はこうした狭い島々にやたら固有の種類が多いらしい。で、人間がカヌーやら帆船でやってくると、ヒツジやらブタやらイヌやらネコやらイタチやらがいっしょに上陸して、あっというまに繁殖する。で、のんびり暮らしていた固有種はほとんど無抵抗で絶滅する

北の海の岸壁に営巣していた鳥なんかには、そもそも「害敵」という概念がない。じーっと座っているとネズミに噛みつかれるんだけど、だから逃げようという本能が働かない。居ながらにして食われてしまう。

アリューシャンの場合、まず最初はキツネだそうです。毛皮をとるために繁殖させられた。そのうち採算があわなくて放置されると、連中は狭い島の中でどんどん増え続け、片っ端から鳥を襲い、増えすぎてみんな腹を減らしている。リサーチのために人間が上陸しても、まったく怖がらず襲いかかってくるんだそうです。大きな獲物が来た!という感覚なんでしょう。そりゃ恐いけど飢えには勝てない。

しかし最悪なのはネズミです。そもそも最初のラピタ人がカヌーで植民してきた段階で、ブタや犬と同時に意図的に小さなネズミを放したらしい。いざという時の食料という説もあるようですが、本当かどうか。ま、あっというまにはびこった。さらにキャプテンクックの探検やらその後の進出で、もっと大きなクマネズミやドブネズミも上陸。たちまち島中を駆けめぐる。

たしかカカポといいう大きなオームがいるらしいです。ニワトリくらいのサイズで、まったく飛べない。地面でのんびり暮らしていたら、あっというまにネズミに襲われる。近づけない断崖とか孤島とかに避難していたコロニーも、そのうち冒険的なネズミの襲来(海をわたったりする)でほぼ絶滅。

で、どうするか。最終的にはキツネを殺し、野生ブタを皆殺しにし、島中のネズミを毒殺するしかない。毒餌をヘリで蒔いて、一匹残らず殺す。つがいが一組残っても失敗です。

なかなか動かないお役所をせきたて、資金を集め、ネズミを殺しまくる。もちろん「殺される動物が可哀相だ」という声もあがります。固有種の鳥がはびこるのはいいけど、ブタやネズミがはびこるのはいかんのか。考えてみると身勝手かもしれない。おまけに遅効性の毒餌(すぐ死ぬと他のネズミが警戒する)で殺したネズミを他の鳥が食べて死んだりもする。アリューシャンでは国鳥の白頭ワシが数十羽も死んでしまって、かなり慌てたらしい。世論が恐い。

ま、そういう固有種の保護活動のストーリーです。なるほど、とも思いますが、なんか割りきれない感じも残る。そもそもの元凶である人間が「お前は生き残れ。お前は死ね」と神の視点で裁断することに正当性があるのかどうか。

500年前の状態に戻すことが本当に正しいのか。なぜ2000年前ではいけないのか。5000年前では? のんびり暮らしているように見えるカカポだって、何千年か前には他の固有種を追いやって繁栄したのかもしれない。そういうカレンダーを巻き戻すことに意味はあるのか。いちばん正しそうなのは人間がみんな撤退することですが、現実には無理です。

真面目に考えると頭がワヤになりますね。