「明日の記憶」荻原浩

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★★★ 光文社
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この前、直木賞をとったので図書館の本棚はカラッポかなと思ってましたが、未読本が残っていました。「明日の記憶」。表紙を見ると渡辺謙主演でドラマになってたようですね。奥さん役は誰なんだろ。

えーと、要するに若年性アルツハイマーのお話です。いきなり記憶の糸がプツンと切れてくる。プツンともいわないでも、最近の記憶が消えてしまう。主人公は広告代理店の管理職。PCやITが苦手で困ったもんだと思っている世代でしょうか。娘がもうすぐ結婚します。

周囲には、特に悪人もいないし、善人もいない。ま、ふつうの会社、普通の家庭。たいした趣味はないけど下手な陶芸なんかやってて、奥さんを海外旅行に連れて行く約束がいつになっても果たせない。内心、悪いなあと考えている。ありがちな話。で、まだ50歳過ぎたばっかりなのに、いきなり発病。

どんどん病状が進行します。必死になって、あらゆることをメモする。それでも忘れる。取引先からクレームがくる。恥をさらす。部下も疑いの目を向け始める。上司にチクった部下がいたらしく、閑職にまわされ、仕方ない、正月すぎたらいさぎよく辞職するか。先を考えてデイケアセンターを探したりもする。

そういう暗い話なんですが、なんせ荻原浩だから、ところどころニヤリとさせられます。最後は奥多摩だか秩父だかの山奥へ入って、これも仙人みたいな痴呆気味の陶芸職人の家に一晩泊まる。帰りの爽やかな山道、若い女性に出会う。彼女の名乗った名は実は奥さんと同じ。でも、彼にはそん記憶ももうありません。現実なのか、幻なのか。

それだけ・・・です。たぶんこれから症状はいっそう進行し、やがて亡くなるんでしょう。ま、それも仕方ないじゃないか。重いテーマですが、読後感は悪くないです。