「黄禍」王力雄

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★★★ 集広舎
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中国人作家の近未来小説です。SFというにはちょっと違うような。

発表されたのは1990年代初期らしい。もちろん発禁本。時代なので、設定がちょっと古いかな。たぶん台湾ではまだ民進党政権が誕生する前だった。

ある日、中国共産党総書記が凶弾に倒れます。そして軍の一部と党中央が対立し、あいまいな形で一種のクーデタが成立する。当然のことながら、広大な中国は分裂して、地方政権が次々とできあがる。周辺部は独立を画す

小説としては、ま、二流でしょうね。暗殺者が跳梁し血が流れ、美女が迫る。まるで「小説というのはこうでないといけない」という固定観念を持っているかのようです。しかし小説として二流であっても、中国の意思決定構造がどうなっているのか、地方と北京はどういう関係なのか。人民の意識や周辺国との関係は? そのへんの内情が実は面白い。

ひとくちに「中国13億」といいいますが、それがどんな意味をもつのか。後半、混乱に乗じようとした台湾を叩くため、北京は核ミサイル攻撃を決意する。それがキッカケで中国は米ロの同時制圧攻撃を受け、政権は崩壊。内乱。政権崩壊ということは、全土のシステムがなくなるということです。人体にたとえれば神経系統が消え、動脈が止まり、結果的に食料生産・流通システムが崩壊する。

13億人が飢えたらどうなるんでしょう。


中国全土で原始的手段でなんとか細々と養えるのはせいぜい3億人だそうです。残りの10億人は死んでもらうか、でなければ国外へ追いやるしかない。10億人が脱出しようとしたら、どんな事態になるのやら。そのへんをリアルかつ悲惨に描いたのがこの小説の後半のテーマです。

脱出の先は、広大な国土があるところ。具体的にはシベリア、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカとカナダです。日本や韓国は狭すぎて考慮外。

入れまいとして地雷で警備する某国の国境に押し寄せるのは数千万人の難民暴徒です。万の単位なら銃や砲撃で対処できる。しかし数千万の侵入を防ぐことは物理的に不可能です。針ネズミのようにガチガチに設置された地雷地帯に、死を覚悟した老人たちが数百人ずつ行進してくる。もちろん吹っ飛びます。その次にまた数百人が行進してくる。残っていた地雷が爆発します。しかし、また数百人が行進してくる。こうして国境に回廊が切り開かれ、その後を数百万の飢えた難民が押し寄せてくる。

まるでレミングですね。オオカミやライオンもレミングの行進を止めることはできない。1億人が押し寄せて、たとえ2000万人が殺されても残りはまだ8000万いる。昔の毛沢東がそんな主旨のことを言っていましたね。仮に中国がミサイル攻撃をうけてン億人が死んでもまだン億の人民が残る。決して滅びることはない。短波ラジオの北京放送で聞いた記憶がある。何億だったか明確な数字は覚えていません。

どこかのサイトで読みましたが歴史的には、中国前漢の末期は6千万くらいの人口だったらしい。ところが後漢光武帝の頃で2千万。3分の1に減少。中国の悠久の歴史の中ではこの程度は珍しくもない。いま、13億が3億になってもまったく不思議なし。

ま、これが「黄禍」です。

ちなみに島国である日本は上手にたちまわって、戦前の黒龍会みたいな組織が主導して旧満州付近を自国のものにしてしまっています。日本にとって国土拡充は悲願だそうで、日本ってそういうイメージなんでしょうかね。