「モンテ=クリスト伯」アレクサンドル・デュマ

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★★★ 講談社文庫

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何回目かな。最近は通して読んだ記憶がないのでけっこう間があいたのかもしれないです。全5冊。

この文庫は新庄嘉章訳。高校の頃に読んだのはたぶん山内義雄訳でしょう。新庄訳はかなりこなれています。実を言うと初めて読んだのはたぶん小学6年か中学1年か、家の袋戸棚から引っ張りだした黒岩涙香訳。訳というか翻案というか、要するに「岩窟王」です。読めない漢字ばっかりでしたが、ルビがついていたのでなんとかなった。ただしナポレオンの「奈翁」はずーっと「なおれん」と勘違いしていた。ルビが小さかったのかな。

ふと思い出しましたが、たしか「後の岩窟王」という続編もあった。悪の権化ダングラールがしぶとく復活して、落ちぶれたダングラール夫人がなぜかメルセデスに嫉妬して(自分だけ上品ぶってて嫌いよ、殺してやる!)、アルベールはアルジェリアで拳銃片手に大活劇。子供心にもひどい筋だなあと思いました。確信はありませんが、たぶんこれも黒岩涙香でしょう。涙香、達者な人ですがさすがに作家としては二流だった。

おそらく10回以上は読んでいるので話の展開はだいたい覚えていますが、意外だったのは最後のダングラール監禁絶食イベント、好きだった部分ですが思ったより枚数が少ない。もっとじっくり描かれていると思った。

そうそう。細かいことですがやはり最後の最後、モンテクリスト島に上陸する傷心のマクシミリアンが、周囲の静止もきかず舟から波打ち際に飛び下りる。腰まで濡れた。こりゃ大変、着替えなくちゃとか伯爵が言ったものの、その後に履き替えた様子はない。濡れたままでソファに腰掛けて毒を飲んだことになります。デュマがコロッと忘れたんでしょう。デュマという人、細かいことはかなりいい加減です。

今回、初めてフェルナン裏切りのキーワード「ジャニナ」を調べました。ギリシャのどこかだろうとは分かりますが、いったいどのへんか見当もつかなかった。えーと、現代では「ヨアニナ」とか「イオアニナ」とか称する場所らしいです。ギリシャ北西部、アルバニアに近くて、ちゃんと湖もある。で、エデの父親のアリ・パシャ(アリ・テブラン)も実在の王で、ギリシャ北西部からアルバニアのあたりに勢力をもっていた。

詳細はわかりませんが、たぶんオスマントルコの支配下だったのに、だんだん独立の気配を見せてきた。で、トルコが我慢の限界になってアリ・パシャを暗殺。ギリシャ独立戦争の経緯の中ではけっこうおおきな出来事だったようです。そもそもアリ・パシャはアルバニア人領主だったという話もありますが、そうすると「ギリシャの姫エデ」もアルバニア王女になってしまう。ちょっと雰囲気が違いますね。(エデのスペルを調べたら、最初に発音しないHが付き、アルプス少女のハイジと同じ系統でした。王女ハイジ)

ちなみにこのギリシャ独立戦争とか第一次大戦のあたり、逆にトルコ側から見るとまた面白い。以前、やたら分厚いケマル・パシャの伝記(トルコ人作家の書いたもの)を読んだことがあり、こっち側からするとギリシャってのは困った連中扱いです。弱いくせにやたら反抗する。もちろん西欧視点では「気高い民族がオスマンの圧政に抵抗」というストーリーになります。ま、いろいろ。

数年前「モンテクリスト伯の資産」というエントリーをアップしたことがありますが、今回読み通してもお金の価値があいまいですね。やけに多いこともあるし、少ないこともある。しがない腕木通信の信号手の給料が確か1000フラン。もし1フラン=1000円なら1000フランは100万円。小さな住まい付きとはいえ100万円は少し安すぎる。

で、伯爵が買収に使った額がたしか2万5000フラン、そのうち5000フランで土地付きの家を買い、残りの2万フランで年1000フランの金利と提案しています。つまり1フラン1000円なら、土地と家が500万円、2000万円を預金して金利が年100万円。

庶民の暮しのレベルと、貴族たちが奢侈品に使うものの価格はまったく別物と考えたほうがいいのかもしれません(ダングラールが最後に残してもらったのは5万フラン。5000万円です)。こうした物価の推測、非常に難しいです。

(よく江戸時代の物価例としてソバが十六文とかいいますが、当時の外食はそこそこの贅沢だったかもしれない。現代の立ち食いソバ300円から類推すると大きく食い違ってしまう可能性がある。難しいです)