「漂流」吉村昭

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新潮文庫★★★
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ときどき見ているブログの人が感想を書いていた。へぇー。これ、未読だなあ。

たまたま駅前で時間が余っていた折りに思い出して、本屋さんへ。吉村というとやはり文春ですかね。棚には5~6冊あったけど発見できず、隣の棚の講談社でもなく・・・はい、新潮文庫でした。なるほど。

江戸時代の難破ものですから、スラスラ読めます。とくに吉村昭は感情を出さない淡白な書き方なので、あまり抵抗がない。スーッと読み進める。

沖乗り船ではない小さな土佐の和船が、急な嵐にあって漂流。大きな木製のカジが壊れてしまうと和船はどうにもなりません。風で倒れそうになるので゛次は帆柱を切る。ここまでやったら船は丸坊主です。流されるだけ。自由はいっさいきかない。

こうしてたどりついたのが小笠原の鳥島。火山島、孤島です。水がない。緑もない。ただアホウドリが大量住み着いています。連中、食べ物は魚なんで、羽根をやすめる陸地があればそれで十分。葉っぱを食べるわけでもないし。

で、遭難者たちはアホなアホウドリを毎日殴り殺して食べる。雨水をタマゴの殻にためて飲む。洞窟をさがして住む。仲間が次々に死んで孤独になったころ、また違う難破船が漂着する。生活のノウハウを教えてあげる。逆に違う智恵を得る。そうやって、たしか13年経過した。

すごいですね。アホウドリの肉だけ(それも最初の数年は火をおこせず、生肉)。ときどき海草とか貝とか。それだけで生きていく。鳥の羽根を綴ってマントにする。

だんだん体が鳥臭くなる。アホなアホウドリも、少しずつ警戒して逃げたりしはじめる。アホウドリが北に渡ってしまった数カ月は、保存用の乾燥肉だけでしのぐ。辛いなあ。

ま、最終的には本国に帰るんですが(だから資料が残って、本を書けた)、こうした過酷な話を坦々と書くのは吉村昭の特徴でしょうね。最終的に郷里の土佐へ戻った主人公は「無人島」と呼ばれたそうです。墓にも「無人島野村長平」と彫られた。

井伏鱒二も同じ題材で小説を書いているようですが、10ページ程度で終わったらしい。たぶん、力尽きた。資料が少なすぎたのかな。