「動物になって生きてみた」チャールズ・フォスター

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:
河出書房新社★★★
doubutuninatteiki.jpg
一応は学問も知識もある英国人が、英国人らしいコダワリで「動物」になってみた。

「動物になる」というのは、四つんばいになって生肉を食べるということではない。もちろんレタスで1週間ともちがう。彼がなろうと思ったのはアナグマ、キツネ、カワウソ、アカシカ、アマツバメ

大昔「動物感覚」という本を読みましたが、その著者は自閉症患者でもあり「だから動物の心がよくわかる」んだそうです。で、長じては人間と動物の間の通訳になった。アドバイザー。食肉処理システムなんかには重宝するそうです。できるだけ気分よく屠殺場に行ってくれないと品質が落ちる。

そのためにどうするかというと、たとえばブタになるには、ブタと同じ目の高さで、四つんばいで同じ通路をたどって処理場へ歩く。途中にキラキラ光る金属なんかがあると、なんか心が落ち着かない。これだ。「あの金具はとってください」と雇い主に進言する。

同じようなことをもっともっと深くしたのがこの本の著者ですね。アナグマになるためには山の中に横穴を掘って、裸でずーっと寝て暮らす。2日や3日ではないです。ずーっと。たぶん1週間以上。穴の天井からミミズがぼたっと落ちると口にする。かなり逡巡はするけど、でも、やる。ただし時折は近所の猟師に頼んでハンバガーかピザを差し入れしてもらう。

夜、嗅覚を頼りに付近をはい回る。人間にとっての視力が、アナグマの嗅覚。嗅覚の世界を必死になって創設する。こまかな粒子をかぎ分ける。

都会のキツネになるにはロンドンの公園の藪の中にひそむ。何日もずーっとひそむ。ガガンボが大量発生すると、隣のキツネにならってペロペロと食べる。高く跳躍してネズミを襲う。もちろん失敗するけど。職務質問されそうになると、コソコソ逃げる。

そういう本です。読んで面白いとか楽しい本ではない。不思議で迫力があって詩的で、気分の悪い本てす。イグ・ノーベル生物学賞受賞