2021年に読んだ本

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不作でした。★★★★はたったの4冊。

というか、振り返ってみると読んだ本がぜんぶで41冊です。こりゃ、無理だ。目が悪くなったせいもあって、根気が続かない。読んでいると目がパシパし出して、腰が痛くて、嫌気がさして、だんだん眠くなる。10分ほど目をつむっていると回復するんですが、典型的なトシヨリ症候群ですね。

図書館から借り出したものの読みきれないというパターンも多いです。1週間の延長かけて、それでもまだ読めなくて渋々返却する。困ったもんです。


「一笑両断 まんがで斬る政治」佐藤正明

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そういうわけで、ササッと読めて楽しかったのがこの佐藤正明の政治マンガ。なんせ中日新聞(東京新聞)の連載なんで、知りようがない。それが大きなマンカ賞をとって、ようく全日本レベルで知れ渡った。

本人に言わせると、これは風刺漫画ではないそうです。たまたま政治に題材をとったマンガ。政治まんが。たしかにアベに対してもトランプに対しても、ちょっと視線がなま温かいです。ン? 違うかな。


「背教者ユリアヌス」辻邦生

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再々々読か再々々々読か。楽しめるのはわかってるんで、ニコニコしながらページを繰りました。何回読んでも、まだ未読感のある部分が残っています。辻さんの文章は端正ですが、それでもいつも飛ばし読みしているからですかね

ストーリーはキリスト教がローマ帝国で影響力を日に日に増し、ほとんど国教になりかかる頃。コンスタンティヌス大帝()の甥である詩人肌の青年が死の不安におびえ、おどおどしながら成長し、やがて副帝(カイザル)に取り立てられる。しかし意外なことに軍事面の才能があって、荒れるガリアを統治安定させてしまう。

ただこの人、かたくなな新興キリスト教にあんまり馴染まないんですね。昔ながらの神々のほうが好き。で、危機感をもった教会勢力は副帝の追落としをはかる。ハラハラドキドキ・・・。しかし意外ななりゆきで、ガリアで蜂起、反乱。進軍して全ローマの皇帝(アウグストゥス)に。

要するにこの皇帝ユリアヌスは、教会勢力からするととんでもない男だったわけです。異教徒の味方。それで後世の人々からは「背教者」と呼ばれます。クソミソ。

キリスト教を保護したので「大帝」です。


「お言葉ですが... 」高島俊男

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高島さん、4月になくなりました。もう少し長く書いてほしかった。

中国文学者というか漢字研究家というか。もちろん会ったことはないですが、わがままな人だったんでしょうね。世間的な欲望は薄いけど、我慢できないことはできない。塩鮭と少しのご飯の食事に満足しながら、やせた体で世の中の権威という権威とぶつかっては戦う。

このシリーズ、毎回すばらしいウンチクだらけなんですが、今回の本で記憶に残ったのは「婚」の由来。右側の旁の「氏」は本来は「民」だったそうですが、いまでも昏(くら)い、昏冥とかいいますね。要するに「ほの暗い」という意味。で、それに「女」偏をつけると、「暗くなってから女をかっさらってくる」という意になるんだそうです。なるほど、と感嘆しました。乱暴な大昔はそんなふうだったのか。

その乱暴なのを少しとりつくろい、儀礼的にしたのが現代の「結婚」ですね。このへんの推移には孔子あたりが絡んでいるかもしれません。ものごとの表面についた(内容に無関係な)飾り、ピラピラのことを「文」という。つまり実質的なものをきれいに包んで儀礼化するのが「文化」なんだそうです。ゆえに「結婚」は文化。


「漱石漫談」いとうせいこう 奥泉光

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意外や意外で,楽しかったです。

要するに漱石ファンの対談です。漱石の作品をひとつひとつ取り上げて朗読したり、あーだこーだと論じる。言いたい放題をいう。観客を集めて舞台でやったというのがすごいです。わざわざ聞きにいく人がいるんだ。

で、知ったのは自分がいかに漱石を読んでいなかったか。また読んだものが初期のものなのか晩年の作なのかもまったく無知だった。それを知らなきゃいけない理由もないんですけど。

で、同感したのは漱石作品のヘンテコリンな特徴です。文章とか描写とかはすばらしい(当然です)けど、ストーリーは非常に不自然。典型的なのは「心」ですか。なんで先生が悩むのか、なんで死ぬのか、そもそも奥さんに対しての責任はどうなるのか。本人だけが勝手に「死なねばならぬ」と決め込んでいる。かなり変なんです。日本の役人連中はわざわざそんな本を課題図書かなんかにしてしまう。死ぬほどセンスが悪い。

読んだことないけど「門」というのは、主人公が勝手に悩んで禅の修行にいくんだそうですね。「門」は禅寺の門か。で、その参禅はややこしい事態解決に何の意味があったのか、とか。そうか、そんな内容の話だったのか。

「連合艦隊・戦艦12隻を探偵する」半藤一利 秦郁彦 戸髙一成

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なんというか、オタクが集まって軍艦話。けっこう楽しそうです。12隻とは金剛、比叡、榛名、霧島、山城、扶桑、伊勢、日向、長門、陸奥、大和、武蔵。(このうち4艦ぐらいは聞いたこともなかったです)

で、それぞれの戦艦のたどった運命を語ってるんですが、うーん、どれもこれも、一部をのぞいて不本意な生涯ですね。巨費を費やして建造されたのに能力を生かすことなく、結局は無駄に沈む。

このオタクたちにとっては、たとえばレイテ湾謎Uターンの栗田提督の行動も決して不思議ではない。「そういう人だから」と了解している雰囲気。常識なんですかね。ミッドウェーの南雲提督についてもそもそも山本長官と肌があわない人だったとか。艦隊派と航空機派、まったく考えが違う。(ついでに言えば艦隊派はどうしても艦隊温存を考えるんじゃないだろうか。戦艦はただ存在するだけで力を持つ)

このへん、3人は山本五十六に対してもいろいろ言いたいことがあるようでした。要するに、海軍の実態は(いまの政府、官僚と同じで)かなり硬直、機能不全だったということでしょうね。


「天皇と軍隊の近代史」加藤陽子

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加藤陽子というのは、例の学術会議騒ぎで忌避された人の一人です。なんでですかね。そんなに嫌われるような人ではないと思うんですが。官邸の連中、まじめに著作を読んでなんかいない、たぶん。

いわゆる「軍靴の足音」とか「横暴な陸軍、軟弱な政府」という画一的な思考では違ってくるよ・・と教えてくれます。現実はもっと複雑であり、微妙です。

面白かったのは、たとえば満州・北支とズルズル侵攻。事変と称して宣戦なしで本格化。軍部が汚いということになっていますが、実は事情があった。細かいことは省きますすが、要するにまともに「宣戦」すると、各国から制裁を受ける可能性があった。これは米国が勝手に変更した「中立法」によります。改定中立法では、中立国が完全中立であり続ける必要はなく、「悪」の国にたいしては制裁を加えることができる。つまり日本が戦争開始すると、米国が制裁発動。実はこれが怖くて、ずーっと「事変」で通した。なるほど。

そうそう。敗戦の後、はしっこい兵士たちは軍物資をトラックで勝手に持ち出した。皇軍の腐敗というニュアンスで語られますが、あれも実は軍上層部の指示があったんだとか。進駐軍に押収されるよりは自主的に配布して国土再建に役立たせるという理屈。これも、なるほど・・でした。いろいろ、あるんですね。


「ラマレラ 最後のクジラの民」ダグ・ボック・クラーク

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ここからは★★★。なんかテレビで見たこともあるようですが、ラマレラというのはインドネシアの東部レンバタ島の村です。レンバタそのものが辺鄙なんですが、唯一の町から山越えでたどりつく島の反対側のラマレラは輪をかけて貧乏で、村人は長い手銛でマンタやクジラを突いて生きている。とくにクジラですね。総出で(先祖の霊に守られた)粗末な舟にのってクジラをとる。

手銛といっても、追っかけるボロ舟の舳先に立った銛打ちが、タイミングをはかってヒラリとジャンプ。その勢いで物干し竿みたいな長い銛を海面のクジラに突き刺す。突き刺したら手を離してそのまま海にドボンと落ちる。とったマンタの肉を食べたり、クジラなんかだと盛大に肉を干して売る。売ったお金で小麦粉とか芋とか野菜を買う。だからとりわけ大事なのはクジラですね。一頭クジラがとれれば村中がしばらくうるおう。数頭とれればお祭りだ。

ただこうした村にも文明開化は訪れます。電気もほしい。若者はスマホでテキストメールも使いたい。伝統的な木製の舟だけでなく、船外機もほしくなる。マグロは自分たちで食べるなんて論外で、上手に売るとすごいらしい。ニホン人が信じられないような値で買うそうだ。情報化です。

若者が都会に出る。夢やぶれて帰ってくる。伝統が失われる。シャーマンが怒って「山羊の呪い」をかける。教会の神父たちの権威もだんだん落ちてくる。そうそう。村人たちはたいていフランシスとかマリアとか、フランスふうの名前です。かつては仏領インドネシナ。

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「女剣士」坂口安吾

3冊本で出ていた安吾ものの一冊。

うーん、なんというか、要するに講談ですね。「桜の森の満開の下」とか「夜長姫と耳男」とか、代表作もおさめられています。久しぶり読んだ安吾ですが、やはり良いです。
「女剣士」は初読。ちっとも色っぽくないマッチョ女が山奥で爺さんと修行の日々です。なにがなんだか。


「三国志きらめく群像」高島俊男

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高島さんの代表作の一つ・・・らしい。ようするに講談本の三国志演技ではなく、正史の三国志の話です。

こっちのほうでは、悪人のはずの曹操も魅力的だし、劉備はだらしない。関羽は傲慢。例の赤壁だって、ほんとうはどこにあるのか。いまだに戦いの場所の特定はできていならしいですね。凡庸ということになってる荊州の劉表は、実はかなり優秀だったというし。

ま、そういう本です。三国志好きのための入門書ですが、けっこう意外なことが多く、楽しく読めました。