戦後35年の戦争映画

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BSで「動乱」という映画をみました。たまたま、です。高倉健と吉永小百合の初共演。1980年。堂々150分。

うーん。困った映画ですね。吉永小百合は山陰芸者のドラマ()の少し前なのかな。あんまり映画で見たことのない年齢です。もちろん若くもないし、じっとり落ち着く年齢でもまだない。

で、高倉健はもちろん高倉健なんで、ただかっこうよく立っている。ストーリーがまったく意味不明です。

健さんは仙台の連隊の大尉(中隊長だったか)で、みんなに慕われている。で、部下の二等兵が脱走。なぜ脱走したのかがまずわかりません。なんか田舎の姉(吉永小百合)が身売りさせられるとかなんとか聞いて、矢も楯もたまらなくなった・・・んですかね。でも、脱走してどうする気だったんだろ。

で、捜索隊が派遣される。軍曹かなんかが責任者なのは納得ですが、なぜか大尉殿までが同行して脱走兵の田舎に出向く。うーん。中隊長ってけっこう偉いんで、ふつう現場には行かないと思うんですが、責任を感じたのかな。で、その田舎で吉永小百合に会う。

douran.jpgいろいろ変なんです。軍曹は脱走兵に自決を迫る。ま、生きていられると大変に迷惑なんで、死んでもらうのがいちばん簡単。拳銃を手渡す。すると周囲の兵たちが「軍曹殿、許してやってください!」とか叫ぶですね。びっくりした。おまけに脱走兵は拳銃を手にもみあって軍曹殿を射殺してしまう。うーん。

高倉健はたぶん責任とらされて朝鮮へ。現地で敵兵とドンパチやったりする。昭和初期、そんな紛争地があったのかなぁ。ま、日本軍が武器弾薬なんかをゲリラに横流ししていたとか、軍の腐敗ぶりのエピソード。

で、夜は芸者姿の吉永小百合と再開。ただこれが芸者なのか従軍慰安婦なのかどうもアイマイです。夜、布団ひいた狭い部屋に銚子ならべて飲んだりしてるんだから、ま、いちおうは芸者のハシクレなんでしょうね。たんなる慰安婦ではない。

しかし何もしないで(高倉健だから)寡黙に去った後、残された吉永小百合のところに軍服姿の酔っぱらいが乱入して襲いかかったのをみると、これはきちんとした待合や芸者屋ではないですね。芸者にしろ慰安婦にしろ、管理している業者がいるはずなんで無法地帯とは違う。どうも不思議。

もうひとつ根本的な疑問。外地とはいえ大尉クラスが女遊びをする際、軍服姿で泊まったりしたんだろうか。陸軍海軍の違いもあるのか、うーん。これと関係しますが、この映画、そもそも下士官と将校の違いがわからないです。態度や雰囲気だけではまったく差が感じられない。(初年兵だけはさすがにわかる)

で、インターミッションのあと、東京へ。たぶん歩兵第一連隊に勤務。なぜか家には吉永小百合がいます。結婚したのかな・・と思うと、それが違う。きよらかな(というのも変な表現ですが)関係。なぜですかね。「汚れてるからですか!」と吉永小百合が泣きます。このへん、情緒的なシーンはきれいです。鳥取の砂丘とか浜辺とか。ただ、なんせ高倉健なんで、何んも言わない。ボソっと言うのに10秒はかかるし。おまけに何言ってるのかきこえないし。

どうも統制派と皇道派。悪いのはすべて統制派の連中らしいです。実に単純。「暴発するんならしてみろ。いい機会だ。たたきつぶしてやる!」とか、たぶん参謀本部の中将クラスが豪語している。統制派。佐藤慶です。ワルだなあ

で、なぜか高倉健は軍務局長殺害の決意をする。永田鉄山ではなく、映画では違う名前になってます。で敬愛する先輩(現実では相沢中佐のはず)が代わりに暗殺をひきうける。このへんの詳細はどうもわかりません()。高倉健は昭和維新決行へ。

というわけで、寡黙な健さんがなぜか吉永小百合と一緒に暮らし、なぜかずーっと手をださなかったのに、決行の数日前には抱いてしまった。なぜなのか。籍いれてもらった「妻・吉永小百合」が処刑の少し前、ホロホロ泣きながら面会室で着物を着せかけ、シツケを抜きます。きれいだけど、理由不明の感動シーン。

要するに感動の大鈍作ですね。もったいないなあ。戦後35年にもなると、戦前の日本なら常識だった知識や感覚が切れてしまっているのかな()。特に軍人、兵士の描写・行動。脚本が悪い。監督が下手。単なるラブロマンスの背景をなんで二・二六にしたんだろ。

 

夢千代日記。酒宴主演の吉永より金魚とかいう芸者がよかった。樹木希林もいたかな。
(金魚は秋吉久美子だった)

斬殺の理由は、真崎甚三郎教育総監(金田龍之介)の更迭だといわれているようです。真崎、そんなに信頼があったんですかね。金田龍之介、映画の最後あたりでは保身に走ります。そうそう高倉健はたぶん安藤大尉がモデルでしょう。

昔だって、たとえば岡本喜八の独立愚連隊ものとか。あれは1960年代ですか。「動乱」とは20年の差がある。軍隊ものとしては破天荒な設定でしたが、あの頃はまだ旧軍の空気が感じられましたね。少年時代に読んだオール読物なんかも、まだ日中戦争や南洋を背景にした能天気な分隊もの小説がたくさん掲載されました。徴発とかピー屋とか、いろんな言葉を覚えました。

誰だったか「もう兵隊ものはムリだ」と詠嘆した監督がいたはず。エキストラ連中がみんな栄養たっぷりで色つやよくて、もう兵隊に見えない。兵隊はこんなふう・・というイメージが当時はしっかり残っていたんでしょうね。