宗谷と越冬隊の話

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

番組欄で発見していちおう録画。プロジェクトXで、前編後編の2本立てで20年以上前の制作らしい。「運命の船『宗谷』発進」「極寒南極越冬隊の奇跡」。

しばらく日時をおいてから見ました。うーん。うーん・・・・。

プロジェクトXだから仕方ないんですけどね。なんというか、浅い。お涙ちょうだい。男たちが 立ち上がった・・の単純化。理解はできるんだけど、かなり不満が残りました。

枝葉をとっ払って、要するにシンプルな英雄談にしたかったんだなあ。男たちが立ち上がってオンボロ宗谷を損得抜きで修理改造。そりゃ大筋は間違ってはいない。永田隊長と西堀越冬隊長の必死な努力とリーダーシップ。それも真実なんでしょう。子供たちが争って募金しただろうも事実。

souya.jpg当時の日本は三等国、四等国でした。欧米には徹底的にバカにされた。戦犯国。いじめられた。劣等感。だから南極観測は日本国中で猛烈に支持された。快挙ではあったけど、でも何から何までキレイごとじゃなかったはずです。

たとえば、宗谷。当時は海上保安庁の所属で、乗組員はとうぜん海保のスタッフ。乗っていた隊員とはけっこう摩擦もあったといいます。ま、タテマエは違いますが、そもそもの海保設立時のスタッフは元海軍の予備士官だったらしい。「ほとんど旧軍じゃないか!」と反発する左翼系の学者肌は多かったみたいです。なにしろ戦後まだ日が浅い。警察予備隊が保安隊になり、自衛隊に改組されてまだ3年しかたっていない。

ついてからも、安全に帰国させたい永田に対して、懸命に予定外の越冬を主張したのが西堀。ここもかなりピリピリしたといいますが、ま、テレビではとくにケンカにもならず、悩んだ末に永田が「わかった」と言っておしまい。

氷に埋めた食料を喪失してしまったのも本来なら致命的なドジです。ふつうなら越冬隊全員飢え死にもなりかねないんですが、なぜ生き延びられたのか。西堀の勧めでアザラシ狩って食料にしたみたいな雰囲気でおさめてましたが、ほんとうはどうだったのかな。(かなり予備を多めに計算していたから助かったともいいます)

また、ストーリーではなぜか落ちこぼれの隊員たちが何人もいます。これも「?」です。大多数が規格外の研究者やサラリーマンだっただろうとは予想できるけど、そんな「落ちこぼれ」が越冬隊員として選出されるのかな。

おまけに隊員が落ち込んでいると、何も言わない越冬隊長が、数日後に「ほら」と解決策を示す。魔法のように器具を手作りしてくれる。まるでスーパーマン、ドラえもんのワンパターン。

少し期待していた宗谷の立ち往生エピソードもずいぶんアッサリしていて、ソ連のオビ号とか米国のバートンアイランド号とか、なにも言及はありませんでした。このへんの事情、かなり詳しい解説を読んでも「詳細?」の部分がけっこうあります。はい。全国の少年たちは手に汗握りしめ、ラジオに耳をおしつけていたものです。

そうそう。犬ぞり隊がボツンヌーテン(1486m)に登ったこともカットでした。何年前か、テレビの南極物語ではキムタクがとにかく登頂に燃えていましたね。ほんとうに「研究目的だけ?」なのかなという気もします。冒険なのか、研究なのか。ま、そのへんはあまり追求しないほうが美しい。下手すると隊員3人遭難の危険もあったが、ま、犬ぞりの運用実績はできたし。

そして最後の最後。もちろんタロ、ジロのエピソードも省略です。観測の本筋と関係ないといえばそうですし、けっこう哀しい話だしね。なんで首輪を外さなかったんだ、とか。

実際には越冬隊の西堀隊長、全面的に引き上げる気なんかなかったらしい。全員がヘリに乗ったら観測の引き継ぎはどうするんだ。それもあって基地から宗谷への引き上げがかなり手間取った。まさかこれっきりで基地をたたんで日本に戻るとは考えていなかった。

いろいろあったんですね。けっして絵にかいたようにスムーズだったわけじゃない。で、プロジェクトXは、すべてを省略して、たからかに歌いあげる。だから高揚感はあるけど、でもねぇ・・。