河出書房新社★★★
中村文則の対談集。厚いです。えーと、444ページありました。重いです。
中身は「映画・音楽」「文学」「社会問題・テクノロジー」に分けられていて、「文学」はⅠ部とⅡ部、ふたつもある(※)。ま、作家ですからね。「映画・音楽」は桃井かおりとか綾野剛とかいろいろ。綾野剛はかなり中村文則が好きらしい。
社会問題の章は、かなり力が入っています。中村文則という人、ストレートに発信する人ですね。グネグネした文学者臭さ、晦渋がない。ただしそれとは別で、本人はやたら「純文学」という言葉にこだわっていたりして。純文学なんて言葉、見たのは数十年ぶりです。新鮮でした。
社会・政治で印象に残ったのは、韓国へいったときのこととか。ずいぶん大統領が逮捕されるんですねと向こうで聞いたら、はい民主化を経験してますから。キャンドルデモにも参加するんですかと聞くと「はい」ではなく「もちろん」という答えが返ってくる。そうか、彼らは民主化運動で軍政を倒した経験がある。自信がある。その点、日本とは大きく違うなあ。日本は自分たちの手で政権を倒したという経験がありません。薩長が勝手にやった。アメリカが勝手にやった。自分たちはかかわっていない。
そうそう、幻冬舎から本を出すということがあり(周囲からはやめろというアドバイス)。百田尚樹の「日本国紀」が騒がしかったころです。で、幻冬舎に対しては言いたいことがあったので、出向いていって見城徹に面会。会談そのものは「建設的だった」ものの、中村にとって意外だったのは、見城に対して直接文句を言いにきた作家は自分だけだったらしい...ということ、だそうです。
面白かった話。中高がいっしょだった漫画家(女性)がいるんですね。その漫画家が発見したというんですが、芥川龍之介、晩年に近づくにつれて文章に三点リーダーで増えてくる。「...」です。なるほど、すごい。新発見。
関係ないですが、中村文則、高校時代はこの女の子をふくめて、みーんな嫌いだった。そういう暗い少年。
※最後のほうでロシア文学の亀山郁夫との対談が5章続きます。これは読めませんでした。嫌いじゃないけど、うーん、よほどエネルギーがないとドストエフスキー論はつらいです。好きだった時期もあるんだけどなあ。パス。