「永井路子歴史小説全集 10 銀の館」永井路子

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konoyooba.jpg中央公論新社★★★

銀?でなんとなく匂うように、銀は銀閣。正式には東山山荘なのかな。ヒロインは日野富子です。

よく知らない人ですね。将軍義政の御台所。悪女。政治をとりしきった。利殖に長け、応仁の乱では東西両方に金貸ししたといわれる。ふーんという感じ。どうも実像がつかめない。

この本、ざっと800ページ。長くて重いですが、しかし案外すんなり読める。ま、有能で実際的な女性がたまたま権力を握ってしまっただけのことですね。亭主の義政というのが祖父の義満と違って自分の意志をもたない人間。面倒なことから徹底的に逃げる。責任を持たない。流される。ただ建築とか作庭にだけは強い関心がある。才能もあった。

で、義政がなにもしないので、富子はテキパキと仕事をする。意志があって地位があって有能な女です。みんなが頼りにする。滞りがちな取り立てもするし、おりしも貨幣経済の始まったころで、山名や細川に貸付をする。儲けるためというより両軍に恩を売るためでしょうね。愛する息子(義尚)のためでもあります。女だてらにバリバリやるのであとで「悪女」といわれる。ま、悪評はたいてい後世になってからでしょう。たぶん江戸時代あたり。

応仁の乱のことも本書でぼんやり理解できました。山名も細川も、そんなに本気で決着つけようとはしていなかった。将軍に仲裁する力もないし、気長に陣をかまえていた。よりによって京のど真ん中に居座り、やたら複雑な多数の対立関係と利害がぶつかって長引いてた。とばっちりで京の町は焼け果てたけど()、将軍も富子も公家も武将も、ほとんど気にしてはいなかった。

この本には書いてないけど、乱のあと、あいた所に周辺から新興住民が大幅に流入したらしい。入れ替わり。だからそれより古い「老舗」はめったにない。