みすず書房★★★
大学の一般教養で「授業に出なくても単位がとれる」と聞いて聴講した地学。精悍な助教授で、汚いジャンパー姿にゴム長はいて教壇に立っていたような。トンカチ持って採集のため山歩きばっかりしてるそうで、やたら休講が多かったです。魅力ある先生でした。
で、その助教授から最初の講義。いきなり大陸移動説を聞かされました。ウェゲナーです。移動説、中高の頃にも(少年漫画誌で)知ってはいました。ただ当時はまだ眉唾もので、諸説のなかのひとつにすぎない。面白いけどどうかねー、という程度。
それが数年で「ほぼ間違いなし」になったんでしょうね。この助教授から「日本列島はフォッサマグナで折れて、反時計回りに東半分が起き上がった」と聞きました。各地の石ころ叩いて地磁気の向きを調べていたらしい。フォッサマグナの東になると地磁気の向きが明確に変化する。地道かつ壮大だなあ。
で、本題。サルは大西洋を渡ったという話です。
大陸移動説の概略は「地球には巨大なゴンドワナ超大陸が存在した。やがて南半球にはパンゲア超大陸ができた。2億年くらい前ですね。その後パンゲアも分かれて、その一部がアフリカと南アメリカになった」です。(※)
なるほど、だから各大陸、生息する固有生物も異なる。オーストラリアには有袋類がいるし。なるほど。非常にもっともらしい道理なんですが、実は問題がある。その生物の枝分かれ時期と大陸の分離年代、大きなズレがあるんです。スッキリしてるわけじゃない。
たとえばアフリカと南アメリカの分離は1億年ぐらい前だそうです。数々の化石証拠からそういえる。しかしたとえば旧世界猿と新世界猿、分かれたのはたぶん4000年前ごろらしい。合わない。
いや古い大陸分裂とは関係なく、旧世界猿の先祖はベーリング海の陸橋を渡ってきたんじゃないかな。そんなら矛盾は生じない。はい。そうなら猿の先祖がえんえんと歩いたはずの北アメリカに、少しくらい化石や痕跡が残っていてもいいはずです。しかし、ない。ゼロ。
化石記録からは、北アメリカ経由で延々南アメリカに渡った証拠は得られない。
DNAなんかの分子年代の面からの推定では1億年前説が否定。そんなに古くない。
土の中のナントカかミミズ(忘れた)はもちろん海を渡れません。したがってアフリカと南アメリカにいる同種らしいナントカミミズは、大陸分裂の前からいたはずです。それが分かれ分かれになった。ところが、年代が合わない。このナントカミミズは大陸分裂の頃にはまだ存在していなかった。うーん。
こうなると、どんなに可能性が低く見えたにせよ、大昔、ミミズや原始サルは大西洋を渡ったんですね。そしてアフリカの猿と南アメリカの猿は別々の進化をたどった。狭鼻猿と広鼻猿。
この本、前半はかなりかったるいです。分断分布=大陸移動や陸地の分断による生物の分散。長距離分散(海洋分散)=海流や波、風などによる生物の分散。この違いをえんえんと説明する。かなりうんざりします。で、後半になってようやく少し面白くなる。
長距離分散は非常にまれです。しかし、まれには起きる(※)。クモだったら簡単に風に乗って移動します。トカゲは? トカゲは泳げません。でも海を漂っている小さな浮島や流木、けっこう生き物が乗っていたりします。空飛ぶ鳥の羽に小さな虫がもぐりこんでいるのは珍しいことではありません。意外な生き物が数キロくらいは平気で泳いだりもします。アフリカと南アメリカ、ずーっと広い海に隔てられていたとは限りません。中継基地になりうる小さな島があったこともあります。
長距離分散はたしかに可能性は低いでしょう。しかし「ない」と言い切るのい難しい。何千年もの期間、可能性の低いことが時折おきる。「サルは大西洋を渡った」と考えるのが科学的な考え方である。この本はそう言いたいようです。でも、ホントかなあ・・・。
※東日本大震災で流された家とか家具とか、カナダあたりの沿岸にけっこう流れましたね。そのままの形をたもったままのことも多かったようです。
※最初はパンゲアで、それが北のローラシアと南のゴンドワナになって、ゴンドワナがアフリカとか南アになった・・・と書くのが一般的なのかな。実際には複雑なようで、混乱しました。