「朝鮮戦争」児島襄

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★★★ 文春文庫
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文庫で全3巻。読みごたえがあります。

子供のころは「朝鮮動乱」という名称で記憶していましたが、正直、細かいことは知りませんでした。せいぜいシーソーゲームのように戦線が上下し、最後は板門店で休戦。途中でマッカーサーが解任されて日本を去った。日本経済の復興にとっては強い追い風だったし、日本の再軍備も促進された。ま、その程度です。


なるほど。当時の韓国、北朝鮮に比べると経済的にも軍事的にも超弱体だったんですね。米ソによって暫定分割支配された時点で、北側のインフラがはるかに勝っていた。軍事力もケタ違い。

で、朝鮮軍の全面侵攻にあっというまにガタガタになってしまって、一気呵成に釜山まで追い詰められた。ただしこの朝鮮軍、朝鮮語を話せない兵士が多かったと書かれています。要するに中国で編成された朝鮮族系が主力の軍だったらしい。

こうした国外編成の軍隊は、たぶん実戦経験もあり、装備も(韓国軍にくらべれば)良好。おまけに韓国内には金日成を支持するゲリラもたくさんいた。当時の李承晩政権、はっきりいってかなり酷かったようです。韓国がいいか朝鮮がいいか、民衆にとっては判断の分かれるところだったでしょう。金日成英雄神話もまだ健在だったでしょうし。

とういうことで国連軍は半島から駆逐されそうになったけど、マッカーサーの大博打である仁川上陸が成功して一気に挽回。そのまま中朝国境近くまで追い詰めたことろで待機していた中国(義勇)軍がウンカのように参入。共産中国もまだ建国して日が浅い頃です。装備はべらぼうに貧弱。雪の中、綿入れ服にトウロモコシ粉と食料油の瓶を持参して、ドラやチャルメラを鳴らしながら人海戦術で押し寄せる。武器は手榴弾や迫撃砲が主役。

アメリカは大統領トルーマンと東京のマッカーサーが犬猿の仲です。で、国連軍(実質米軍)は韓国軍を完全に馬鹿にしている。韓国軍もそれなりに頑張ったんでしょうが、実戦慣れしていないし、なんか「中国恐怖症」「戦車恐怖症」の傾向があったらしく、すぐ逃走する。バカにしてる米軍もやはり練度不足だったり考えなしの能天気だったりで、勝つこともあるけどあっさり敗走もする。

完全に制空権をもっていた近代装備の米軍(白人)vs人海戦術・劣悪装備の中朝軍(黄色人種)。なんか読み進んでいるとだんだん気分が悪くなります。休戦会談の頃、「北朝鮮の連中も韓国と同じ言葉をしゃべるのか」と聞いた将軍がいたらしい。今でもそうですが、唯我独尊のヤンキー、現地の事情にまったく無知な連中が多い。ベトナムでもイラクでもアフガニスタンでも、ずーっと同じパターンが続いている。善意でお節介をして、ちっとも感謝されない。むしろ嫌われる。

休戦会談の取材も、最初のうちは韓国メディアは許可されなかった。中国、北朝鮮、米国のメディアはOK。韓国は不可。必死に交渉してなんとか代表取材を許されたらしいですが、要するに韓国はそういう扱いだった。当事者として認知されていなかった。

ま、ドサクサ紛れにいろいろ発生した韓国政府や軍上層部の汚職腐敗、民衆虐殺の事例も多々あったようです。哀しいですね。こっちは正義、こっちは悪逆。そうキッパリ言い切れればいいんですが、現実は往々にしてゴタ混ぜになっている。そうそう。米軍の要請(実質は強制)で日本の海上保安庁から半島に派遣の掃海艇がやられたりして、日本人も死んだそうです。知りませんでした。

こうして戦争の流れをみると、いまの韓国はよくまあ復興したと思います。狭い国土、乏しい資源とインフラ。あいつぐクーデタ。ベトナム特需とか日本からの援助なども大きかったんでしょうが、とにもかくにも漢江の奇跡をへて先進国の仲間入りをした。

まったく同意はしませんが、韓国が何かというと日本批判をしたがる気持ちもわかる。韓国関係の記事なんか見るとやたら「恨」という言葉が出てきますね。長い間、ずーっと酷い目にあってきたし、国内も混乱続き。アメリカに対しても、世話になったけど恨みも残る。この恨みをどうしてくれようか・・・てんで、そもそもは李承晩でしょうが、わかりやすい反日恨日を標語にして国家をまとめようとしてきた。ほんの少し前まで軍政同様の統治だった国です。日本にとって非常に迷惑な話ではあるものの、人間、なにかプライドや支えを持たないとやっていられないのも事実でしょう。

それにしても戦後、分割統治されたのが日本でなくてよかった。北海道東部を占領とか、あるいは下手すると東北以北をソ連という可能性もあったようです。ソ連の千島侵攻がもう少し早かったら・・・米国の政策がちょっと違っていたら・・・などなど、いろいろなタイミングと偶然の積み重なりで現在の日本がある。ひょっとしたら「朝鮮戦争」の代わりに「日本戦争」だった可能性だって、ほんの少しはあったかもしれません。