「ブルー・ワールド」ロバート・R・マキャモン

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★★★ 文春文庫
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短編集。マキャモン自身はあまり短編が得意ではないようですが、決して出来は悪くありません。ちょっと奇妙な味の、ま、SFチックなテーストが多いです。

最初のほうに納められている「スズメバチの夏」。深南部のムシムシする夏、飛び回るスズメバチの群れ。寂れた田舎道のガソリンスタンドに寄った家族が災難に遭遇します。どんな災難かは、読んでのお楽しみ。ちなみに原題は「Yellowjacket Summer」。ふーん、黄色い上着ですか。

ミミズ小隊」もよかったですね。原題は「Nightcrawlers」で、南部ではミミズのことらしい。へんなタイトルですが、ベトナム参戦した部隊の名称ということになっています。ミミズみたいにジャングルの中を這い回る兵士かな。

で「ブルー・ワールド」は中編というか、ほとんど長編といっても変ではないボリュームです。サンフランシスコの教会の神父が告解にきた色っぽい女に惹かれてしまう。ところがその女は困ったことにあばずれポルノ女優だった・・・・。

米国では少数派のはずのカトリックですが、それでも国民の2割以上は信徒らしい。そして昔ほどではないにしろ、ある程度の信頼と尊敬を神父たちは得ている。日本の僧侶のようなものかな。いちおうは生涯独身だし、日本の僧より格が上かもしれません。そんな神父が白いカラー姿のまま場末のストリップ劇場に出かけていく。さすがに切符売りのオヤジも腰を抜かす。なかなか笑えます。

で、女に心を奪われてしまった若い神父は結局どうなるのか。いきり立つ股間を鎮めるためにひたすら冷たいシャワーを浴びる。どうも自分で触ることは許されていないらしい。思い出しましたが、大昔に読んだ今東光の「道鏡」かなんかでは、修行僧たちは夢の中の観音様を相手にして放出する。相手が仏様なら女犯破戒にならないという理屈のようです。で、左手の掌に放出したものを溜めて、お経を唱えながら水場まで歩いていって洗う。なるほどねぇと関心した記憶があります。なんせ本物の坊主が書いた小説だから具体的だ。

ま、それはともかく。肉欲に苦しむ神父ですが、負けそうになりながらもかろうじて堪える。自堕落で奔放なはずのポルノ女優が、実はなかなか良いキャラクターで、けっこう好きになります。いい本でした。

マキャモン シリーズはこれでおわり。