2017年7月アーカイブ

soredemosenso.jpg★★★★ 朝日出版社

先日読んだ「昭和史裁判」がなかなか良かったので、名前を覚えた加藤陽子氏の本を借り出し。

非常に優れた本です。歴史学者である著者が機会を得て5日間の授業を行う。相手は神奈川の進学校・栄光学園の中高生。ただしさすがに一般生徒ではなく、みんな歴史研究会のメンバーです。受け皿は超優秀なんですが、語り手もまた優秀。そして非常にわかりやすい。平易。

日清戦争から太平洋戦争まで。どうして日本はこの道をたどってしまったのだろう。戦争をやりたいと思った人はいなかったはずなのに、結果として戦争への道へ突き進んだ。なぜなんだろう。

書かれている内容の多くは既知のものが多いです。しかし所々に新しい観点が挿入される。新しい知識も披露される。また語り手(加藤陽子)は可能な限り中立公正の立場を保とうとしているのがわかります。中高生相手なんですから、あっちの方へ引っ張ることもこっちのほうへ導くことも易いはずですが、それを抑制している。当時の日本の国内にもいろんな立場や考え方があった。世界を俯瞰しても、やはりいろんな国があり、いろんな事情がある。仕方なかったんだ!と弁解するのも違うし、完全に日本だけが悪い!と言い切るのも少し違う。

個人的に「へぇー」と思ったこと。

太平洋戦争の開戦前、日独のもっている戦力は英米をはるかに凌駕していた。要するに強かった。だから「緒戦は勝てる」という考えには一定の合理性がある

パールハーバーの米艦隊が安心しているのには理由があった。湾の水深は12メートルと非常に浅くて、雷撃機から落とした魚雷はみんな底に突き刺さってしまうはず。こんな浅い海に魚雷を落とせる雷撃機は存在しない!(しかし海軍は月々火水木金々の猛特訓。不可能を可能にした)

米国が参戦しないだろうという楽観論にも、実はかなりの根拠があった。仏印に攻め込んだくらいなら、米国は黙っていてくれるだろう、たぶん。それが国内の意見の大勢だった。

リットン調査団の時点ではまだ妥協解決の道があった。うまくしたら満州に権利を確保したまま平和になれる可能性もあった。(それをブチ壊したのは陸軍が開始した熱河省侵攻作戦。これが理由で国連脱退に至る)

松岡洋右は「欲張るな、腹八分がいい」と進言している。欲張る=連盟と対立してまで満州の利権にこだわること。連盟脱退の立役者=松岡洋右というのはかなり可哀相な誤解である。

日本軍には補給の思想がなかった。派遣した軍隊に飯を食わせ続けるということを真面目に考えていなかった。また戦争中、日本の生産力は激減したが、ドイツなどはむしろ増えている(それでも足りなかったが)。日本軍は必要な人材だろうがなんだろうが、どんどん兵隊にして無駄に消耗させた。戦争も終盤になってようやく反省が出てきたが遅すぎた。

日本の死傷者の大部分は戦争の終盤に集中している。実はマリアナ、パラオあたりの海戦で徹底的に負けた時点でもう戦争は挽回不可能。敗北が確定していた。1944年の6月です。以後はすべて無駄な悪あがき。無意味に国民を殺してしまった

そうそう。本筋ではないですが当時の「皇道派」を「社会主義革命を目指した隊付将校」と断言しているのが新鮮でした。モヤモヤがスッキリした。目標は天皇親政による社会主義です。で、そうではない「ふつう」「中央エリート」がなんとなく統制派と言われた。

なんで若い軍人が社会主義を目指したかというと、農民を代弁する政治家も政党もなかったからです。みーんな自分たちだけの儲けに走って、疲弊農民について考える人がいなかった。それで軍人が(本筋ではないにせよ)その役目をになった。になうべきと考えた。なるほどです。



★★★ 幻冬舎
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ちょっと前、映画になってましたね。たしか主演は役所広司に大泉洋、小日向文世などなど達者な連中でそれなりに面白かった記憶がありますが、三谷ドラマの特徴でしょうか、常に「やりすぎ感」がある。

柴田権六が庭の七輪でパタパタ海産物を焼く、武将たちが難波歩きでレースする。訳のわからないクノイチが跳躍する。困ったもんだ。そうそう、剛力彩芽の白塗り引眉姫も新鮮でした。

ま、そんな映画の原作というか、数年前に書いた(かなりまっとうな)小説がこの「清須会議」です。

意外や、読後感は悪くないです。それぞれの武将たちのモノローグ形式で進行するんですが、うん、映画ほどのズレた悪ノリ感はない。内容というかエピソードも少しずつ違っていて、たとえば砂浜でのレースはなくてその代わりにイノシシ狩り。信雄はもちろんアホですが、技術オタクというわけではなくて、手回し扇風機を発明してはいない。秀吉はもっと悪党だし、奥さんの寧はかなり素直な性格(寧が語る章はけっこういいです)。

こうした原作を材料にして、監督・三谷が更に悪ノリしたのが映画なんでしょうね。悪ノリしなければよかったのに。


昨日の予算委員会、民進の桜井が山本地方創生を罵倒したシーンがいちばん受けた。

なんというか、トラとかサイ、ワニと対峙するつもりで身構えていた桜井の足元を、予期せぬ大ウナギかなんかがニョロニョロ這い回る。生理的にゾーッとしたんだろうな。それで「くるな!」「出て行け!」という叫びになった。

あれは心の底からの嫌悪だったと思います。政治家らしくない対応ではあるけど、仕方ないよね。

★★★★ 文藝春秋
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太平洋戦争の真の責任者は誰だったのだろうというテーマです。ただし軍人をリストアップすると(当然のことながら)候補が多すぎるのであえて民間人に限定。さらにグググッと絞って広田弘毅、近衛文麿、松岡洋右、木戸幸一の4人とオマケで天皇。はて、彼らは有罪か情状酌量の余地ありか。

半藤一利がいわば検事の役割でまず難詰します。それを加藤陽子がなるべく弁護する。加藤陽子という人、文藝春秋なんかでよく活躍している歴史学者だそうです。日本の近現代史が専門。

で、内容ですが、想像していたとおりですね。まず広田弘毅は決して無実とはいえないようで、戦争突入の責任がかなりありますね。半藤ジイさんは「広田って気分的には軍人だったんじゃないかな」。要するに城山三郎さんが「落日燃ゆ」でちょっと持ち上げすぎ。それほど見識ある人物じゃなかった。

次に近衛文麿は、まあ想像通り。天皇の前で足を組みかねないほどの格で、頭も切れるし実行力もあるはず。なのに、肝心な場面では何もしない。本人なりには構想があるらしいんですが、なぜか間違ったことばっかりやる。そしてすぐ逃げ出す。要するにお公家さんです。徳川慶喜みたいな部分もある。一見すごいのに結果が伴わない。信念と覚悟がない

定番の松岡洋右。みんなが非難するほど悪いやつではなかったかもしれない。悪名高い国連脱退も三国同盟も、すべての責任を松岡にかぶせるのはすこし酷。性格が性格なんで誤解されるのも仕方ないし、実際天皇にも嫌われた。ま、だからといって同情すべきタマでもないようですが。

そして木戸幸一。私、この木戸についてはほとんどイメージがありませんでした。なんか静かな老人という雰囲気でしたが、写真をみたらだいぶ違いますね。ひそかに「野武士」と豪語していたらしい。木戸孝允の孫で役人出身で背が低くて天皇の側近で、たぶん非常な策謀家。で、ゴルフばっかりしていた。


読み終えて感じたのは、当然のことながら人物も動きもグタグタ錯綜して、時代は複雑怪奇だったんだなあということ。軍部が独走して政治家が小心で、だから戦争になった・・・なんて簡単な話にはならない。

たとえば外務省の主流は対米強硬派で、日米交渉にあたった野村吉三郎を邪魔し続けた。周囲や部下が妨害して交渉がうまく運ぶわけがない。一時期ですが、陸軍よりも海軍よりも外務省が強硬だったこともある。また新聞も雑誌もいい気になって行け行けドンドン囃したてて、軍も政府も迷惑するほどだった。ただし末期になると、逆転して締めつけの対象になったけど、身から出た錆。だからこの連中が「過ちは二度と繰り返しません」なんて言っても、けっして信じないほうがいい。

陸軍は皇道派と統制派が争い、政府にとって実は「陸軍の対ソ強硬派がムチャするんじゃないか」がいちばん心配だったらしい。もしソ連がシベリアから軍を西に移動させる動きになったらすぐドンパチ始まったかもしれない状況だった。ということで陸軍の強硬な北進論を中和させるために、政府は南進論を許容した。結果的に両論併記。もちろん最悪です。

そうそう。日本の方向を決めてしまった感のある三国同盟ですが、あれの本質はドイツと組むというより「英国が負けてからの戦後処理」にあった。太平洋、東南アジアから英国が撤退したあと、ドイツと権益を争うのはまずい。そこをスンナリさせるための同盟だった。ま、そういうタヌキの胸算用が三国同盟。要するに「カネメでしょ」が本筋。

開戦までの間、実は中国から手をひいてゴタゴタをおさめる機会は何回かあったようですが、常に問題になったのは「英霊に申し訳ない」。要するに賠償金なりなんなりのお土産が得られるかどうかです。お土産ナシじゃ引っ込みがつかない。近衛や天皇までそういう気分で、少し景気のいい状況にしてから和平を提案しようという構想。みんなそういう考えなので、ズルズルズルズル続いてしまった。それでも昭和16年の11月初めまではまだ戦争を避ける道筋がかろうじてあったらしい。

軍人、政治家、役人、みんなが勝手な構想を描いて、勝手に動く。けっこう情報も握っていたんだけど、いろいろ思惑があるため握りつぶして共有しない。みんな少しずつ度胸がなかったり、少しズルかったり、意志が弱かったり、勘違いしていたり。そうした「スベテ」の結果が12月8日開戦であり、4年後の敗戦につながった。

それはそれとして、読み終えて「こいつが一番悪い」と感じたのは木戸幸一ですね。目立たないけど、暗躍している。

木戸幸一。天皇といういちばん肝心な部分の情報ルートの玄関番をやって、情報栓を恣意的に調節していた。本人的には「すべてお上のため」なんでしょうが、なんか動きが常に怪しい。で、そうした情報操作や組織・人事は後になってものすごく効いてくる。東條英機なんてのを引っ張りだしたのもやはり木戸幸一。キーマンでした。ちなみに東條英機は単なる生真面目で融通のきかない人間のようです。重要な時期に重要な地位につけてはいけない官僚軍人の典型。

長くはないけどなかなか面白い本でした。

これと一緒に莫言の「酒国」、賈平凹の「廃都」も借り出してたんだけど読みきれず。暑さでボーッとしているうちに期限がきてしまった。またの機会を待つか。


14日朝日の風刺漫画。山田紳さんの絵だったけど、安倍くんが砂浜で高楊枝で寝ころんでいる。頭上のテントには「改造思案中」なんて書いてある。はるか上空から支持率の大波が襲ってくる。能天気でいちおうは気分よさそうな安倍くんだけど「出るけどさぁ、なんかイヤな予感がするんだ」とか呟いている。なんか感じとってるんでしょうね。

やはりそう思ったか。帰国した安倍くんが強気に(うん、さすが。男らしいぞ)閉会中審査を受けることに決め、二階幹事長に指示したらしい。ほんの数時間前まで国対で「ダメだ!」と言っていた二階なのでちょっとメンツを失った形。

自分が登場してペラペラしゃべればあんな連中、すぐ納得する・・・と考えたんだろうね。安倍くん、なんか決定的に大きな間違いをしたような気がします。

★★ 東方書店
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東方書店という版元、名前だけは知っていたし神保町店舗の前を通ったこともあるはずですが、発刊の本を実際に読むのはたぶん初めてです。

内容は世界各地でおこなった莫言の講演集。語られているのは例によって例のごとく、貧しく飢えていた少年時代とか、作家になって三食ギョウザを食べたいと思ったとか。金が入ったら腕時計と革靴買って、故郷の街で女の子にみせびらかしたいと思ったとか。

そうそう。新しいことといえば、本人が「酒国」を最高傑作と自負しているらしいこと。たしか初期の本ですよね。へぇーと驚いたので、さっそく図書館で閉架の酒国を予約しました。なぜかこれを読み残していた。

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