「文人暴食」 嵐山光三郎 

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マガジンハウス ★★★★

boushoku.jpg拾い物だった文人悪食の続編。妻が前編「悪食」と間違って、新刊の「暴食」を借りてきてくれた。

「悪食」の方では既にメジャーの漱石とか鴎外などを使ってしまっているので、こっちは少し格落ちの八雲、逍遥、四迷、独歩、虚子、犀星などなどの連中。格落ちといったって、錚々たる作家たちですよね。

テーマ(暴露された食生活)も面白いんだけど、でも要するに嵐山さんの書き方、切り取り方が上手なんですよね。この続編を書くのに八年だか十年かかったと記してありましたが、それも理解できる。あるいは代表作といっていいかも知れないです。ほかに嵐山って、どんな本、書いてたっけか。

この本では常にその作家の体型や容貌、食べ物の嗜好や量など、具体的なものから迫っていきます。だから説得力もあり、実に意外性がある。たとえば徳富蘇峰と蘆花、なんとなく蘇峰は豪快な快男児で蘆花は繊細な民衆派みたいな印象があるけど、実際には逆転。蘆花ってのは腕力モリモリの巨漢で、豚のような大食漢でおまけにウジウジした嫌な野郎だった。

鈴木三重吉には笑えました。漱石門下。童話の「赤い鳥」創刊で有名な人です。なんとなく眉唾な気持ちを個人的には抱いていましたが、やっぱりそうだった。大酒飲みで、からみ酒で、お山の大将になりたいタイプ。でも傲慢かつ独りよがりでみんなに嫌われた。仲のよかった白秋とのケンカが致命的で、我慢できなくなった白秋が離れた結果、この赤い鳥は衰退します。

芥川の原稿(蜘蛛の糸)を添削したというのもすごい。さすがに周囲が「そんなことしていいのか」と咎めたけど「いや、芥川といえど子供向けの文章はウニャウニャ・・」と、平気で赤を入れた。

若い頃の川口松太郎。こういうタイプは大っ嫌いだから我慢できず、なんかの時に突っ張り棒かなんかで三重吉をさんざんぶん殴ったこともあるらしい。三重吉、偉そうにしている割りにはケンカは超弱かったそうです。

そうそう、芥川の「葱」のモデルは宇野千代と今東光だったんですね。「オレとデートしてるのにあいつ、ネギなんか買いやがって」と東光がボヤいたのを聞いて、あの短編が生まれた。宇野千代ってのは男も好きだったけど、食べることも好きだったし料理に工夫するも好きだった。長生きした人です。