「天地明察」 冲方 丁

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★★★★ 角川文庫

この本の評判は知っていました。そのうち機会があったら読みたいと思ってはいました。たまたま新聞広告を見たら文庫化されたらしい。さっそく購入。

面白いです。主人公の渋川春海、私にとっては安井算哲という名前のほうが馴染みがあります。江戸初期の碁打ちで、天才・本因坊道策と同時代の人。で、その春海が算術にのめりこみ、なぜか暦の改訂という大仕事をまかせられる。

独自に微積や行列の概念も持っていたといわれる和算の大天才・関孝和も同年代なんですね。で、若い春海は算額(絵馬に書かれた数学問題と解法)で関の天才ぶりを知ってしまう。感動もしただろうし、嫉妬や劣等感もあったでしょう。おまけにお決まりの若い娘も登場して、これもいろいろ絡んでくる。この娘のキャラ設定もなかなか味があります。

ま、当時の幕府中枢、酒井忠清(雅楽頭)とか保科正之、はたまた水戸光国、みんなに期待されて800年前に作られた古い暦の改訂事業の責任者になってしまいます。古い暦、けっこうズレが生じていたらしい。それに太陰暦ですから、暦を作るといってもいろいろ難しいんでしょうね。それに暦は天の理をあらわすものなんで、そもそも天皇の管轄。代々担当の公家さんだって利権侵害されちゃ困るから新しい暦なんて大反対だし。

などなど、非常に楽しく読めました。時代小説には珍しく悪党も殺傷も切腹もない。ただし囲碁のシーンなんか、ちょっと( ?)という部分もありました。城中で後輩の道策が春海に碁の勝負をいどむんですが、その道策、勝手に白石を持ってしまう。???です。非常に無礼な態度だし、こういう態度を先輩同業者の春海が許すわけがない。(たぶん、著者は囲碁をやった経験ないと思います)

許したらなんといいますか、公式にある種のランク付けを許容したことになってしまうはずです。個人の問題ではなく、家の格式の問題。まるで大河のアホ盛が「タマコ様の首を締めたのはオレだということにしてくれ!」と堀川に頼むようなもんです。個人的にはかまいませんが、もしそうなったら平氏一門ぜんたいの大問題、大責任。個の問題と家の問題を安易に混同しちゃいけません。

などなど。細かく書かれた前半部分に比して、小説後半が妙に駆け足になった感はありますが、仕方なかったのかな。いちおう主人公の行動は文献など資料に沿って設定してあるようだし、そのへんは材料不足だったのかもしれません。

別件ですが、角川の文庫ってのはどうも感心しません。余裕で1冊にできるボリュームなのにわざわざ薄い分冊にして、行間はたっぷり空いている。おまけに表紙カバーの紙質が悪いから、すぐ反り返ってしまう。かなり哀しい状態です。

うーん。深読みすると、分冊とか行間とかは、本を読み慣れない若い読者向けなのかもしれません。厚くて重いのなんか買うかよ!ということ。でも軽くてスカスカで高くて粗悪表紙のほうが歓迎されるんでしょうかね。不審。