「夢熊野」紀和 鏡

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★★★ 集英社

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何年か前に読んで面白かった記憶あり。閉架から借り出して再読。

話は飛びますが前に出雲へ行った折り、どこかの神社に(忘れた)八百比丘尼がなんとかしたという松がありました。案内板読んで「へー、はっぴゃく比丘尼が・・」と思わず言ったら案内してくれてたタクシーの運ちゃんが「はい、やお比丘尼」とにこやかに訂正。あれ、『はっぴゃく』じゃなかったのか、でもなんとなくそう覚えてたんですけどね。ま、正しくは「やお」であっても不思議はない。教養のなさに赤面しました。

その後、あらためて調べてみたら、ほんとうは両方の読みがあって、地方によって違うらしい。恥ずかしがる必要はなかった。たぶん手塚治虫の火の鳥かなんかで「はっぴゃく」と覚えたんだろうな、きっと。

でまあ、その八百比丘尼みたいな女が熊野にいた。なんせ熊野ですから、魑魅魍魎、なにが棲息していたって不思議はない。で、その女、神武天皇東征の頃にさかのぼるニシキトベとかいう人やら地神やらの系譜で、おまけに源為義が熊野の別当の娘に生ませた子供。為義いうたら小日向文世ですわな。テレビとは違って盛んで全国あちこち現地妻がいて、子供もたくさんいた。

で、その熊野妻も八百比丘尼で、その八百比丘尼と為義の間に生まれたのがヒロインの鶴姫。たずひめと読みます。為義の娘ですから義朝の妹、八郎為朝の姉、頼朝義経の叔母。おまけに美人で活動的でニシキトベの末裔で強力な巫女の血筋。熊野の湛増やらなんやらとも友達で、海賊の親分とも子供の頃から仲良し。おまけに熊野別当の妻で、いつまでも若いんで、後でまた別の熊野別当とも結婚している。

人間だけでなく鬼にも好かれます。神隠しにあって、子供まで孕まされてしまう。ほんと、すべてがこの鶴姫を中心にまわってるみたいで、清盛も重盛も振り回されます。

こんなふうに粗筋だけ書くとアホ臭くなりますが、文章・叙述は非常にきっちりして、ちょっとジェンダー差別みたいですが、女の人が書いた小説とは思えません。乾いていて、ベッタリしていないんですね。

そうそう。分厚い小説ですが、悪人は登場しません。人界を超えた「悪」は存在しますが、人間には悪人も善人もいない。熊野三山を舞台としたいわば政治小説、歴史小説。保元平治の中央激動の時代を熊野が必死になって生き延びようとする物語です。

作者の名前、なんと読むのか知りませんでした。紀 和鏡(きい わきょう)と思い込んでましたが実は 「気は狂」だそうです。名付けたのは亭主の中上健次。「気は狂」の女流伝奇作家が書いた、大昔の熊野のお話。鶴姫(丹鶴姫)伝説、じっさいにあるようですね。平安装束で出てきて子供をさらうこわーい女。なんでも後では世話した頼朝から土地をもらって女地頭にもなったとか。