「ポリティコン」 桐野夏生

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★★★ 文藝春秋

politicon.jpg桐野夏生って何か読んだことがあるかなとブログを検索してみたら「メタボラ」がありました。なるほど。あれにも沖縄の怪しげなコミューンが出てきました。うさんくさいカリスマ男が青年たちを安く使って集団生活をしていたり。この「ポリティコン」と共通部分が多いです。

「ポリティコン」の舞台は山形の小さな集落、いわゆるユートピア的共同体です。こうした集団生活は武者小路の「新しき村」が有名だし、詳しく知りませんが戦後にも同じようなものが誕生しています。

で、この理想郷の発起人である有名文筆家と彫刻家はとうの昔に亡くなり、好き勝手にやっている二代目の困った理事長も年老い、いまでは若い世代がほとんどいない。理想郷の実際運営はどう考えても大変です。比較的若い連中がほとんど奴隷状態で必死に働くしかない。

そんな村へ居場所のなくなった疑似家族が逃げ込んできます。北朝鮮から脱出してきた雰囲気の女、正体不明の男、小学生と孤独な女子高生。女は二人とも美人だったんで老理事長に気に入られ、うまく村にもぐりこんでとりあえず安住の地を見いだした格好ですが、それでも生活は苦しい。

ストーリーはこの少女と、二代目理事長の息子(三代目理事長)を視点者として進みます。少女はお洒落したい盛りですが、とんでもない貧乏生活。なんとか大学へ行って抜け出したいけど、お金の目処がつかない。絶望です。

理事長の息子も朝から晩まで鶏を相手の作業。毎日飽き飽きするような食事をとり、夜は焼酎を飲み、たまに女を求めて近くの町へクルマを走らせるだけの生活。とにかく金がない。悲惨です。

この理事長の息子、野心と嫉妬心の固まりのような男です。女という女はすべて自分のものにしたい。ひたすら強欲で利己的。完全に嫌われるタイプですが、あまりに露骨なので、むしろ可愛げが感じられるほど。本人としてはその都度、自分に誠実に行動しているということなんでしょう。

もちろんこんな設定なら、ユートピアが破綻するのは当然ですわな。ディストスピア。若いのも年寄りも醜く争い、ハチャメチャになる。あらためて、人間同士が理想を持って集団で暮らすコミューン、実際には難しいよなあというのが感想です。

ただ、いちばん最後の決着のつけ方は、あんまり納得できなかったです。たぶん、この理事長の息子というキャラクター、作者の意図したほどの共感を読者から得ることには失敗した。