「光圀伝」冲方 丁

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★★ 角川書店

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天地明察」を読んだ後でこの本のことを知り、買おうかなと一瞬は思ったこともあります。買わなくて正解。なんせ分厚くて高価で、えーと消費税アップで2052円。それほど高くはないか。

そこそこは面白いです。水戸光國(圀)という人物、家康の孫ですが逸話ばっかり多くて正確な事績をよく知らない。大日本史の編纂を始めたとか、犬皮を綱吉に献上したとか、家老を成敗したとか、明の遺臣を厚遇したとか、その程度。ちなみに犬皮献上で綱吉の勘気をこうむったというのは俗説で、かなり信憑性は薄いらしいです。この「光圀伝」でも否定されています。

家老刺殺からお話は始まります。なんで能衣装を着た光國が自ら家来を成敗したのか。その疑問は最後の最後になると明かされますが、はて、なんといいますか・・。

通してのテーマは「大義」ということになるんでしょうかね。水戸家の三男(実質次男)がなぜ跡目を次ぐことになったのか。そこから「義」の問題が発生する。ややこしい人です。というわけで最初から最後まで「義」が絡んできて、正直、かなりうっとおうしい。

えーと、光國というのは猛虎、あるいは熊みたいな人間らしいです。戦国の臭いを濃厚に残す武人。生涯に手ずから何人も人の命を絶っている。なおかつ激情家で詩文が好きで儒学に入れ込み、経済的に不自由のない御三家の世子として育った。良き父親母親兄弟親戚に恵まれ、世間の評判もよくて権威も持ち、それを行使することに遠慮もなかった。

一種の偉人ということになるんでしょうか。少し前に生まれていれば戦国の英雄になったかもしれないし、あるいは早々に滅びたかもしれない。もっと後に生まれていれば、たとえば吉宗に反抗した尾張宗春のように幕府にこっぴどく弾圧されたかもしれない。幸いまだ戦国の余韻がかすかに残り、御三家の権威が保たれていた時代に生まれ、理想を追って好きなことをして藩の予算を使いまくって、ま、惜しまれて死んだ。

冲方作品らしく、登場する人物のキャラはくっきりしています。ストーリー展開もわりあいシンプル。宮本武蔵とか沢庵和尚も出てきますが、違和感はありません。けっこう楽しめる部分も多かったのですが、なんせ主題が「義」なんで、この点だけが疲れました。