「モスキート・コースト」 ポール・セロー

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:
★★★ 文藝春秋
mosquitoc.jpg
父親と少年。いわゆる成長物語のジャンルでしょう。

父親は資本主義的な商業経済の風潮に強い反感をもっている。なんでも自分の手で作り上げたい。実際、なんでもやれる万能大工、発明家、技術者。現代版のロビンソー・クルーソー。強い意志をち、奥さんと子供4人を引き連れてホンジュラスの奥地へ移住を決意します。

ホンジュラスとかコスタリカとかって、メキシコの南の方の小国です。湿気があって貧しくて、ものすごい熱帯ジャングルのイメージがありますね。逆にいうと、文明に汚染されていない。考えようによっては天国。

ただし、その父親は間に合わせの粗末な小屋で、地面に寝っころがる原住民のような生活はしたくない。現地人みたいに木の実を採取したり、栄養価の偏ったキャッサバを食べたりすることは拒否する。そんなものを食べるくらいなら飢えたほうがいい。で、手際よく住居をつくり、水洗式トイレのシステムを構築し、畑をつくって用意した新品種の野菜や穀物を植える。大規模な製氷機もつくって熱帯の商品流通を改善しようと試みる。

要するに、自分の理想にかなった文明的な生活を志しているわけです。

非常に強い意志とリーダーシップの持ち主です。他の人間がすべてアホに見える。アメリカは破綻して滅びる(いや、すでに滅びた)と信じ込んでいる。ついでですが、のべつまくなしに大声で自分の見解をしゃべりまくる。けっして他人の意見を聞かない。そうした強権的な父親にずーっと盲従してきた少年は何を考えるか。どうやって自分自身を取り戻そうとするか。

題名のように、ひたすら蚊と泥濘とジャングルのお話。この小説の映画化はあまり成功しなかったそうですが、ま、当然でしょうね。暑苦しい。汚い。父親の饒舌がうるさい。

ま、そういう小説でした。ポール・セローの小説はだいたいそうですがが、あまり爽快感のない展開と結末です(旅行ものはまた別)。強いていえば子供たちの会話や、やりとりに味がある。このへんはいかにもセロー。


ホンジュラスからニカラグアのカリブ海側を「モスキート海岸」というんですね。知らなかった。湿気の多い沼地の連続、いわゆる熱帯雨林みたいです。