「地を這う魚』吾妻ひでお

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★★★ 角川文庫

chiwohauuo.jpg本棚からなんとなく抜き出して再読・・・再々読くらいでしょうか。

吾妻ひでおが迷いながらアシスタント修行、少しずつ商業誌にものせてもらえるようになりかけたころの自伝というか、風景というか。吾妻ひでお流のマンガ道。きっちり描かれた絵です。

最初にアルバイトしていたのは大きな印刷工場(たぶん大日本か凸版)。班長に尻を叩かれながら「奴々の型抜き」とか「ぐずり梱包」の作業をする。奴々は噛みつくし、ぐずりはぐずる。吾妻クンは仕事の要領が悪くて、ま、逃げ出します。そしてマンガ立志の連中と共同生活しながら、馬のいててどう太郎(板井れんたろう)のアシスタントに採用してもらう。採用されたけど給与が安すぎて喰えない。

いてて先生、とくにケチというわけじゃないんです。でも仲間に聞いたら「相場は3万円」と言われたんで、オレ、払いすぎてたんだとさっそく採用。ただしこれは泊まり込み飯付きの給与相場です。そのへんをいてて先生もよく知らない。吾妻くんも若いんで「安すぎます」という勇気はない。

途中でアポロ11号の月面着陸の話が出てきます。とすると昭和44年ですか。だいだい同じ時代、こっちも留年したりバイトしたりでゴロゴロしていました。だから描かれている貧しさとか汚さとか空腹とかは共有している。青春は腹が減って貧しくて汚くて、でも希望があった・・・とかあちこちで定番セリフになっていますが、あのころの青年たちに希望なんてあったのかなあ。そんなもの、なかったような気がします。

ま、吾妻ひでおのマンガが好きな人ならお勧めです。最初から最後まで擬動物化というか、自分と女の子以外のキャラはみーんな動物、あるいはロボット。常に空には巨大なサカナが泳ぎまわり、電柱には爬虫類がしがみついています。妖怪変化の心象世界。